インフレを気にしている買い物客は、カプセルピース、すなわち多用途で耐久性があり、さまざまな機会に合わせて使えるベーシックなアイテムを使い、クローゼットをシンプルにしようとしていることが、スタイリングサービスやリセールサイトのデータから明らかになった。スティッチフィックス(Stitch Fix)の2024年のスタイル予測(2024 Style Forecast)によると、クライアントの88%は、新年に試す可能性がもっとも高いトレンドとして、ニットやベーシックトップスなどの「ワードローブビルダー(wardrobe builders)」に言及している。スティッチフィックスでは、ボタンダウンの需要が前年比21%増だった一方、ソリッドスタイルの需要は前年比で100%増加した。米モダンリテールに提供されたデータによると、ポッシュマーク(Poshmark)ではストレートレッグジーンズの注文が前年比で16%増加した。一方、TikTokでは、#capsulewardrobeというハッシュタグが付いた動画が20億回も再生され、そこではユーザーがさまざまなコーディネートを試している。カプセルワードローブの発想は、1980年代にデザイナーのダナ・キャラン氏が昼から夜まで対応できるようにデザインされた「セブン・イージー・ピース(Seven Easy Pieces、7つの簡単なアイテム)」というコレクションを発表したときからあったものだ。このコレクションにはボディースーツやスカート、そして「何らかの皮製品」が含まれていた。それから数十年間にわたって、高級ブランドは独自のカプセルワードローブを発表してきた。しかし、この15年ほどのあいだに、カプセルワードローブはあらゆるタイプのブランドやレーベル、生地のベーシックアイテムや既製服を含むように変化してきたと、元デザイナーでリセールおよびレンタルプラットフォームのリスーツ(ReSuit)の創設者であるナダ・シェファード氏は米モダンリテールに語った。

1着あたりのコストを最大に有効活用する

いま、新しい世代の買い物客は、自分のクローゼットのベースとなる、費用対効果の高いコアなアイテムを探している。自由裁量の買い物を控えなければならない人々にとって、カプセルワードローブを使えば新商品を探して店舗に行く回数が少なくなるし、すでに持っているアイテムも最大に活用できる。全体的にはインフレが収まりつつあるものの、労働統計局(Bureau of Labor Statistics)によるとアパレルの価格は2022年12月から2023年12月のあいだに1%上昇した。カプセルワードローブは通常、黒色、白色、肌色など無彩色で、フォーマルでも普段着でも着られる「ヒーロー」アイテムを中心に作られる。これらの「ヒーロー」アイテムは、柄入りのアクセサリーや、シルク、カシミヤ、スエードなどの生地を組み合わせることができる。例を挙げると、黒色のTシャツ、クリーム色のパンツ、ストレートレッグのブルージーンズ、黒色のブレザー、青色のボタンダウン、レザーパンツだ。TikTokで8万近い「いいね!」が付いた動画のひとつでは、3着のボトムス、3着のトップス、3足の靴からなる「3-3-3」方法をおすすめしている。スティッチフィックスのスタイリストであるアリシア・ロイド氏は、カプセルワードローブで重要なのは効率性だと語る。「カプセルワードローブで大切なのは、クローゼットの中身を減らすことではない。肝心なのは、1着あたりのコストを最大に有効活用することだ」と、同氏はメールで米モダンリテールに語った。指針となるルールは、「自分個人のスタイルに一致するセレクションを厳選し、3倍の価値がある多用途なアイテムを揃えることだ」と、同氏は述べている。たとえばスティッチフィックスは、ボタンダウンをタックインなし、タックインあり、ハーフタックインの3通りで着ることをクライアントに勧めている。

スティッチフィックスの動画では、シャツの着こなしを3通りのタックイン方法でアドバイス

高くても長く着られるアイテム

しかし、カプセルワードローブはスタイルに関して柔軟なだけではなく、価格においても柔軟だ。たとえば、白色のTシャツが欲しければ、H&M、シーイン(Shein)、ターゲット(Target)などの店舗から10ドル(約1460円)以下で買い求めることができる。もっと高価で高品質の品が欲しいなら、トーテム(Toteme)やケイト(Khiate)、ザ・ロウ(The Row)などのラグジュアリーブランドでも購入できる。これらのブランドでは、Tシャツが通常145ドル(約2万1200円)から300ドル(4万3800円)で販売されている。ポッシュマークは、投資するに値する後者のようなアイテムに特に関心が集まっていることに気づいたと、マーチャンダイジングとキュレーションの責任者を務めるクロエ・バファート氏は語る。ポッシュマークでは、クワイエットラグジュアリーブランドであるトーテム、ケイト、ザ・ロウへの注文は、2022年12月から2023年12月までのあいだにそれぞれ118%、127%、41%増えた。また、ポッシュマークでは、カシミヤ100%の商品への注文は2023年6月から2023年12月までに284%と急増し、同じ期間にアルパカニットへの注文も264%急増した。同様に、スティッチフィックスの多くのクライアントは、購入価格が高くても長く着られるアイテムを求めていると、最高マーチャンダイジングおよびクライアントサービス責任者のロレッタ・チョイ氏は米モダンリテールに語った。しかし、どのような価格帯でも「クライアントの大部分は良質な必需品となるアイテムを求めている」と、同氏は話す。同社の新しいプラットフォームで、顧客が1点物のアイテムを購入できるフリースタイル(Freestyle)には、「コーディネートを完成させよう(Complete Your Looks)」というセクションがあり、ローファーとパンツやスカートの組み合わせなど、アイテムのさまざまなな着こなし方法を紹介している。今日のカプセルワードローブの必要条件は1980年代とは異なると、リスーツのシェファード氏は言う。特にパンデミックの後、カプセルアイテムは一般的により着心地が良く、少しストレッチが効いていると、同氏は説明する。「Tシャツとパンツが主力アイテムになり、通常はなんらかのテクニカルな要素が加えられている」と、同氏は語った。

トレンドへの反動

この1年間で、各社はカプセルワードローブに一般的なアイテムの需要が増加したことに言及してきた。ギャップ(Gap)は男性向けの「グレートベーシックス(great basics)」に注力していると、CEOが2023年11月に述べた一方、H&Mは、昨夏に「明るい無彩色の夏物ブレザー」の売上が好調だったと、CEOが同6月に話した。一方、ベーシックスで知られるユニクロ(Uniqlo)の親会社は、今年初めに第1四半期の営業利益が25%増加したことを報告した。ポッシュマークのバファート氏は、カプセルワードローブへの関心は、突き詰めると「トレンドへの反動」だとしている。「流行に追従しようとするのは財布への負担が大きく、不毛な競争だ。人々はトレンドやマイクロトレンドを追いかけるのに慣れすぎた結果、カプセルワードローブの着こなしのようなものが出現したとき、多くの人々が注目するのだと思う」と、同氏は米モダンリテールに語った。[原文:‘Backlash against trends’: The rise of the capsule wardrobe] Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)