2024年1月24日、珠洲市で倒壊した家屋が雪で覆われる(写真:MURAYAMA YOSHIAKI )

2024年1月1日に起きた能登半島地震では、家屋が地震で倒壊していく映像がSNSでも多く発信されました。例えば、空き家が揺れ始めてから7秒で倒壊している映像もありました。

地震で家屋が倒壊する時間は一律ではないので仮定の話としてですが、もし「7秒」であったなら、皆さんにとって避難できる時間でしょうか?

崩れる家屋から、命からがら外へ脱出して助かった方がいました。また、机やこたつの下に避難したら助かった、という声もSNSにあります。

一方で、屋外に出ても倒壊物に巻き込まれたり、机の下に潜っても家屋の全壊で命を落としたりしたケースもありました。

生きようと行動されたのに、命をつなぐことができなかったその人たちの無念を思うと、言葉がありません。

「あのとき何が」生存者の声

私は自治体などから依頼を受け、防災について講演をしています。

その中で「地震が起こったときの行動は?」「頭を覆い隠してしゃがむポーズは役に立つの?」「揺れが来たら机の下に潜る訓練を受けてきたが、家が倒壊してしまったらどうしようもない、ということを知らなかった」といった声を耳にしてきました。

では、私たちは地震が起こったら、どのような行動を取ればいいのでしょうか?

今回、震度7となった輪島市で、家が倒壊する前に脱出したことで助かった大倉好子さんにお話を伺うことができました。

ただ、最初にお断りしておきたいことがあります。大倉さんを含め、生き残った方々の中には、同じ体験をしながらも助からなかった方々に対し罪悪感を抱えている場合があります。

このお気持ちは、日本災害看護学会によると災害関連用語で「サバイバーズ・ギルト」と説明されることもあります。そんな中でも体験談をお話しくださったのは、少しでも誰かの役に立てば、また、今後の防災の研究に生かされることがあればという想いからです。

そのため、今から紹介する内容は、決して、生還のための唯一の正しい方法として紹介するものではなく、そして、同じ方法を選択できなかった人を責めるものでも、間違っていると発信するものではないことをお断りしておきたいと思います。

自宅はわずか2秒で崩れ落ちた

能登半島地震で最大震度7の地震は元日の16時10分に起きました。この4分前の16時6分でも、最大震度5強の地震が観測されています。

輪島市の自宅にいた大倉さんは、16時6分の地震の後、夫婦で玄関付近に移動して家の中で様子を見ていました。そして16時10分に震度7の地震が発生。そのとき大倉さんは、家がミシミシと大きく音を立てたのが聞こえたそうです。

これは「先ほどの地震とは違う」と直感した2人は「すぐ外に出よう」と決意しました。結果、わずか1秒ほどの瞬時に、玄関から飛び出したそうです。

とっさに外に出たため、スマートフォンも持っていませんでした。「外に出た」と思ったその瞬間、「立っていられず、振り倒され、その場で転び、体が勝手に移動し、はうこともできない、揺らされるままで、抗おうとしても何もできない」揺れに襲われたそうです。

気象庁の震度階級関連解説表には、震度6強から7について「立っていることができず、はわないと動くことができない。揺れにほんろうされ、動くこともできず、飛ばされることもある」と書かれています。大倉さんの証言からも、いかに大きな揺れであったかがわかります。

大きな揺れに翻弄されている間、大倉さんが家の様子を見ると、家はわずか2秒で崩れたそうです。なぜ、2秒とわかったかというと、1と数える間に家が左に大きく揺れ、次の1と数える間に右側に大きく揺れたと思ったら、そこで家がつぶれたからだそうです。

一般論として、周期(揺れが1往復するのにかかる時間)が1秒から2秒の短い周期の地震は、木造家屋が共振しやすいため、「キラーパルス」と呼ばれています。阪神・淡路大震災(1995年)や熊本地震(2016年)でもキラーパルスがあったと報告されています。

特に熊本県益城町では、前震と本震という2つの大きな地震がありましたが、本震のみであってもその周期が1秒であったことから、倒壊被害に大きく関与したとする論文(村瀬ほか 2018)があります。今回の地震についても今後の分析が待たれます。

正確な時間とは異なるかもしれませんが、大倉さんの場合、おおむね家を出るまでに1秒、そして倒壊するまで2秒だった、ということになります。

わずか3秒しかなかったのなら、地震が起きていくら「外に逃げたほうが安全」と判断しても、玄関付近にいなければ倒壊から逃れることはとても難しかったのではないでしょうか。

耐震改修済の自宅から飛び出した理由

実は、大倉さんのご自宅は、決して耐震性の低い住宅ではありませんでした。2007年3月に能登地方で最大震度6強の地震があった後に、鉄骨の筋交いを7カ所設置する耐震改修をされているからです。

もし、耐震改修をされていなかったら、合計3秒の時間よりも早く倒壊していた可能性も考えられます。

自宅の耐震性が低く、倒壊するリスクをあらかじめ想定している人なら、「地震のときは、すぐに脱出しよう」と決めていると思います。

しかし、耐震改修をして耐震基準を満たしている家なら、地震が起きたら「家の中で頑丈で固定された机の下に潜る」、「(頭を覆い隠すなど)何かしらのポーズを取る」といった対応で大丈夫だと考えている方も少なくないのではないでしょうか。

では今回、耐震改修をした家にいた大倉さんは、なぜ最初の地震の後で玄関付近へ移動し、次に外へ出る決断をしたのでしょうか。それには、2007年の地震による体験がありました。

2007年3月25日、石川県の七尾市、輪島市、穴水町で震度6強を観測する「平成19年(2007年)能登半島地震」が起きました。

ちょうどその日、大倉さん宅には0歳の孫を連れた娘が遊びに来ていました。地震が起きて揺れる中、なんとか皆で家の外に出て、津波から避難するため高台に移動した大倉さん。安全が確認されてから自宅に戻ってみると、重たい座卓は遠くに飛ばされ、その上にあった蛍光灯は木っ端みじんになっていました。

もし「地震が来たら机の下へ」と考え座卓の下へ潜っていたら、大きな揺れで飛び上がった座卓にぶつかり、さらに上から降り注ぐ蛍光灯の破片でもケガをしていたかもしれません。

また、別のテーブル近くにも重たい食器棚が移動してきていて、周囲には食器棚から落ちたものが散乱していました。新生児にとって割れたものはすべて凶器になります。

この経験から「地震の大きな揺れが来たときは、机の下に潜っても助からないのではないか」「どんなポーズを取るよりも外に出たほうがいい場合もある」と考えていたそうです。

屋外に出られても危険はあった

ただし、これは、耐震性のある家であっても、家の外に出るのが正解だという話をしたい訳ではありません。

実際に、大倉さんが玄関から外へ出た後、家の横にあった車庫兼用倉庫は、玄関と反対側に倒れました。もし車庫が玄関側に倒れていたら、大倉さんたちは下敷きになってしまうところでした。


大倉さんの自宅。1階は潰れ、手前の車庫は玄関と反対側へ倒壊した。もし玄関側に倒れていたら、大倉さんたちは巻き込まれていたかもしれない(写真:木村悟隆・長岡技術科学大学准教授)

また、大倉さんが揺れで身動きがまったく取れない中、玄関脇にあった軽自動車は、地震の揺れで飛び跳ねていました。

その近くで転び、倒れ込んでいる夫の姿が見えましたが、大倉さん自身も全く動けなかったため、夫の上に「クルマが飛んだ勢いのまま乗りあげてきたら嫌だ」「そうならないでほしい」と願うしかなかったのです。

幸い、大倉さん夫妻は無事でした。しかし、家から外に出て倒壊物に巻き込まれ、亡くなった方もいます。大倉さんたちも、たった一つでも条件が異なれば、命を失っていてもおかしくない状況でした。

生と死の境界線は、ほんの少しの偶然によって、白にも黒にもなってしまう、薄くにじんだ頼りない境界のようにも思えます。

「想定外」が起きるのが災害

ここで改めて皆さんと一緒に考えておきたいと思っているのは、災害時は「想定を超える事態が起きる」場合があるということです。

想定内の場合は、マニュアル通りの行動を素早く実行することが効果的です。けれども想定外の事態が起きたとき、マニュアルや“マルバツ思考”では逆効果になってしまうことがあります。

例えば、地震の際は、足をケガしないために靴を履くことが大切だと言われます。「裸足のまま飛び出すのはマルかバツか」といえば、答えは「バツ」になるでしょう。

一方で実際には、大ケガはするかもしれないけれど、倒壊する家から真っ先に裸足で外へ脱出したから助かった方もいます。

また避難のために非常持ち出し袋を準備することはとても大切なことです。しかし大倉さんの体験で言えば、スマートフォンすら取りに戻らなかったからこそ助かっています。

「靴は絶対履いて避難する」や「せっかく準備した持ち出し袋を持たねば」など、事前に想定している対策へのこだわりは、「想定外」の激しい揺れが起きたときには、柔軟に行動する足かせにもなります。

私は大倉さんの話を聞いて、家屋に耐震補強して終わりではなく、「それでも、もしかすると家が倒壊するかもしれない」ということまで考えておくことが、とっさのときの選択肢を増やすようにも思えました。


今回の能登半島地震で倒壊したブロック塀。隣の塀が倒れて通路を塞いでいる(写真:徳島大学 環境防災研究センター・上月康則教授)

あれこれ考えるのは面倒で、「答えを教えて!」と言いたくなるでしょう。その気持ちはよくわかります。しかし残念ながら、答えがない問題に次から次へと直面する、体もまったく思うように動かない、それが災害時なのです。

反面、確実に生存率を上げてくれるのが家屋の耐震性向上や家具の固定、ブロック塀の撤去、電柱の地中化といった、震災時の被害を少しでも減らすための環境整備です。

これらはせっかく平時にできる対策なのに、資金面でのハードルが高いことが障害になっています。今後は、国や各自治体もより一層、これらの対策に取り組んでいくことが課題になります。

(あんどう りす : アウトドア防災ガイド)