日本はベスト8敗退。森保監督はチームを優勝に導くことはできなかった。写真:梅月智史(サッカーダイジェスト写真部/現地特派)

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[アジアカップ 準々決勝]日本 1−2 イラン/2月3日/エデュケーション・シティ・スタジアム

 日本代表は現地2月3日、アジアカップの準々決勝でイラン代表と対戦し、1−2で敗戦。ベスト8敗退となった。

 イランが長所を遺憾なく発揮し、逆に日本の長所は完全に消された。そういう意味で、明らかに明暗を分けたのはベンチの戦略だった。

 前半を1点リードして折り返した日本だが、実は追いかけるイランはすでに反撃の糸口を見つけていたに違いない。大きなヒントになったのは、39分のプレーだったはずだ。

 背後を狙ったロングボールへ対応しようとした板倉滉が、サマン・ゴドスにブロックされて潰れ、フリーでシュートに持ち込まれた。シュートは枠を外れたが、後半からイランは板倉の背後を突く攻撃を徹底してきた。

 ベンチの指示なのか、肌感覚としての選手たちの判断なのかは不明だが、イラクやイランの選手たちには、こうして弱点の芽を見つけたらそこを徹底して潰しにかかる狡猾さが浸透していた。

 イラクは菅原由勢、そしてイランは板倉の裏への対応に難があると見極め、攻略してきた。菅原も板倉も森保一監督が全幅の信頼を置き、揺るぎない第一選択肢の座を築いてきた選手で、実際に日本代表の連勝を支え続けてきた。しかし1試合にして評価が一変するほど崩れてしまった。
【PHOTO】日本代表のイラン戦出場15選手&監督の採点・寸評。後半は何もできずに敗戦。及第点は2人のみの低評価
 森保監督は、選手たちの自立を促すためにボトムアップ的な要素を導入しているという。しかし実はボトムアップ方式での指導者には、選手たちが困った時ほど適切なヒントを与えられるだけの高度なサポートが要る。

 選手たちだけでは気づき難い問題に直面し、あるいは解決不能な状況に陥った際に、最適解に導ける経験や慧眼が求められる。ところが指揮官は、イラク戦の菅原にも、イラン戦の板倉にも何ら救いの手を差し伸べず、ただ見守ってプレーを続けさせるだけだった。

 それは左SBで起用し続けている伊藤洋輝に対しても同様だ。伊藤は日本代表戦になると「絶対に負けてはいけない」責任を痛感し過ぎているのか、攻守ともに判断が安全へと傾く。サイドでフリーで受けても仕掛ける姿勢が乏しく、戻すパスを多用し、相手とのイーブンボールでも「待ち」の選択が目立つ。しかしそういう状態が続いても、森保監督は左SBの一番手として黙って使い続けてきた。

 経験値の少ない鈴木彩艶も、混乱を招いたのは判断への迷いから生じる技術的なミスだったが、彼が躊躇なく確信を持ってプレーできるような修正プランが提示された様子もなく、それはベンチからの指示を希求する守田英正の悲痛な声からも伝わってくる。

 指揮官は明確な共通理解を図り、その先に選手たち個々の自主性を考えているようだが、残念ながら根本的に繊細で的確な伝達力を持ち合わせているようには見えない。
 
 皮肉にもイラン優勢の展開が加速したのは、67分、森保監督が2枚のカードを切ってからだった。そこまで圧倒的な走力を活かし、プレスバックからボール奪取を繰り返してきた前田大然と、同じく奪ってから攻撃への切り替えに最も積極的に取り組んでいた久保建英を下げ、三笘薫と南野拓実を送り出した。確かに使ったカードに間違いはなかった。しかし、せめて久保は所属チームでプレーする右サイドに回して残すべきで、この瞬間に日本は最大の創造性と攻守への活力を失った。
 
 一方イランは、後半に入ると徐々に前からプレッシャーをかけ始め、中国人主審の傾向を見極めながら球際はアフターチャージも含めて厳しく対処し、日本側DFのバックパスからGKに蹴らせる流れを引き出していく。こうして繋げず間延びした日本は、大半の選手たちが長所の見せ場を失い、逆に短所をさらされ敗戦への道を辿った。

 森保監督は、ピッチ上での選手たちの自主的な修正力を引き出そうと努めてきた。しかし肝心な自身の試合中の修正力は改善されているだろうか。

 もちろん伊東純也離脱問題など、未曾有のアクシデントに見舞われた大会ではあったが、重要な分岐点を示唆したようにも見えた。

取材・文●加部究(スポーツライター)