画廊と美術館での学芸員経験を持ち、現在は美術エッセイストとして活躍中の小笠原洋子さん。高齢者向けの3DK団地でひとり暮らしをしています。お金をかけず、豊かな暮らしをしている小笠原さんに、普段の食事について教えてもらいました。

食材は無駄なく、料理も手間なく

私の食生活は、栄養価重点主義です。好き嫌いがなく、幸運にもアレルギー反応も出ず、なぜだか口にできるものはおいしいと感じる…もしかしたら、都合のいい味音痴なのかもしれません。ですから、今日はこれが食べたいというより、直近の食べたものを思い出して、不足している栄養素の含まれる食材から、翌日の食事に決めるのです。前夜に決めておくことが大事です。
切羽詰まって調理を開始すると、そのときに食べたいものを選んでしまうからです。前夜から脳内を、煮豆や焼き魚に設定しておくことが、よろしいと思っています。

【写真】「永遠のひと鍋」の2日目のスープ

永遠のひと鍋料理とは?

なかでも、もっともケチカロジー(ケチで環境にも優しいエコロジーな生き方を、私がそう名づけました)に徹した食事が「永遠のひと鍋料理」です。たとえばサケなどの魚や卵、豚肉などのタンパク質源と、ニンジンやコマツナなどの緑黄色野菜を中心にした食材をセレクトしたら、ポンとお鍋に入れてゆでるだけ。

私は超薄味派で、ほとんど調味料なしで食べることができます。食べ終わると、具材から出ただし汁が鍋底に残ります。あるいは食べきれず、野菜や鶏の骨などが残ってしまったりします。それはお鍋に残したまま、冷蔵庫に入れます。

翌日、この残り具材入りの汁を火にかけ、昨日入れなかったアジやアサリ、キノコ、またはワカメなどを加えるのです。さらに翌日は、厚揚げを、キクラゲを、またその翌日はイモや豆を。
そのように日々、同じ鍋に投入していくことと、簡単な副菜を補うなどして栄養価の安定的供給と、毎日は洗わずにすませる節減と、濃厚オリジナルだしの自然製造を満喫するという手です。

 

ただし、これはひとり者でなければできにくい食事法です。何日も同じ鍋を使うことに抵抗がある人もいるでしょうし、夏場は要注意です。それでも、私にとってこれは孤食家であればこそできるご馳走なのです。ネガティブなイメージを漂わせる孤食の切なさを、愉快に変える一案は、この「永遠のひと鍋料理」を発案するようなところにあるのではないかと思います。

レシピ本がなくてもひとりごはんは楽しくつくれるもの

料理本を買う必要はないのです。まずは手に入れやすい食材をシンプルにゆでる、煮る、炒めるなど試してみましょう。
あまり味つけをせず、ジャガイモそのものの味を、改めて知ることだっておもしろいものです。次にイモにカツオ節をふってみる。あるいは粉吹きイモなど思いつき料理を、お鍋からチョイと試食し、大満足にほくそ笑む。気に入った小鉢に盛ってちょっと鑑賞してみる。そうだゴマ油と塩なんかかけてみようかなぁ~。立ったり座ったり、熱心にイモと取り組む。こういうことができるのがひとり暮らしの醍醐味です。

おかずをつくりおきする際は、清潔な保存容器に入れて保存してください。保存状態によっては傷みやすくなることもあるので、早めに食べるようにしましょう