この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。

ティームー(Temu)の広報戦略は法の分野にも拡大されていっているようだ。

12月13日、PDDホールディングス(中国のeコマースプラットフォームのピンドゥオドゥオ[Pinduoduo]も保有)が保有するモバイルショッピングアプリのティームーは、オンラインショッピングプラットフォームのシーイン(Shein)に対して訴訟を起こした。ティームーはこの訴訟で、シーインがサプライヤーを「マフィアのようなやり方で」脅していると主張した。

しかし、この訴訟は競合他社を支配しようとする法的な試みに留まらない可能性がある。ティームーが訴訟のなかでさりげなく「2024年2月の第58回スーパーボウル(Super Bowl LVIII)での大きな広告キャンペーン」に言及したことに注目する必要がある。

総合的なPR活動の一環か



この言及は見過ごされてもおかしくなかったが、米モダンリテールはティームーで働いているという人物のGmailアカウントから、12月14日木曜日の夜にメールを受け取った。そのメールでは、訴訟の中でもスーパーボウルの広告に言及したセクションが特に強調されていた。「ティームーがシーインに対して新しい訴訟を起こしたことについてのニュースは見ていると思う。それに加えて、以下に示すのは、公的書類において、スーパーボウル広告を出すことをしっかりと認めている段落だ」と、メールには記されていた。

ティームーは法的措置を総合的なPR戦略の一環として使用しているのかと、フォローアップのメールで質問したとき、この人物(LinkedInプロファイルではティームーの「PRコンサルタント」と記されていた)は、「ティームーは戦略についてコメントしていないが、いいところに気づいたと思う」と返信してきた。

どうやらその意図は、刊行物で今回の訴訟を今後の広告計画と結び付けてもらうことだったようだ。実際に、アドエイジ(AdAge)などの刊行物はこの餌に食いつき、訴訟において広告計画を認めた内容ついての報道記事を出した。

この動きは、メディアに対するティームーの総合的な広報戦略と一致している。この戦略は、全体として肯定的なニュースのあいまいなヒントをビジネス刊行物に提供して、大きく取り上げられることを狙っているようだ。この3週間にわたって、米モダンリテールはティームーを代表すると主張するさまざまな人々から(スーパーボウルについての言及に関するメッセージを送ってきた人物も含む)今後のスーパーボウルでの大規模なキャンペーンを示唆するいくつものメールを受け取った。

2024年の広告予算は43億ドルに



しかしティームーは、これらのメールで何も明確なことを公式に認めたわけではない。米モダンリテールに送られた、「ティームーのスーパーボウル2024での広告キャンペーン(Temu’s Super Bowl 2024 Ad Campaign)」という件名のメールで、「ティームーは、2023年のスーパーボウルでの広告キャンペーンのおかげで知名度が上がったと考えている。そして、スーパーボウル2024を前に、最新の広告キャンペーンで再度スポットライトを浴びることを計画している」と同社は記している。米モダンリテールは、そのメールはスポーツイベント期間中に別のTV広告を出すことを認めているのかとフォローアップで問い合わせた。広報担当者は、何も確定していないと答えた。

シーインとティームーは昨年から、非常に広く公開された形で争いを繰り広げていた。どちらも派手なTVキャンペーンを使用した広告に数十億ドルをかけており、Googleやメタ(Meta)などのプラットフォームでの小規模なデジタルコンポーネントを含む広告にもお金をかけてきた。ワイアード(Wired)は今年前半に、ティームーが今年、米国での広告に約14億ドル(約2000億円)を使い、さらに2024年には43億ドル(約6150億円)に増額することを計画していると報じた。EtsyのCEOは、両社の膨大な広告予算は「ほぼそれだけで、広告コストに影響を及ぼす力がある」と、最新の決算発表で述べた。

Google検索はその主要なコンポーネントで、両社ともますます値上がりするデジタル不動産を買い占め、あふれかえるほどの広告を出している。しかし、アーンドメディアもまたひとつのコンポーネントだ。会社のニュースが多く取り上げられるほど、Google検索でのプレゼンスが増すことになる。

ライバル間の訴訟は目新しいものではなく、大きな広告予算の割り当てが取り上げられることも珍しくない。しかし、注目すべきなのは、ティームーが具体的な詳細情報を明かさない一方で、憶測やほのめかしの話を押し出し、さらに法的手段を使ってそのニュースへの注目をさらに集めているということだ。

的を外した戦略



一方、PR関係者はこの動きに困惑している。「ティームーは大胆な挑戦を行おうとし、やり方を間違えて的を外しているように感じられる」と、グローバルブランドと協働しているPR企業の経営幹部は語る。「ピースがつながらないパズルを無理やりくっつけようとしているかのようだ」。

法的な行為がPRキャンペーンと交差することはあるが、この経営幹部はその2つがシームレスにつながっている必要があると語る。「最終目標が何かを明確にし、そこから逆算して考えるべきだ」。たとえば、サステナビリティに基づく気風がある企業なら、自社の中核的な価値を表す訴訟を起こしてから、それを推進する手段としてPRを利用することが考えられる。「これは意味が通る」とその幹部は述べた。

しかし今回の場合、その戦略は製造業に関するニュースを中心にしているようで、それについて2つの共通点がないニュースがあるだけだ。「とにかく全体的に失敗している」とその幹部は話した。

[原文:Temu is using its lawsuit against Shein as a PR engine]

Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Temu/Youtube