オリックス打線は西川龍馬の加入でどう変わる? 星野伸之が打順や個々の役割を分析
星野伸之が語る来季のオリックス
野手編
昨年オフの森友哉(元西武)に続き、今オフには広島からFAの西川龍馬を獲得したオリックス。リーグトップのチーム打率(.250)と本塁打数(109本)をマークした打線に、より一層の厚みをもたらすことが期待される。球団OBの星野伸之氏に、西川加入の効果や、注目の若手野手について聞いた。
FAで広島からオリックスに移籍した西川龍馬 photo by Sankei Visual
――西川龍馬選手の加入によって、今年にパ・リーグ首位打者に輝いた頓宮裕真選手、森友哉選手らなどと並べば打線がより強力になりますね。
星野伸之(以下:星野) そうですね。西川は思い切りがいいし、打てるゾーンが広い。その分フォアボールは少ないので、出塁率が求められるトップバッターよりも得点圏で回ってくるクリーンナップでの起用がいいかもしれません。通算の得点圏打率も3割を超えていますしね(.308)。
左右ジグザクに組むのであれば、3番・西川、4番・頓宮、5番・森......逆に3番・森、5番・西川も考えられますし、杉本裕太郎や(レアンドロ・)セデーニョも含めてどう組み合わせるかなど、バリエーションがさらに増えますね。
――バットを出すゾーンが広いと打率は下がりそうですが、西川選手はヒットゾーンに飛ばすのがうまい印象です。
星野 イチローがオリックスの1番を打っていた時もフォアボールはそれほど多くなかった気がするのですが、そういう観点で考えると「打って勢いをつける」意味で、トップバッターとして起用するのもアリかもしれませんね。中嶋聡監督はいろいろな打順の組み方をしますし。いずれにせよ、西川は広島時代にいろいろな打順を経験していた経験が生きるでしょう。オリックスの野球に合う選手だと思います。
頓宮やセデーニョ、若月健矢がキャッチャーに入った時の森がDHに入るでしょうから、守備はレフトでの起用が多くなると思いますが、そこも流動的かもしれません。
――得点圏で西川選手を迎えるのは、相手バッテリーも嫌でしょうね。
星野 例えば俊足のランナーが塁上にいて、次が西川となると嫌なはずです。西川はバットに当てるのがうまいので。近年のオリックスは、フルカウントからの動きはけっこうあるんですが、そこまでエンドランを仕掛けられていない。得点力を上げるためにはもっと動いて揺さぶっていきたいところですから、どんな球でもバットに当てて捌いてくれる西川にはサインを出しやすいはずです。
なので、西川の前には俊足の野手を置きたいですね。チーム盗塁数は少ないですが(リーグワーストの52個)、来年は盗塁数よりも"動かす攻め"が多くなるのかなと。
――来年のオリックスは、より得点力を上げる必要がある?
星野 その要因として大きいのは、山本由伸が抜けたこと。由伸が投げる試合では「1点ずつ積み重ねていけばいい」という考えがあったと思うのですが、由伸以外でそこまで絶対的な信頼を置ける投手はいません。やはり得点力でカバーしていきたいところなので、西川の存在が非常に大きくなると思います。
――これまでは、シーズン中にケガで離脱することが多い印象もあります。
星野 そのあたりは、中嶋聡監督がDHも含めて柔軟に対応していくと思います。思い切って休ませることもあるでしょうし、各選手のコンディションや調子の良し悪し、相手ピッチャーとの相性なども含めて起用していくんじゃないですか。
――西川選手の加入で、他チームのバッテリーはマークすべきバッターが増えますね。
星野 そうですね。去年のオフに森友哉を獲れたこと、頓宮の成長も大きいです。首位打者のタイトルを獲れたことは自信になったでしょう。日本シリーズでの3本のホームランも圧巻でしたし、何かを掴みましたよね。
以前まではインコースを攻められた時にグシャっという感じで詰まらされていたのですが、今は詰まってもヒットにできるケースが増えました。ピッチャー側は「ならば外一辺倒で」というわけにはいきませんし、簡単に打ち取れるバッターではなくなりましたね。頓宮、森、西川とマークを分散させることもできるでしょうし、相手バッテリーにはプレッシャーがかかるでしょう。
【期待の若手野手は?】――オリックスはイキのいい若手投手が次々と出てきていますが、野手陣はいかがですか?
星野 注目しているのは池田陵真です。中嶋監督が日本シリーズでいきなりスタメンで使いましたよね(第1戦、1番・左翼で先発)。「どこかで使うだろうな」と思っていましたが、シリーズの開幕戦で1番とは驚きましたよ。
池田は今年、ファームで首位打者と最高出塁率のタイトルを獲得しましたし、「いい選手は思い切って使う」という中嶋監督ならではの起用でした。池田は入団当初から見ていましたが、最初から右打ちがうまかったんです。あまりのうまさに「本当に1年目の選手なの?」と思っていましたから。
――池田選手は体つきもすごいですよね。
星野 そうなんです。身長は低い(172cm)ですが、ガッチリしていてパワフル。池田もレギュラー争いに加わってくると思うので、他の野手たちはうかうかしていられないと思います。中嶋監督は常にレギュラー争いをさせている感じですし、リーグを3連覇はしても、「チームは完成していない」という感覚なんでしょうね。
――中嶋監督は、新入団選手発表会見で「3連覇しているレギュラー陣は高い壁」と話す一方、「そんなに高くない壁もいる」と新入団の選手たちに発破をかけました。
星野 うまく煽りますよね(笑)。今年頑張った選手は年俸も上がっているわけで、「来季もこのポジションでいけるかな」と思うじゃないですか。でも、ルーキーに向けてそういう話をして、今いるメンバーを安心させないという意図が見える。オリックスでは毎年のことですが、来季のレギュラーは蓋を開けてみないとわかりません。結果的に今年のベストナインに選ばれた紅林弘太郎は、開幕を二軍で迎えていたわけですし。
それと、野口智哉も大きく成長するかもしれません。彼はすごく肩がいいので外野も守れますし、今年は開幕でショートを守っていました。あとは課題のバッティングがよくなれ出場機会も増えるかなと。
――レギュラー争いは来季も激しくなりそうですね。リーグ4連覇に向けて得点力向上が鍵になる?
星野 そうですね。大エースの由伸が抜けた分、投手陣はもちろん、野手陣に頑張ってもらわないといけません。3連覇の最初のシーズン(2021年)は投手陣がすごく粘って相手チームの打線を抑え、試合終盤の勝負どころでワンチャンスを生かして勝っていた印象もあった。でも来季は、先ほどもお話したように打つほうで動いていきそうだなと。どういう戦術で攻めていくのかはキャンプで準備していくでしょうし、楽しみです。
【プロフィール】
星野伸之(ほしの・のぶゆき)
1983年、旭川工業高校からドラフト5位で阪急ブレーブスに入団。1987年にリーグ1位の6完封を記録して11勝を挙げる活躍。以降1997年まで11年連続で2桁勝利を挙げ、1995年、96年のリーグ制覇にエースとして大きく貢献。2000年にFA権を行使して阪神タイガースに移籍。通算勝利数は176勝、2000三振を奪っている。2002年に現役を引退し、2006年から09年まで阪神の二軍投手コーチを務め、2010年から17年までオリックスで投手コーチを務めた。2018年からは野球解説者などで活躍している。