久保建英のプレーの質は1G1Aの前戦以上 現地紙が称賛するアタッカー像
12月17日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)はラ・リーガ第17節でベティスと本拠地レアレ・アレーナで対戦し、0−0で引き分けている。優勢に攻め続けたが、最後のところでゴールネットを揺らせなかった。3度もオフサイドで得点が取り消された。
「久保はラ・レアルの中で、一番(ゴールに向かって)トライをした選手だった。チームの攻撃を司って、常にボールを要求し続け、戦いのなかで"身を隠さなかった"。ゴールには結びつけられなかったが、ファウルでしか止められない存在になっていた。最後は"ほぼスーパーゴール"というシーンもあった......」
スペイン大手スポーツ紙『アス』の寸評は、この日のプレーを端的に表している。
久保建英(22歳)は2試合連続ゴールこそならなかったが、存在感を見せつけたと言える。現地関係者の評価は非常に高い。プレークオリティだけを考えれば前節、1得点1アシストしたビジャレアル戦以上だった。
ベティス戦でゴールを狙う久保建英(レアル・ソシエダ)photo by Nakashima Daisuke
久保は序盤から躍動した。
5分、ワンツーからFWアンドレ・シウバを走らせ、鮮やかにチャンスを作り出す。6分、マーカーに入ったアブネル・ヴィニシウスを縦に向かって抜け出して置き去りにする。東京五輪金メダリストで売り出し中のブラジル人左サイドバックも敵ではなかった。17分には、右サイドでアンドレ・シウバと入れ替わって駆け上がり、最後は折り返すところを、バルサ下部組織出身で将来が嘱望されるセンターバック、チャディ・リアドに腕で押されて倒されていたが、笛は鳴らなかった。
久保は、サイドバック、センターバック、ボランチで作られた包囲網もほとんど無力化していた。
この日、新たにセンターフォワードの位置に入ったポルトガル代表アンドレ・シウバの存在は大きかったと言えるだろう。ポストワークなどコンビネーションが巧み。久保との連係は抜群で、名コンビの予感がある。
これまでにも書いてきたように、ラ・レアルのFW陣のなかで、アンドレ・シウバは、昨シーズンまで久保が組んでいたノルウェー代表アレクサンダー・セルロートに一番近い。相手に背を向けてのプレーが得意だし、サイドにもタイミングよく流れられる。視野が広く、足元の技術も高く、ボールの出し入れを好む。ここまでケガで合流が遅れていたが、ラ・レアル向きのストライカーだ。
【90分間、攻撃の主役に】
24分、久保はアマリ・トラオレをワンツーで使って、抜け出させると、そのクロスをアンドレ・シウバがネットを揺らしている。残念ながら、これはオフサイドだった。さらに39分にも、アンドレ・シウバの落としたボールを受けた久保がなかに切れ込んで敵3人を引きつけながら、ミケル・オヤルサバルにパス。その折り返しをアンドレ・シウバが押し込んだが、これもオフサイドになった。
得点こそ決まっていないが、論理的な組み立てでゴールに迫った回数は多かった。アンドレ・シウバの復帰はスペイン国王杯やチャンピオンズリーグ決勝トーナメントなどが待つ後半戦に向け、ひとつの朗報だ。
後半に入っても、久保はチームを力強くけん引している。アブネルとの対峙から、わずかにタイミングを変える技術を見せてクロス。久保自身が自陣でボールを奪い、カウンターも発動した。さらにひとり、ふたりとマークを外してカットインし、左足で際どいシュートも放っている。
そして87分には、最大のビッグチャンスを迎えた。久保はセンターバックのイゴール・スベルディアからのパスを受けると、側にいたマルティン・スビメンディに預ける。自身は抜け目なくゴール前に入って、ベニャト・トゥリエンテス、ウマル・サディクと渡ったボールを、エリア内から左足で得点を狙ったが、この決定機はGKに防がれることになった。
結果として、ノーゴールで引き分けとなったわけだが、久保は90分間を通して攻撃の主役だった。
「Abanderado」(旗手)
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は、その表現で久保を称えている。
「最後まで野心的にフラッグを高く掲げ、振りかざし、"あらゆる局面に姿を見せた"。最終局面で、ラ・レアルはもっと(勝利するだけの)幸運に値した。終了間際、彼のシュートは勝利の1本になるはずだったが、GKルイ・シルバのすばらしいセーブで防がれてしまった」
冒頭の『アス』紙の「身を隠さなかった」と『エル・ムンド・デポルティーボ』紙の「あらゆる局面に姿を見せた」は、表現の違いはあれども、同じ意味と言えるだろう。
スペインサッカーにおいては、勝負に対して臆病なアタッカーを認めないところがある。一方で、ボールを受け、対峙し、仕掛け、ゴールに迫ったアタッカーを評価するのだ。
引き分けという結果に終わったにもかかわらず、この表現が与えられるのは最大級の賛辞と言える。
12月21日、ラ・レアルはカディスとアウエーで戦う。これが2023年最後の試合となる。