8位ブライトンがアウェーで2位アーセナルと対戦したプレミアリーグ第17節の一戦。三笘薫は例によって左ウイングでフルタイム出場を果たしたが、自慢のウイングプレーを発揮する機会は、その割に少なかった。

 ハーフウェイラインを越えた位置で相手の右サイドバック(SB)ベン・ホワイト(イングランド代表)と1対1を演じたのは、前半では38分のシーンの1回だけ。ウイングの平均的な高さ(ポジション)をハーフウェイラインだとすれば、それより10数メートル、低い位置で構えることになった。ほぼ一方的に押し込まれることになったブライトンの劣勢は、三笘が構える位置に象徴されていた。

 試合はまさに「サイドを制するものは試合を制す」を地で行く展開になった。ガブリエル・マルティネッリ(左・ブラジル代表)とブカヨ・サカ(右・イングランド代表)が左右の大外に張るアーセナルの両ウイングに、なにより目を奪われることになった。

 彼らにボールが渡った瞬間、ブライトンの両SBは守りに追われ、後方で構えることになる。左で言うならジェームズ・ミルナー(元イングランド代表)になるが、彼ひとりではサカを止めることは難しい。となると三笘も応援に駆けつけなければならない。仮にサカのウイングプレーを止めることができたとしても、ボールを奪う位置は低くなる。アーセナルはプレスも厳しいので、ブライトンはビルドアップの段階でボールを奪われてしまう。ハーフウェイラインを越えることさえ難しくなっていた。

 両軍の関係は8対2ぐらいのイメージだったが、スコアは前半を終え0−0。内容がスコアに反映されたのは後半8分だった。サカの蹴ったCKがファーサイドに流れるところを、ガブリエル・ジェズス(ブラジル代表)が詰め、アーセナルは先制点を奪った。


アーセナル戦にフル出場した三笘薫(ブライトン)photo by COLORSPORT/AFLO

 三笘が目の覚めるようなウイングプレーをこの日、初めて見せたのはその3分後。ちょうどハーフウェイライン上で相手の右SBホワイトと対峙する恰好になった三笘は、ボールを前方に大きく出し駆け上がる。ホワイトとの走り比べに勝ち、陣を大きく挽回した。

【スタートダッシュでDFの動きの逆を】

 前半にも同様なシーンはあった。先述の38分、ボールを大きく出してホワイトに走り勝っている。この時は、三笘が俊足ぶりを際立たせるや、その瞬間、ホワイトに反則で止められている。そこで警告を受けたホワイトが、レッドカードを恐れたことも、2度目のスピード勝負で三笘の完勝に終わった理由かもしれない。

 陣を挽回した三笘の背後を左SBミルナーが走る。オーバーラップしたその鼻先に三笘が縦パスを送ると、次の瞬間、アーセナルゴール前にはきれいな弧を描くセンタリングが送り込まれていた。

 そのクロスはアーセナルDFにクリアされたが、そこから展開されたアーセナルのビルドアップを阻止したのも三笘だった。三笘は左ウイングの位置で構えるゲームメーカーだと述べたことがあるが、この一連の好守はまさにMF的なプレーだった。ブライトンにおいて中心選手でいられる意味がよくわかるシーンと言えた。

 スピードを生かしたウイングプレーについてひと言加えれば、置いて行かれたホワイトは瞬間的に、ともすると反応の悪い選手に見えた。冨安健洋とポジション争いのライバル関係にあるこのイングランド人SBは、スタートダッシュで大きく三笘に遅れていた。三笘が走り出す前に、ホワイトの動きの逆をしっかり取っているからに他ならない。シンプルに走り比べをしたわけではなかった。

 その直後、ブライトンベンチは傾きつつある流れを確かなものにしようと、果敢にも3枚替えの交代に打って出る。

 すると三笘が鋭いプレーで応えた。戦術性の高い縦パスをパスカル・グロスに送る。32歳のドイツ代表MFが、左足でマイナス気味のセンタリングをゴール前に送ると、18歳のジャック・ヒンシェルウッド(U−19イングランド代表)が、ヘディングでこの日チームとして初となるシュートを放った。

 試合は斬るか斬られるかの撃ち合いになっていく。しかもハイレベルである。プレミアリーグの真髄を見るかのような、エンタメ性が満点の攻防に発展していった。

【アーセナルの強さが際立ったが...】

 後半27分にはタッチライン際を走る三笘の鼻先に、センターバック、ルイス・ダンクから縦パスが送られる。ホワイトと1対1になると、まず縦方向へ、続いて内方向へ、そして再度、縦方向へのアクションを取った。すると、身体はホワイトと衝突。三笘がエリア内で倒れ6万余人の観衆は固唾を呑むも、主審はPK判定を下さなかった。

 この日、ブライトンでもっとも惜しかったプレーが訪れたのは、それから10分後、後半37分だった。左サイドでジョアン・ペドロ(ブラジル代表)のスルーパス気味の縦パスを受けた三笘は、ホワイトの背後を取ると、右足アウトでゴール前に決定的なラストパスを差し込んだ。グロスが放ったシュートはネットを揺るがしたが、ゴールかと思いきや、サイドネットだった。

 これが決まっていれば後半43分、アーセナルにカイ・ハヴァーツ(ドイツ代表)のダメ押しゴールは決まっていなかったはずである。

 スコアは0−2。アーセナルの強さが際立った試合。ひと言で言えばそうなるが、ブライトンの健闘が光る試合でもあった。強者に対して大人数で守りを固めるのではなく、しっかり打って出ていく姿勢にファンは感激、感動を覚える。次戦を楽しみに待ち焦がれる。

 三笘に対し再三遅れを取ったアーセナルの右SBホワイトは、勝利の輪に加わりにくかったのではないか。また三笘も、自身のウイングプレーに満足することはできなかったのではないか。上には上がいることを、この試合を通して思い知ったのではないか。

 アーセナルの左ウイング、マルティネッリのウイングプレーは、三笘を6.5とするなら8.5をつけたくなる出来映えだった。それぐらい凄まじい切れ味を披露した。三笘はアーセナルの左ウイングを任されたら、マルティネッリ級のウイングプレーができるだろうか。三笘にとっても刺激になる一戦だったはずだ。

 三笘のレベルは上がりこそすれ、低下することはないだろう。そう言いたくなるこの日のアーセナル戦だった。