ジュエリーブランド「4℃(ヨンドシー)」がSNSで注目されている。9月に東京・原宿でブランド名を隠した期間限定の「匿名宝飾店」を開いたところ、4℃のショップであることが知れ渡っていき、ネット上で大きな話題となった。かつて若い世代に強く支持されながら、一時期は低迷に喘いだブランドは、なぜ再評価されているのか。ノンフィクション作家の樽谷哲也氏が取材した――。
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■「女性への贈り物」の定番になった国産ブランド

30年あまり前のバブル景気の真っただ中、メイド・イン・ジャパンのジュエリーとして安定した人気を誇ったのが「4℃」である。カルティエやティファニーには手が届かぬ若い世代を中心に、とくに男性から女性へのプレゼントとして、ネックレスや指輪、イヤリング、ピアスなどが定番となっていた。

インタビューに応じるヨンドシーホールディングス社長の増田英紀氏(撮影=プレジデントオンライン編集部)

持ち株会社ヨンドシーホールディングス(HD)社長の増田英紀氏(60歳)は、「当社はギフト需要に強みがあって、男性から女性への贈り物としてお買い上げいただくジュエリーとしてご支持をいただいてきました」と話す。

1989年に大学新卒で入社した、子会社でジュエリー事業を担うエフ・ディ・シィ・プロダクツ(FDCプロダクツ)社長の瀧口昭弘氏(57歳)は、まさに4℃が若い世代を中心に人気を集めていった時代に、自らのビジネスパーソンとしての成長が会社のそれとともにあった。

「もともと4℃は、女性が自分のために買うジュエリーとして1972年にデビューして、お客さまの支持をいただいていました。それが少しずつ変わっていって、1980年代の終わりから90年代にかけて、男性のお客さまが大切な女性、彼女や奥さまにジュエリーを贈るという文化が急速に広がっていきました。いちばん大きなギフト需要期である12月のクリスマスシーズンはもちろん、誕生日は一年を通して、それぞれの方にあるわけですから、当社に限らず、市場がたいへん大きくなっていった時代です」

■男性客に支持されて成長を続けてきた

瀧口氏と同年代である私にも、若い女性がカルティエのトリニティ(3連リングの指輪)やティファニーのオープンハートのネックレスをこぞって身につけていた姿が印象に残る。

さらに印象としてあるのは、それらを自ら購入したのではなく、近しい男性からプレゼントされたものであるということが女性たちの自尊心を満たしていた眩しくも泡沫(うたかた)めいた時代の様相のような風潮である。贈り、贈られることで、シンボリックなステイタスを互いに高め合うことになっていた。

20万円を超えるようなカルティエ・トリニティは珍しくなかった。

瀧口氏はつづける。

「大手外資系ブランドが1万5000円ほどからもラインナップされていて、われわれ4℃も同様に手の届きやすい価格の商品をそろえていました。お客さまの認知度も上がりましたし、安心感のあるジュエリーとしてブランド価値を築くことにもなっていったと思います」

撮影=プレジデントオンライン編集部
ジュエリー事業を担うエフ・ディ・シィ・プロダクツ社長の瀧口昭弘氏。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

ヨンドシーHD社長の増田氏も同様に当時を振り返る。

「アパレル事業も手がけていますが、とくにジュエリー事業についてはお客さまの男性比率が女性よりも高いという特徴がありました」

■海外ブランドとは異なる「手の届きやすいブランド」

瀧口氏は、「ジュエリー・マーケットというのは、どちらかといえばミクロ市場だったんです」とも語る。

「1990年ごろのジュエリー市場が国内で3兆円ほどでした。それが近年は1兆円前後の横ばいで推移していると推計されています」

アパレル業界は、ユニクロに代表されるファストファッションの隆盛もあって、拡大のピークであった1990年ごろと比べ、金額ベースで3分の2から半分程度に縮小している。

瀧口氏がつづける。

「ただし、ジュエリーというのは不思議なところがあって、アパレルのように市場が激減することには必ずしもなりません。景気に左右されながらも、国内の宝飾市場全体では、だいたい単価30万円以上の商品――有名百貨店の5階、6階の高級宝飾サロンで売られているような価格帯のもの――は、堅調に支持されています。資産価値で1000万円を超えるようなインターナショナルの高額ブティック市場は盛んです」

カルティエやブルガリ、ティファニーの商品がそうした超価格帯のジュエリーとして想起されよう。

4℃のショップは、「手の届きやすいブランド」として、そうした海外の高級ジュエリーとは別にカテゴライズされている。

「百貨店やファッションビルの1階などで、2万円から10万円くらいの、もう少しカジュアルな価格帯の商品ラインに重点を置いています。もともと男性のお客さまの支持が大きく、ギフトに強いという特徴を持続させつつ、ジュエリーのデザインの鮮度をより高める努力をしてきました。流行を追い過ぎず、同時に需要に見合う洗練されたデザインのジュエリーをつくり上げることを経営の大きな政策としています」(瀧口氏)

■有名宝飾店の苦悩

コロナ禍による世界的な景気低迷は3年ほどつづいたのち、現在は日本でも大きく回復の兆しを見せている。業界や業種を問わず、そうした傾向にあり、増田、瀧口両氏も、インバウンド需要や円安による回復傾向が自社に表れていると強調する。

他方、世界的なパンデミックとはまったく別次元の現象に振り回されてきたことのあるケースも見ておきたい。

少し前であるならヤフオク、最近ではメルカリなどに代表されるように、一般ユーザーが手持ちの物品を転売したり、入応札したりすることが容易になった。さらに、個人のプライバシーを明かさぬまま主張や写真、動画などを発信し、賛否の入り交じったやりとりのなされるSNSがよきにつけ悪しきにつけ当たり前になっている。

増田、瀧口両氏のいうように、「男性から女性への贈り物」として「手の届きやすい」価格帯とデザイン、そしてブランド力であったがゆえ、醒めた女性の声がSNSで拡散した。

たとえば、“4℃の指輪をあげたらアラサーの彼女が不機嫌になった件”などと題する投稿が相次いだりした。2017年のことである。瀧口氏は、「SNSというのは多くの人より少数の人の声が一気に膨らんだりするものですよね」と穏やかに語った。著名人のプライベートなどについて少数の極論ばかりが膨らむSNSの実例を、「炎上」という形容とともに私たちは嫌というほど知っている。

「“男性目線で勝手にサプライズでプレゼントしないで”と書き込まれたりしたことで、『4℃大喜利』などと笑い話にされて拡散して、一部で炎上してしまった。そうした一方的なご意見を、少数ではあってもSNSで書かれたこともあって、われわれが業績を落とした時期も事実としてあります。カルティエさん、ティファニーさんなどに次いで高いご支持をいただいているのにもかかわらず、私どもにとって不本意な展開にもなってしまった。『大喜利』は本当に手がつけられないものでした」(瀧口氏)

増田氏は落ち着いた語り口でつづける。

「SNSで炎上するというのは、私どもの認知度が高いことの裏返しでもあるんです。だから、それをゼロにすることに腐心するより、プラスのほうを増やしていく努力を、より好感を持っていただける人を増やしていくことに力を入れよう、と取り組んできました」

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ギフト・ジュエリーの定番であることにとどまらず、女性客が自ら買い求める「自家需要」の取り込みが戦略の柱になった。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■女性が自ら買い求めるジュエリーを目指す

瀧口氏によると、4℃の製品やイメージについての調査では、その方法にもよるが、おおむね90%から好印象を得ており、数%の少数の声がSNS上に広がったという。増田、瀧口両氏は、SNSへの対策に追われるのではなく、「もっとブランド価値を上げていこう」と社内を鼓舞した。

「みんな悔しい思いをしました。われわれのショップのスタッフたちも不安になったでしょう。離れていく人もいました。それでも、経営層からのトップダウンではなく、現場の若手から意見を募ってプロジェクトチームをつくったり、社外のコンサルタントの力を借りたりしながら、ショップの内装を大胆に変え、広告のあり方を全面的に見直してきました。『悔しい』のままでは終われないというのが、この数年のわれわれです」(瀧口氏)

ブランド価値を上げて、ジュエリー需要を確実に取り込む――。そのためには、男性客が女性に贈る、いわばギフト・ジュエリーの定番にとどまるのではなく、女性客が自ら買い求める「自家需要」を取り込むことへの転換が必要であるとの結論に至った。なにより、女性に支持される商品づくりが重要になった。

■過度に流行を追わず、定番商品を重視する

女性に支持される商品づくりの重要ポイントとは何か。4℃は、デザイン性でいくつもの力点を持つようにしてきた。

「これまでも、TPOを問わず、いつでも身に着けられるベーシックでシンプルなジュエリーであることを大切にしてきました。過度に流行を追うことはしませんが、時流に合った商品をつくることをめざしつづけたい。夏には夏の、冬には冬の季節感に合うものも含めて、クールで洗練されたデザインのジュエリーをつくっていこうというコンセプトです」(瀧口氏)

定番といえるデザインの商品も充実させた。定番商品の比率は、売り上げベースで全体の60%を占め、同業他社にはない4℃の特徴となっている。

「丸(円)い顔の方、三角に近い顔の方、細長い顔の方というように、顔の形のタイプだけでも人それぞれです。だから、4℃では外資メーカーにはないような、多くの方にフィットできるように、しっかりとした品ぞろえをしている。定番商品も国内ではわれわれがいちばん持っています。『ジュエリーは身に着けて初めて完成する』という考え方のもと、豊富に在庫を持って、お客さまのお好みに合わせてご提案できるようにしてきました」

そして、4℃のユーザーに広く好まれる流線型、ハート型、しずく型、馬蹄(ばてい)型(U字形)など定番の商品であっても「鮮度」を重視しているという。

増田氏は「定番の商品もそろえながら、シーズンごとにデザインが変わった“鮮度”のいい新製品を発表していることだけでも、当社の大きなアピールポイントになると自負しています」と強調する。

撮影=プレジデントオンライン編集部
他ブランドにはない「商品鮮度」がヨンドシーにはある。これが女性客からさらに支持を集める大きな要因の一つになった。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■新商品の発表は年7〜8回に増やす

「年に4度のシーズンに加え、さらに新製品の発表機会を増やして、一年に7回、8回と新コレクションを発表してきました。ジュエリーメーカーとしてはとてもたいへんなことなのですが、業界の異端児といっていいほど、独自性を打ち出してきています」(瀧口氏)

増田氏は「商品鮮度」ともいった。

「新規のコレクションを次々に増やしていますから、商品鮮度は確実に上がっています。同時に、顧客管理を強化して、来店頻度の向上に取り組んでいます。数年に一度から、一年に一度、半年に一度、3カ月に一度というように、お客さまの来店頻度を上げることで“自家需要”を高めることにつながっていると思います」

同時に、デザイン性では、他ブランドにはないオリジナリティーを追求している。2021年に誕生した新ブランド「4℃ HOMME+(ヨンドシーオムプラス)」の製品にもそれは表れている。

ネックレスやブレスレット、リング、イヤカフといった商品が並ぶ。瀧口氏は、「シンプルでタイムレス、フォーマルからカジュアルまで幅広く使えるデザインであることを重視しています。シルバー、プラチナ、18金イエローゴールドをコーティングしているのも特徴です」と話す。

「多様性の進む社会に対して、ジェンダーレスラインのブランドとして生み出した『4℃ HOMME+』は、男性にもご愛用いただけると好評で、6割強を女性のお客さまに買っていただいています。まだ過去の記憶のままでいるお客さまもおられるので、価格だけにとどまらず、洗練された製品の鮮度をより上げて、商品、広告と、あらゆる面で変えつづけ、4℃の“いま”をお伝えする努力をしています」

■変えること、変えてはいけないこと

男性客から女性客へ、ギフトとして贈られるだけでなく女性が自ら買い求めるジュエリーへ――。そうした転換への取り組みが実を結びつつある。

「従来は男性のお客さまが圧倒的に多かったんですが、お客さまの男女比は年々変わる傾向にあります。昨年、ほぼ男女同数となって、ことし辺りは逆転して女性のお客さまが多くなる見通しです。たとえ1万円の商品であっても50年、100年と愛用していただけるジュエリーを積極的に開発していきます」(瀧口氏)

「いままで取り組んできた品質に対する信頼と安心をより大切にしながら、4℃として絶対に変えてはいけないところは変えずに、流行とともにデザイン性は変えてゆく。もう一つは、お客さまの来店頻度を上げて、顧客化していくこと。4℃の一生のファンをつくっていくことは、人口が減る以上は取り組んでいかなければならないことです。国内マーケットで戦う以上は、1人のお客さまに1点でも多く買っていただく努力をつづけるのは当然のことです」(増田氏)

オンライン販売を強化する一方、リアル店舗の拡充のために積極的な投資もしている。

2023年3月には、東京・銀座の一等地である中央通りに面し、ティファニー銀座ビルの真ん前に置く旗艦店の4℃本店を全面改装した。

「時流に合わせた商品と店づくりを体感していただけるようになっています。コロナ禍で中止を余儀なくされていたお客さまを招いたパーティーも数年ぶりに開催して、カスタマーズ・ロイヤリティーも上げています。複合的な試みもあって改装効果が表れて、お客さまの評判もよく、売り上げも伸びています」(瀧口氏)

2023年2月期決算は、ジュエリーの売り上げが2017年2月期以来、6期ぶりの増収増益となった。活況を取り戻しながらも、店舗集約を図るなど、さらに経営改革を進めている。

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時流にあわせた商品作りや、銀座の基幹店の全面改装など、ブランド価値を上げる試みが好循環を生み始めた。

■インフルエンサーの変化

数字に表れる経営実績だけではなく、SNS上の多くのコメントにも変化が表れている。

あるツイッター(現・X)のインフルエンサーの1人は、ことしに入って発信内容が少しずつ変わってゆき、さんざん批判してきた4℃の製品を購入したと写真に添えながら、《4℃今までごめん。すき…》と投稿している。

「投稿を分析しても、80%以上がポジティブな意見で占められていますし、専門機関に調査を依頼しても、9割近くの人に好意的なイメージを持っていただいているという結果が出ます」

そう説明した瀧口氏は、「ブランドの認知度はもう充分です」と自信を見せる。

「金、銀、プラチナ、ダイヤモンドをはじめ、宝飾品は、信頼と安心がない限り、お客さまは買いません。優れたデザインであると同時に、高いブランド力と、お客さまの安心をしっかり保てるよう、品質も重視してきました。デザイン力も大切ですし、アフターケアやメンテナンスにも手厚いジュエリー会社としての信頼も高める努力を全社をあげてしています」

瀧口氏は、こうつづける。

「20代から50代の女性の80%の方には4℃を知っていただけています。男性でも50%くらいの認知度がある。売上高の規模が違う大手外資系ブランドと同等の認知度です。あとは、ブランドに対する好感度をより高めていくためにはどうしたらいいかと、中長期の目標に掲げながら、増田とも話し合っています。5万円台から10万円台のジュエリー全域をねらって、好感度を上げるためにも、デザインをどれだけよくしていくか、品質をどれだけ高めていけるか、いかに素敵な広告を打ち出していけるか、さらに魅力あるキャンペーンを展開していけるかと、目先の売り上げを追うより、無形資産ともいえるところを磨いていくことです」

■成功を収めた「匿名宝飾店」

瀧口氏は、「外資系ブランドしか要らないという方たちに向かっても、私たちは新たな試みをしてゆきたい」と話す。

「これから大胆な仕掛けをして、みなさんに、よりご覧いただける機会をつくっていきたい。当然、インスタグラマーをはじめ、SNSのインフルエンサーの方たちとも手を取り合って、4℃の商品をしっかり見てもらって、PRだけでなく、評価や批評もしっかりしていただくことを継続していきます」

「大胆な仕掛け」の一つは、9月にSNSで多くの話題を集めた「匿名宝飾店(ネームレス・ジュエリー・ショップ)」である。東京・原宿にあるキャットストリートの愛称で知られるファッションのメッカに、4℃がブランド名を伏せて開いた期間限定の店舗で、突如お目見えした正体不明のジュエリーショップとして評判を呼んだ。9月8〜24日の開店期間中は入場整理券を配付するほどの盛況を収め、公式発表で累計来場者数は5500人にのぼった。

筆者撮影
東京・原宿に期間限定でオープンした「匿名宝飾店」。4℃であることが明かされると、SNSで大評判になった。 - 筆者撮影

ブランド名を明かさぬままオープンした「匿名宝飾店」は、9月20日になって、4℃の期間限定ショップであることを公にした。瀧口氏は、「4℃は昨年50周年を迎え、多くの方に新たにブランド名を知っていただくことができました。そのいまだからこそ、蓄積されたイメージを離れ、あらためて原点に返って、当社のジュエリーそのものを見てもらいたいとの思いがあった」と企画意図を語った。

■商品を見れば必ずそのよさが伝わる

期間中、後半の週末、「匿名宝飾店」に赴くと、入場整理券が配られながら、2時間半待ちの札止めという活況を呈していた。

道行く若い男女2人連れが店の前で足をとめている。

「トクメイ……宝飾店? なにこれ」
「ヨンドシーの店らしいよ」
「え、そうなの。中、見たくね?」

店の入口の前にキッチンカースタイルで設けられたカフェに惹かれ、顔を寄せ合って話す若い女性2人。

「宝石のお店? どこのブランドだろ?」
「あそこのカフェも、よさそうじゃん」
「ほんとだ。アイスラテとか飲みたいね。入ってみようよ」

SNSの評判や旧来のブランドイメージにとらわれることなく、目の前にある4℃のジュエリーをありのままに見てほしい。商品を見れば必ずそのよさが伝わる――。逆風にさらされても商品価値を磨くことを重視してきた4℃が満を持して実現させた試みであった。来場者アンケートでは83%が「4℃のイメージが変わった」、78%が「正体は意外だった」と回答している。SNSにも好意的な声があふれた。

■手に届く価格帯、身近なブランドであり続ける

ジュエリー事業全体が好況に転じている一方、ブライダルジュエリーの強化も急いでいる。婚約、結婚のエンゲージリング、マリッジリングをはじめとするブライダル市場では「地殻変動が起きています」と瀧口氏は話す。人のライフイベントでも最も大きな一つであろう。

「とくにコロナ禍では大きな打撃を受けました。カップルの方たちが結婚式をできないし、新婚旅行にも行かれなくなった。だから、記念の指輪だけは高価な物を買おうという方々が増えて、外資系ブランドばかりが大きく伸びることになってしまった。本来、4℃のブライダルジュエリーは年間を通じて伸びつづけている重要なマーケットでした。国内の婚姻組数が減少していくのは、少子化もあって致し方のない傾向です。いまはまた、本体のファッションジュエリーを事業としてもしっかり輝かせると同時に、ブライダルジュエリーも、マーケットの変化を見据えながら当社も対応していくことが構造改革でもあるんです。コロナ禍から抜け出しつつあるいま、ブライダル事業にも力を入れていきます。大型投資もつづけていますし、その分、ブランド価値は確実に上がっています」(増田氏)

手の届く価格帯でありながら、身に着ける人の充足度を満たし、同時に一定のステイタスにもなる。戦略を描くのが難しいビジネスゆえであろう。

それでも4℃が主体とするのは「ミドルライン」の価格の商品であると瀧口氏は強調する。

「オンライン販売では、10万円を超えるような商品は、そう簡単には売れません。価格帯としては、やはりミドルラインの商品が店頭で売れるように、これからもしっかりと努力していきます。お客さまの日常に寄り添い、お客さま自身を輝かせるブランドであり続けるために商品力を強化し、ブランド価値を高めていきたい」

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ヨンドシーHDの増田英紀社長(右)と、エフ・ディ・シィ・プロダクツの瀧口昭弘社長。変えてはいけないことを守り抜き、変えるべきは変えていく――。2人の挑戦はこれからも続く。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

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樽谷 哲也(たるや・てつや)
ノンフィクション作家
1967年、東京都生まれ。総合雑誌編集者を経て、98年独立。大手流通雑誌で13年半にわたり「革命一代 評伝・渥美俊一」を連載。『文藝春秋』で「ニッポンの社長」「ニッポンの100年企業」など連載人物評伝、ルポルタージュを多数執筆。著書に『逆境経営』(文春新書)がある。
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(ノンフィクション作家 樽谷 哲也)