「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、「ブロックチェーンの技術を利用し、経済を『共通の規格』で扱えるようにする」という理念の下、ブロックチェーン、ゼロ知識証明を主軸とした最先端技術を活用してブロックチェーン技術の普及を推進するNextmerge株式会社(代表:杉田真也)の共同創業者・飯島春樹さんにお話を伺いました。

写真:Nextmerge社提供

○通貨が「ものづくりの世界」に降りてきた

飯島さんは、もともとものづくりが好きで、3Dプリンター技術を活用したプロダクトなどをつくっていたそうです。web3(NFT)との出会いは、2021年10月頃。いわゆるNFTブーム(2020〜2021年)の終わりかけの時期で、「“通貨”という存在が、自分のいるものづくりの世界に降りてきた」という感覚を得たと言います。ドルや円などの法定通貨は、政府や中央銀行などが発行・管理する中央集権型の存在で、人の手や民間によってつくられたものではありません。しかしそんな常識が、ビットコインの誕生とともに揺らいだわけです。

Nextmerge社 共同創業者・飯島春樹氏

「ものづくりの世界は、価値があるものしか売れません。NFTバブルのときのように、“ブロックチェーンだから売れる”“NFTだから売れる”というのは、本質的におかしい。だから、いずれ必ず駆逐、淘汰されるだろうと思っていました」と飯島さん。ただ、「エクイティファイナンスやデットファイナンスの他の、新しい資金調達の方法としてトークンを活用するトークンファイナンスは良いと思います。しかし、SCAM(詐欺)が多い。まだまだルールが整っていないので、社会に浸透するには時間がかかるだろうと感じます」として、web3領域で事業をする当事者でありながらも冷静に捉えていました。

○「なぜブロックチェーンは使いにくいのか」を考えた

飯島さんが最初に使用したウォレットはメタマスクで、使い方はネットで調べながら学んでいったそうです。「今はもう慣れましたが、本当に使いにくいなと思いました」と当時を振り返ります。飯島さんは、ロボット開発などを手掛けるTRUST SMITH 株式会社の新規事業としてweb3プロジェクト(法人はNextmerge株式会社)を立ち上げ、今回のウォレット開発に至りました。事業のスタートに際して「なぜブロックチェーンは使いにくいのか」を徹底的に考えたと言います。

メタマスクなどのウォレットを使用してみて感じたことは、「トランザクションが専用のアプリじゃないと見られない」ことや「無機質な16進数のアドレスへの送付は使いにくく、楽しさもない」こと。また、業界の課題として「ウォレットやトークンを安全に扱うためには、ブロックチェーンに関する一定の知識が必要」であることや、「トークンのやり取りを行う場合に、送付する人と受け取る人の両方がウォレットを保有している必要がある」ことなどがあります。そこで飯島さんたちは、「NFTや暗号資産の送受信を、SNSのコミュニケーションと一緒にできないか?」と考えました。

「コミュニティー独自の通貨で、新しいコミュニケーションを生み出す」「ウォレットがないとNFTを受け取れないという機会損出をなくす」「日本一使われているウォレット、日本一使いやすいウォレットになる」など、徐々に目指す姿が明確になり、SNSアカウントさえあればブロックチェーンにアクセスできるAccountAbstraction型ウォレット「TIPWAVE」の開発に着手し、2023年11月にはベータ版を公開しています。

確かに、web3関連のイベントに参加するためにはウォレットが必須という場合もあり、自分でも使いにくいと感じるウォレットを友人に勧めるのも気が引けます。すると、イベントに友人を誘えず、拡散しにくくなります。企業主催のweb3(NFT、DAO関連を含む)イベントも開催されていますが、どこか内輪的で盛り上がりに欠けると感じることもままあります。ユーザビリティーとセキュリティーは常に天秤状態ではありますが、普及のためには両方とも必要でしょう。

ウォレットを用意しなくてもブロックチェーンを利用した、イベントや施策に参加できるようになることで、参加できる人が増え、新規市場を開拓できます。

市場規模があることで、ビジネスが盛んになり、日常的にブロックチェーンの利用を進めることができると考えています。

○SNSアカウントだけでweb3にアクセスできるTIPWAVE

写真:Nextmerge社提供

飯島さんたちが開発した「TIPWAVE」は、X(旧Twitter)やDiscordのアカウントと連携できるブロックチェーン上のウォレットサービスです。

SNSアカウントを持っているユーザーは、SNSアカウントと紐づくウォレットをTIPWAVE上で簡単に開設することができます。

ウォレットをすでに保有する人に対してはもちろんですが、まだウォレットを保有していない人に対してもNFTや暗号資産を送付できるのが特徴です。

筆者は、「ブロックチェーンという技術が意識されることもおかしい。技術者でもない限り、スマートフォンの技術の名称なんて知らないけど、みんなスマートフォンを使いこなしている。ブロックチェーンも、そうなっていくのが理想」と言い続けています。TIPWAVEが、それを実現してくれそうです。

TIPWAVEでは、「SNSのID宛のトークン送付」「ウォレットを持っていない人へのトークンの送付」「TwitterでRT、いいね、スタンプなど特定のアクションをした人に対してのNFTの一斉自動配布」などが可能になります。

下記の画像は、SNSのIDに送付先を設定して、NFTなどのトークンを送付しています。

写真:Nextmerge社提供

まだ、ウォレットを持っていなくても、SNSアカウントの情報を利用して、トークンを受け取った瞬間にウォレットを自動生成できるそうです。

下記画像は、ウォレットを用意していない状態でトークンを受け取り、その後にユーザーがウォレットを有効化しています。

写真:Nextmerge社提供

ユーザーはトークンを受け取る際にウォレットを準備したり、インストールする必要がなくなりますから、web3に馴染みのない人でもNFTや暗号資産を受け取り、保有できるようになります。

また、SNSで特定のアクションをした人に対してのNFTの一斉自動配布ができるということは、企業がマーケティングをする際にも有効でしょう。イベント告知などを拡散、フォローした人に対してNFTや暗号資産を送るキャンペーンをしたり、来場者限定の記念NFTの配布、特定のNFT保有者だけへのイベント告知なども可能になります。「web3、NFTに興味はあるけど、操作が難しそう」と腰が引けていた層に対してもアプローチできそうですね。

後編に続きます。

中島宏明 なかじまひろあき 1986年、埼玉県生まれ。2012年より、大手人材会社のアウトソーシングプロジェクトに参加。プロジェクトが軌道に乗ったことから2014年に独立し、その後は主にフリーランスとして活動中。2014年、一時インドネシア・バリ島へ移住し、その前後から仮想通貨投資、不動産投資、事業投資を始める。現在は、複数の企業で経営戦略チームの一員を務めるほか、バリ島ではアパート開発と運営を行っている。監修を担当した書籍『THE NEW MONEY 暗号通貨が世界を変える』が発売中。 この著者の記事一覧はこちら