エキシビションで演技する宇野昌磨。採点への持論を語ってから一夜明け、再び取材に応じた【写真:矢口亨】

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GPシリーズ第6戦・NHK杯 男子シングル2位の宇野が一夜明けで語った全文

 フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第6戦・NHK杯は25日、男子フリーが行われ、宇野昌磨(トヨタ自動車)は186.35点を記録。合計286.55点で2位となった。4本の4回転ジャンプがいずれも回転不足と判定されたことに対する胸の内を明かしていたが、一夜明けた26日はエキシビションの演技後に取材に応じた。判定への発言について「改めて言うことはない」「自分のただ一個人的な感想」と変わらず冷静な口調で話した。取材で語った全文を掲載する。(取材・文=THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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 男子シングル2位の宇野はこの日、エキシビションに登場。赤と黒のシックな衣装で観客を魅了し、ベスト・エキシビション・パフォーマンス賞を受賞。嬉しそうな表情でファンに手を振った。

 前日のフリーで冒頭の4回転ループ、4回転フリップにそれぞれ着氷。続く3回転アクセルは堪えるような着氷で単発に。後半も4回点が2回転トウループに抜けたが、直後にリカバリーするなど、表現力を含め、さすがの安定感を発揮したが、4本の4回転にはすべて「q」(4分の1回転不足)がつけられた。

 GOE(出来栄え点)は伸びず、フリーの得点は全体1位になったものの、合計288.39点だった鍵山優真(オリエンタルバイオ)に僅か1.84点及ばず。優勝を逃す結果になり、試合後はミックスゾーンの囲み取材で採点について言及した。

 鍵山への敬意を念頭に「今日も昨日も優真君の演技が本当に素晴らしかった」「彼にたくさんの称賛を送ってほしい」と称え、判定についても「人がつけるものなので、文句も言いたくない」と尊重。自らの力不足を認めた上で、終始言葉を選びながら落ち着いた口調で「試合に出る意味を揺るがされるような試合になった」「この基準になるなら、ここが僕の限界。これ以上、僕に先はないと思わされる試合だった」とも語っていた。

 最後に「一夜明けてまだ何か思っていたら、何か喋りたいと思います(笑)」と話し、迎えた一夜明けの取材だった。

 エキシビション終了後、鍵山と並んで囲み取材に対応した宇野。改めて鍵山に対してリスペクトを示した上で、前夜の発言については「自分のただ一個人的な感想」などと強調し、さらにGPファイナルに向けての意気込みを語った。やりとりを全て掲載する。

――NHK杯を振り返って。

鍵山
「出場1戦目のフランス杯でもいろいろ課題、収穫があったけれど、また成長を感じた1試合だった。メンタル面でも技術面でも。ファイナルに向けて、もう一段階レベルアップした大きな一戦になったと思う」

宇野
「中国杯からの短い期間でいい調整をした上で、やってきたことをしっかり体現できたいい試合だったと思う。このようないい演技は本当に数えられるくらいしかないという演技をできた。引き続き、ファイナルに向けて同じ練習をして、同じ演技ができるように頑張りたい」

一夜明けて「たくさんステファンとも喋っているので、改めて言うことはない」

――この大会を終えて、改めてお互いをどんな存在だと感じるか。

鍵山
「本当にハイレベルな戦いの中で、フランスでは(イリア・)マリニン選手、アダム(・シャオイムファ)選手、NHK杯では昌磨選手と一緒に滑れたことが凄くモチベーションにも繋がったし、ファイナルで3人と当たるということでもっと頑張らなくちゃという気持ちにもなった。その中で滑っても、表現力とか負けないくらい練習をもっともっと積み重ねていきたいと思った」

宇野
「久々に大会を勝負事として自分が見る試合だった。勝ちたいとか、勝ちたくないとかそういうのではなく。優真君の存在が数年前、自分のモチベーションに火をつけてくれた。僕を尊敬してくれている姿勢を、取材とか一緒に受ける時に言葉にしてくれて。やっぱりちゃんと先輩らしいじゃないですけど、恥ずかしくない選手でいたい。久々にフリープログラムは本当に集中していましたし、優真君がそれ以上に素晴らしい演技だったので、本当に称賛の言葉しかないけれど、僕も引き続きやってきたことを信じてこれからも頑張ろうと思う」

鍵山
「昌磨君の演技が本当に素晴らしくて、終わった瞬間も会場の皆さんがスタンディングオベーションして、僕の緊張感も一気に高まって。僕にとっても本当にいい試合だったと思うし、中京(大学)で一緒に練習をしていても、すごい練習量。追いついていきたいなっていう部分がたくさんあるので、そこを目指して頑張りたい」

――今季のプログラムで、お互いの凄いと思うところ、好きな部分を教えてほしい。

宇野
「僕は優真君のフリーのステップがすごく好きで。エネルギッシュところも好きなんですけど、全部が力任せにやってるわけじゃない。僕にできない表現力を持っているし、僕は結構バレエ要素とか、所作を綺麗にというのがあまり得意ではない。そういった部分がすごい上手だなと。本当に細かい練習、努力をしてこないと表れないと思う。僕はそういう細かい部分をやってきていない。これからもあまりやるつもりはないけれど、僕にできないことだからこそ凄いなと思うし、この1年でさらに上手になっている。僕は表現を頑張ると言ってきたけれど、優真君もすでに僕より先に頑張ろうとしていたんだなと。練習から見ていいなとマジで思ってました」

鍵山
「こんなに言われるとは(笑)。僕も同じ意見ですけど、昌磨君にしかできない表現を持っていると思うし、フリーは静かな曲の中で、あれだけお客さんを巻き込んで『あっという間に終わった』みたいな感じにさせるのは本当にすごいと思う。そうやって僕もお客さんを惹きつける力だったり、魅せる能力をもっと身に着けたい。(宇野のプログラムは)繰り返される曲って非常に難しくて、その中でイメージだったり、振り付けの緩急を大事にしているので、そういったところが難しいと思うけれど、それをこなせるのは本当にすごい」

――今後の大会に向けてどう進んでいくか。

鍵山
「この先ファイナル、全日本とすぐに試合が来てしまうけれど、今まで通りの練習をして、積み重ねて自分の練習を信じるだけだと思う。しっかりと自分がやってきたことを信じて、いい演技ができればいい」

――昨夜の演技から一夜明けて何を思ったか。

宇野
「個人の方でたくさんステファンとも喋っているので、改めて言うことはないけれど、この先はファイナル、全日本とまた優真君と一緒に出られる。ほかの選手もすごく嬉しいけれど、僕の中では今、現役選手で彼が一番特別な選手の位置づけ。優真君の存在が自分のモチベーションとしてとても大きいので、数多く試合に出られるように今年全力を尽くしたいと思うし、彼のライバルで居られるように引き続き頑張りたい」

――宇野に対して、どんな後輩でありたいか。

鍵山
「北京五輪の時、モチベーション(となる存在)で居てくれると言ってもらえた。去年1年間のブランクがあって、また再スタートの形で今シーズンを始めたので、そこまでの存在になれるように頑張りたいなという気持ちと、言っていいのかどうかわからないけれど、昌磨君だったり他の選手に火をつけられるようなライバルでありたい」

前日の採点に関する発言「大層なことは考えてない。一個人的な感想」

――試合へのアプローチ、考え方は中国杯と変わったか。

宇野
「僕がベストギリギリの演技をしないと、優真君と勝負にならないのはわかっていた。そこの違いかなと思う。こなせばという気持ちと、ベストの演技を目指す、その違いかなというのはあったし、僕もまさかそういう気持ちになると思っていなかった。懐かしいなという気持ちはあったけれど、緊張とかは全くなく、練習通りに気を付けることをしっかり体現できた。たくさんのことを経験して、年取ったなと思いました(笑)」

――GPファイナルのメンバーを見て、どんな大会になりそうか。

宇野
「すごい戦いになるとは思う。トップ4人は300何十点と出せる実力をみんな持っている。誰がどうなるか全く予想つかないけれど、見る側は本当に楽しいだろうなと思う。僕もそういう方が面白いんじゃないかなと思う」

鍵山
「僕も高いレベルの試合になると思っていて。やっぱり今シーズンこうやって安定感を増してきてる選手が何人もいて、僕もそこに入って今回戦うことになるので。でも自分のやるべきことだけはしっかりと集中しながら、その結果が何位でも、自分のやるべきことをしっかりとやって試合を終えたいなと思う」

――構成、レベルを上げる予定はあるか。

鍵山
「今のところまだ考えてはいないけれど、高難度の4回転を跳ぶ選手と戦うためには、もっともっとクオリティを上げていかないといけない部分があるので、ジャンプももちろんそうですが、スピン、ステップ、その他諸々でGOEなどを稼いでいけるような質を身につけたいなと思う」

――昨年、ジャンプの挑戦をしたからこそ完成度を上げたいと考えたと思うが、そこに鍵山が戻ってきて勝負の気持ちがさらに芽生えたか。

宇野
「正直、去年僕が何を言ったか覚えてないですけど、それは何とか自分のモチベーションを上げようとして言った内容だと思う。今年の表現に関しても同じことが言えて。やっぱり優真君のような存在がいないと僕はモチベーションが出ないんだろうなというのは今大会に出て思った。3年前くらい、もう全然トップで戦えなくなってきていたときに、優真君がグッと現れて、僕もちょっと頑張りたいと。

 そこからは結構ジャンプに集中していた。今はジャンプがある程度できてるからこそ、僕も完成度を目指していきたいと思うし、皆さんは4回転の種類に注目するかもしれないけれど、フリーは3本くらい跳べば、そこからは本数ではなく完成度の勝負だと思う。4回転を多く跳んだから勝つとかそういうのではなくて、優真君の4回転サルコーだってGOEの点数が凄い。4回転ルッツ以上の点数がもらえたりする。僕に足りないのはそういうところ。サルコーを増やすとか、そうじゃない。まだまだ表現の部分でも体力的に頑張れるところがたくさんあったかなと思う。そこは引き続きやっていけば、年明けにはすごくいいものになるんじゃないかなと思う」

――昨日の演技後、4回転4本すべてに「q」(4分の1回転不足)マークがついたことに率直な思いを語っていた。スケート界のことが頭にあっての発言だったか。

宇野
「いえ、全然そんなことないです。そんな大層なことは考えていません。そんな綺麗事みたいなことを僕は言わないので、自分のただ一個人的な感想。周りに迷惑かけないよう今後も頑張りたいと思います(笑)」

――鍵山にとって、宇野が競技会にいることはモチベーションになっているか。

鍵山
「僕にとってスケートのモチベーションは周りの存在、ライバルの存在が一番。こうやって一緒に試合に出られることはすごく楽しいし、本当に早く追いつきたいって思える試合なったので、皆さんから見て素晴らしいって思ってもらえるような演技、感動してもらえるような演技をもっともっと頑張りたいなと思いました」

――エキシビションでは、宇野がファンの選ぶベスト・エキシビション・パフォーマンス賞を受賞した。

宇野
「皆さんの善意だと思っているので、素直に受け取りたい。試合は点数として表れるけれど、エキシビションは点数として表れない。アイスショーはそういったところが良さだと思う。誰がいいとか、誰が悪いとか優劣つけるのは本当に好みでしかないので。そこまで大きく言及するつもりはないけれど、皆さんの気持ちは感謝したい」

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)