ロシア軍がウクライナに侵攻を開始してからもうすぐ2年になろうとしています。相変わらず高い士気を保つウクライナ軍ですが、それは自国の領土を絶対に渡さないという硬い意志以外にも理由があるようです。

ウクライナ軍の士気が高いワケ

 2023年6月初頭、ウクライナ軍は「侵略者」たるロシア軍に対する反転攻勢を開始し、それは11月現在も継続されています。その兵力の中心となっているのは、ドイツ製の「レオパルト2」やイギリス製の「チャレンジャー2」といったMBT(主力戦車)、アメリカ製のM2「ブラッドレー」を始めとしたIFV(歩兵戦闘車)などです。

 ただ、やはりロシア軍は侮りがたく、戦況はウクライナにとって決して楽観視できるものではありません。一部では苦戦も伝えられていますが、それにもかかわらず同軍将兵の士気は、これら西側製のMBTやIFVのおかげもあって高く保たれているともいいます。それはなぜなのでしょうか。


ウクライナ軍のT-72戦車。おそらく元はロシア軍が装備していたものと思われる(画像:ウクライナ国防省)。

 2022年2月に開始されたロシアによるウクライナ侵攻が始まった当初、ウクライナ軍のMBTやIFV、戦闘機や攻撃ヘリも含む主力兵器は、そのほとんどが旧ソ連(ロシア)製、あるいはそれをベースにした改良型や発展型でした。

 ロシア製のMBTやIFVは、戦車砲や対戦車ミサイル、機関砲といった搭載兵器が強力なのが特徴でした。加えてMBTは、乗員削減の目的で自動装填装置を常設するなど、攻撃力向上と合理化に目が向けられた設計となっていました。また、米英独などの西側戦車と比べて劣っていると言われた防御力についても、「ERA」と呼ばれる爆発反応装甲(通称リアクティブ・アーマー)の装着などによって、一定の配慮がなされていました。

 しかし実戦に投入されると、自動装填装置があるために砲塔直下の車体底部へ円盤状に主砲の弾薬を配した弾庫を設けたことがアダとなり、被弾時やその後の火災が原因で、この弾庫が誘爆して砲塔が吹き飛ぶ事例が多発しました。

 これは、すでに30年以上前に起きた湾岸戦争当時から判明していたことで、ゆえにアメリカの戦車兵たちは、びっくり箱からフィギュアが飛び出すさまになぞらえて、当時のイラク軍が使用していたT-72に「Jack in the Box(びっくり箱)」というあだ名を付けたほどです。

生き長らえれば戦闘スキルは確実にアップ

 ただ、以後もロシア製MBTはこの構造を基本的に踏襲し発展を遂げてきたため、今回のウクライナ紛争でも被弾時に同様の事態となるケースが頻発。結果、ロシア軍とウクライナ軍の双方で、乗員は死傷から免れない状況となっています。

 また、IFVの主力であるBMP-2も、ロシア式設計の常で攻撃用兵器こそ優秀で強力なものを装備していますが、今日の基準では、防御力と被弾時の乗員の生存性に問題のある設計であることは否めません。


砲塔内側の弾庫に誘爆、砲塔が吹き飛んでしまったロシア軍のT-72戦車(画像:ウクライナ国防省)。

 ウクライナ軍とロシア軍は開戦以降、ともにこのようなMBTやIFVを使用してきました。ところが今回の反転攻勢を前にして、西側諸国はウクライナに対し「レオパルド2」や「チャレンジャー2」、M2「ブラッドレー」を供給し、同軍はこれらを最前線の主力として運用しています。

 当然ながら、最前線における戦闘のなかでこれら西側製の戦闘車両も、すでに数多く撃破されていますが、「撃破された」という車両の損失に対して、乗員の死傷者数がきわめて少ないことが伝えられています。

 というのも西側のMBTやIFVは、車両自体はいくら撃破されようとも乗員さえ生還すれば、彼らはその戦訓を身に付けて新しい車両に乗り再び戦えるという過去の戦訓に基づき、乗員の生存を第一に考えた設計が施されているからです。

 その結果、最前線ではロシア製MBTやIFVに比べて、西側製のそれらの乗員の生存率は高いため、やはり西側製は優れているという一種の信頼感と安心感がウクライナ軍兵士たちに生まれているのだとか。

 しかも生還した乗員たちは、その戦訓を身に付けて「経験値を上げて」再び戦闘に参加できます。加えて、万一ロシア側の攻撃にあっても生還できる可能性が高いので、乗員たちの士気が旺盛になり、兵士個々のスキルがより向上し、戦いにも積極的になるという好循環が生まれているそうです。

高い生残性は高い士気に直結

 結果として、ロシア軍兵士よりもウクライナ軍兵士のほうが高い士気を保っていることが、奮闘を続けている大きな理由となっている模様です。一方で、ロシア側に関しては相も変わらず、戦わずして車両を放棄・脱出して逃亡する兵士が散見されると伝えられています。

 もしかしたら、西側製MBTやIFVに乗るウクライナ軍乗員の生存率の高さを知って、ロシア側はこれまで以上に戦意が低下しているのかもしれません。

 この流れは、ウクライナに対して米英独を始めとした西側諸国から各種戦闘車両の供給が続く限り絶えないでしょう。


ウクライナ軍のStrv.122戦車。ドイツ製「レオパルト2A5」のスウェーデン軍仕様で、ドイツのものよりも防御力に優れていると言われている(画像:ウクライナ国防省)。

 昨今、ウクライナ国防省が発表したところによると、2022年の開戦以降、ロシア側に累計で戦車5000両以上、戦車以外の各種装甲戦闘車両1万両以上という損失を与えたとか。このなかには前述の通り、ロシア軍兵士らが戦わずして前線に放棄していったものを鹵獲(ろかく)した数まで含まれます。そういったロシア側の動きこそ、まさにウクライナ側にとっては「戦わずして勝つ」といえるものでしょう。

 ウクライナ軍の士気向上と反比例する形でロシア軍の士気阻喪(そそう)が進んでいるのであれば、それはもう「目に見えない大戦果」といえるのかもしれません。