高速道路の深夜割引が、今よりはるかに複雑なものになる見込みです。走行距離だけでなく、スピードや休憩時間など“どう走ったか”も割引に影響してくるため、事前の計算が難しいものになりそうです。結果として、“その場で割引”はなくなります。

どれだけ複雑になるのか「新・深夜割引」

「あまりに複雑だ」――2023年11月7日にNEXCO3社(東日本、中日本、西日本)が高速道路の深夜割引の見直しに関する「無謀な運転の抑止策(案)」を公表すると、SNSでは悲鳴にも似た意見が相次ぎました。比較的空いている夜間に交通を転換させる効果がある一方で、様々な課題も指摘されている深夜割引は、今後どうなるのでしょうか。


深夜の高速道路PAにあふれるトラック(乗りものニュース編集部撮影)。

 現行の深夜割引は0時から4時のあいだに高速道路を少しでも走行すれば、適用時間外の走行も含めた全行程の料金が3割引となります。このため、割引適用待ちの車両による滞留や、ドライバーの労働環境の悪化などが指摘されています。これを受けて示されたのが、次のような見直し方針でした。

・割引時間帯を22時〜翌5時に拡大。
・割引時間帯の走行分のみを3割引(22時台に流出した場合、22時台の走行分は2割引)
・400km以上の長距離逓減を拡充:400km以上600km未満40%(現行の+10%)、600以上800km未満45%(同+15%)、800km以上50%(同+20%)

 これは、深夜割引の適用分を増やすため距離を稼ぐドライバーが出るとの指摘から、「無謀な運転の抑止策(案)」として次のような“上限”が発表されたところです。

●1時間あたりの割引対象距離に「上限」

 割引対象距離の上限を、割引適用時間における利用時間1時間あたり普通車等で100km、大型・特大車で80kmに設定(メーター誤差を加味して実際には105km、85km上限)。それぞれの車種の最高速度である100km/h、80km/hを超過して走っても割引対象にはならない(最高速度がそれ以上の区間も同じ)。ただし今後、トラックの規制速度の引き上げ等の結果に応じて見直し。

●割引時間帯に4時間以上走ったら、自動的に「30分間分」割引適用外

 割引適用時間帯において利用時間が4時間を超える場合、それぞれの車種の利用時間30分に相当する上限距離を減じる。法令がドライバーの労働時間の基準で、4時間以上運転した場合は30分の休憩をとるルールを考慮している。ただし、減じた後の上限距離は利用時間4時間に相当する上限距離を下回らない。

※ ※ ※

 これらに加え、もうひとつ、制度が大きく変わるポイントがあります。それは割引が「後日還元型」になることです。

割引は“いつ”還元されるのか?

 これまでは、対象時間帯に走りさえすれば3割引となったので、計算も容易でしたが、今後は“実際にどう走ったか”も割引に影響してくるため、事前に正確な料金を計算することは困難になると見られます。国土交通省の審議会資料によると、料金所通過時に割引適用後の料金を表示することも難しくなるため、後日還元型に移行するということです。

 その還元方法も、一般的な「ETCクレジットカード」を持っている人と、法人用のETC「コーポレートカード」を持っている人で異なります。いずれも、料金所通過時には通常料金が表示されます。

・ETCクレジットカードで利用する場合:ETCマイレージポイントで還元。
・ETCコーポレートカードで利用する場合:法人向けの「大口・多頻度割引」と合わせて割引処理。

 ETCマイレージポイントでの還元は、現行の「平日朝夕割引」でも実施されており、この割引では、その月(1日から末日まで)の割引対象となる利用回数に応じて還元額を月ごとに合計、利用月の翌月20日にマイレージを付与します。なお、ETCマイレージサービスに事前登録しなければ割引は適用されません。

 NEXCO東日本によると、深夜割引のマイレージ付与のタイミングについては、まだ具体的になっておらず、平日朝夕割引と同じになるかどうかは分からないとのことでした。

 主に法人向けの割引となる大口・多頻度割引は、窓口となる高速道路会社が車両の走行データをもとに1か月分の料金をまとめて請求し、それを翌月末までに支払う方式です。その走行データの計算で、深夜割引分が考慮される形になると考えられるものの、こちらも「どのタイミングで深夜割引を適用するかは具体的には決まっていません」(NEXCO東日本)ということです。


新たな深夜割引は料金所の通過時には反映されない見込み(乗りものニュース編集部撮影)。

 ただ、料金検索サイトなどにおいては、「利用ICと経路などから、一定の想定に基づく割引額を調べられるようにすることを検討しています」(同)。実際の割引額と必ずしも合致しないものの、事前に目安の割引額は調べられるようになるかもしれません。

 なお、上記の上限案についてNEXCO3社は現在、11月20日まで利用者からの意見募集を実施しています。