最新の決算で大幅な業績悪化が浮き彫りになったバルミューダ。その現状を読み解きます(写真:ロイター/アフロ)

2021年11月にスマートフォン市場に参入するも、2023年5月に撤退を発表したバルミューダ。これで業績も持ち直す……と思いきや、11月10日に発表された最新決算では、他部門の苦戦も浮き彫りになりました。

新著『買い負ける日本』が話題を呼ぶ、調達のスペシャリスト・坂口孝則氏による不定期連載「世界の(ショーバイ)商売見聞録」。著者フォローをすると、坂口さんの新しい記事が公開されたときにお知らせメールが届きます(著者フォローは記事最後のボタンからできます)。

バルミューダの決算報告

先日、家電メーカーであるバルミューダが2023年12月期(第3四半期)の決算報告をした。その内容が、かなりの業績の下方修正を伴うものだった。まずは、第3四半期の状況を前年と比較して見てみよう。

●売上高:79億5500万円←前年同期は124億9300万円
●経常利益:▲10億2900万円(経常損失)←前年同期は7400万円

このとおり、売上高が大幅に減少。さらに経常利益は出ておらず、経常損失となってしまっている。

さらに売上総利益(粗利益)は前年同期の33.2%から30.0%と悪化。また、販管費率も前年同期の32.0%から44.4%と大幅に悪化した。なお、貸借対照表で現金の減り具合を見てみると次のとおりだ。

●現金及び預金:8億4400万円←前年同期は12億4600万円

また、今回の発表を受けて、通年の予想も修正せざるをえなかった。表にまとめた。


(著者作成)

全体的に悪化している。これだけ大幅な売上高の減少があると、利益の確保は難しい。

ところで、その売上高の減少の主犯はいるのだろうか。

業績悪化を因数分解してみると…

そこで次に製品別の内訳を見てみたい。


(著者作成。なお携帯端末関連も計上されているが、全体の売上にほぼ寄与しないため割愛した/単位は百万円)

ここで衝撃的だったのはキッチン関連カテゴリであってすら、大幅な減少になっていたことだ。77億円の売上が、53億円になっている。空調も29億円が17億円。主犯はあえていうと「すべて」だ。一律に減少しており、想像以上の苦戦がわかる。

さらに、この傾向はビジネス地域を見ても同様だ。全面的に主要地域では減少している。


(著者作成。なお、その他の地域も発表されているが割愛した/単位は百万円)

なお同社は、日本と韓国で多くの収益を上げていると知られている。さらに北米のマーケットに力を入れている。もともと売上高が少なかった北米は、円安の関係もあって収益を一桁台パーセントの減少でとどまっている。

しかし、日本だけの傾向ではなく、韓国の約60%の減少がかなり目立つ。

さらに、次にあげるのは日本の分野ごとの前年比だ。意外だったのは、キッチンカテゴリで、さらに日本だけを見ても大きく下げている点だ。


(著者作成/単位は百万円)

バルミューダがあげた苦戦の理由は?

日本だけに限らず、全体的なこれら苦戦について同社は、理由をいくつかあげている。

【売上面】
・消費者の外出機会が増え、支出が生活家電以外に費やされた(巣ごもり需要の反動)
・物価上昇により生活防衛意識が高まった
・さらに日本だけではなく、韓国においても生活防衛意識が高まっていた
【費用面】
・中国や台湾で製品を生産、それを日本や韓国で売るモデルであり円安は大きな負のインパクトがあった

そして、同時に対策もあげている。

【売上面】
・タイ、マレーシア、シンガポールなどでのブランド展開
【費用面】
・固定費の削減(人員数、組織の再編成)

どれもたやすい方法ではないが、最速で黒字化にするとともに、成長基調へ復活するよう目指すとした。

ところで先日より、多くのメーカーが家電の苦戦を伝えているのは、たしかにそのとおりだ。先日、パナソニックも2023年度第2四半期の決算を発表した。アジアや中国での需要減少によって減収となった。

また、中国の不動産バブル崩壊に端を発する世界不況を予想する向きもある。国際的には金融の引き締めから、消費者の支出に、さらにブレーキがかかるかもしれない。

ただ、とはいえ、バルミューダの減少幅が激しいのは気になる。というのも、日本電機工業会が発表した2023年1〜9月の国内出荷額は1兆9317億円と減っている。減ってはいるものの、前年比98.5%だ。バルミューダの減少幅ほどではない。また、もちろん円安は苦しいかもしれない。

稼げる事業がない現状

しかし、コストの苦しさだけではなく、日本国内の売上高も大幅に減少している点が気になる。途中で説明したとおり、中心の事業と考えられるキッチン領域でも減少しているのだから。1つの事業が苦しくて足を引っ張っている、というよりも、現状では稼げる事業がない。

なお同社は決算発表の最後に「小型風力発電機の開発」をあげている。もちろん期待はできると思う。そして期待をしたいとも思う。ただ、本筋は、まずは本業のキャッシュの流出を止める。人材の圧縮も現時点ではやむなし。そのうえで、キッチン関連を復活させることだろう。家庭用の商品強化を図る。


坂口さんの最新の書籍『買い負ける日本』(幻冬舎新書)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

実際に4万円を超すホットプレートはさまざまなメディアで話題になったし、予想を超える売上になっている。生活者の質の向上に寄与する商品ならば、日本の消費者に着実なニーズがあるのだ。商品力の提案の維持は欠かせない。

そもそも、同社が狙っていた市場は、ニッチで消費者を選ぶ、しかしながらロイヤルティー(忠誠心)が高く商品単価も高い領域だったはずだ。多少の不景気や消費マインドの変化はあったとしても、継続して選んでもらえる“指名買い”に強みがあった。

そして、同時に他施策の展開も必要かもしれない。たとえば業務用への進出や、アジア以外の輸出・現地展開などだ。日本+家電+オリジナリティならば、まだ勝負は可能だろう。

もともとトーストあたりでは、バルミューダの、尖った、スタイリッシュでスマートなイメージを抱いていた消費者が多かったように思う。それが現在では、スマホ事業の撤退あたりから、さほどそういったブランドイメージをもっている消費者は少ないように思える。なかなか家電の分野でラディカルなイメージをもち続けるのは難しいかもしれない。ただ、それでも同社の健闘に期待したい。中国メーカーのように単なる量産型ではない、家電メーカーの新たな姿がそこにあるのだから。

(坂口 孝則 : 調達・購買業務コンサルタント、講演家)