三笘薫のシャビに通じる「方向性のよさ」を再認識 日本代表でも発揮できるか
プレミアリーグ第12節、ブライトンホームのアメックススタジアムに3万1367人の観衆を集めて行なわれたシェフィールド戦。
前戦のヨーロッパリーグ(EL)アヤックス戦で珍しく低調なプレーを見せた三笘薫は、この試合ベンチスタートとなった。プレミアリーグ、ELで8試合続けてきたフルタイム出場はここで途切れることになった。
代表戦ウィークを控えた最後の試合である。イギリスと日本の時差は現在9時間。帰国して2日後に時差ボケと戦いながら試合をするわけだ。相手が弱小のミャンマーでも、高いパフォーマンスは望みにくい。ベンチスタートというロベルト・デ・ゼルビ監督のこの判断は、歓迎すべき話だった。
しかし、三笘がベンチを温めている時間は短かった。試合は前半6分、三笘のポジションに入ったシモン・アディングラ(コートジボワール代表)のゴールでブライトンが1−0で前半を折り返す展開だった。余裕はあったかに見えたが、デ・ゼルビ監督は後半の開始時に早くも三笘を投入した。
シェフィールド戦に後半から出場した三笘薫(ブライトン)photo by REX/AFLO
外から内を突いてゴールを決めた先制点のシーンに象徴されるようにアディングラの左ウイングとしてのプレーは上々で、左ウイングの選択肢がこれまでなぜ三笘のほぼ一択に限られたのか、疑問に思うほどだった。
右ウイングにはすでにアルゼンチンのA代表にも1度選ばれたことがある18歳、ファクンド・ボオナノッテが入った。そのプレーは、マイボールに転じるや内寄りにポジションを取ることが多く、右のサイドは右サイドバック(SB)として出場したパスカル・グロス1人が低い位置で張る恰好になった。深みのあるサイド攻撃ができにくい状態にあった。三笘が後半の頭から出場する必然性を探すならば、そこになる。
だがこの日、1トップとして先発出場したアンス・ファティも左ウイングをこなすことができる選手だ。バルセロナ時代は左ウイングを本職としていたほどである。にもかかわらずデ・ゼルビ監督は、三笘を早々にピッチに送り込んだ。よほど好きなのか。信頼を寄せているのか。せいぜい後半残り20分ぐらいになってからの出場だろうとの読みは大きく外れることになった。
【アヤックス戦とは別人のような動き】
ピッチに現れた三笘はアヤックス戦とは別人のような快活な動きを披露した。後半5分、8分、13分と左のウイングプレーで次々と見せ場を作った。続く16分にはアンス・ファティのパスを受け、決定的なシュートに及んでいる。相手GKに防がれたものの、さすが三笘と言いたくなる品格を感じさせる高級なプレーだった。
追加点は時間の問題。そう思われた矢先だった。後半24分、MFマフムート・ダフードが相手の足を故意に踏みつけ、一発レッドで退場に処されてしまう。1−0ながら余裕の試合運びを見せていたブライトンは一転、慌てふためくことになった。そしてその5分後、シェフィールドに同点とされてしまう。
相手はそれまで11戦して1勝しかしていない最下位チームである。大誤算とはこのことだ。ブライトンのような決して大きくないクラブは、欧州カップに出場すると両立することの難しさから、国内リーグの成績を大きく崩すことがある。ブライトンにその可能性は低いと思っていたが、ここに来て怪しいムードになっている。シェフィールド戦は結局、1−1のまま引き分け。ブライトンはプレミアリーグにおいて過去6試合で勝ちなしとなった。マンチェスター・ユナイテッドに抜かれ順位は8位に後退した。
左SBに故障者が続出し、適性のある選手を配備できなくなっていることがその大きな原因である。この日先発したイゴール・ジュリオも本職はセンターバック。タッチライン際でサイドアタッカー然とプレーすることを得意にしているようには見えなかった。
三笘にとって最適な相手=ペルビス・エストゥピニャンは、先のアヤックス戦で後半に交代出場したと思ったら、即、異状を発生させ退場する始末。左SBはブライトンにとって浮沈のカギを握るポジションになっている。
SBが活躍したほうが勝つ。SBが活躍するサッカーこそがいいサッカーとは、欧州でよく耳にする格言だが、ブライトンも実際、左サイドの高い位置に、三笘とエストゥピニャンの2者関係にもう1人が加わり、3角形が形成されたとき、大きな崩しができていた。
【伊藤洋輝との関係は?】
日本代表のウルグアイ戦、ペルー戦、ドイツ戦で、三笘と左サイドで縦に並んで構えた選手は伊藤洋輝(シュツットガルト)だった。しかし、これまで伊藤は三笘との関係でエストゥピニャン役を果たすことができたとは言えない。シェフィールド戦に左SBとして出場したイゴール・ジュリオ同様、後方待機が目立った。左ウイングと左SBは濃密な関係を築くことができなかった。森保ジャパンのわかりやすい改善点である。
シェフィールド戦の三笘は、最後までキレのいい動きを見せた。後半35分と43分にも自慢のドリブルでホームの観衆を沸かせた。
そこであらためて目に留まったのが方向性のよさになる。進むべき方向に間違いがないのだ。その昔、バルセロナの記者が、シャビ・エルナンデス(現バルサ監督)のことを「大海原を越える航海士のようだ」と称していたことを思い出す。舵の切り方、つまりボールを持ち出す方向に間違いがないのだ、と。ポジションは異なるが三笘にも同じ特徴がある。
後半43分のシーンでは、前方に三笘の進路を阻止しようと、相手守備者が最低2人構えていた。だが三笘は彼らに挑んでいきながらも、その逆を突いた。ボール(下)を見ないでドリブルするという操作ができるからだ。対峙する選手の逆を取るだけではない。その先を見通す目も備えているので、ディフェンス陣全体の陣形の逆を取る動きができるのだ。
味方は逆に呼吸を合わせやすい。三笘のドリブルはパスワークと良好な関係にある。その昔、前園真聖がドリブルを始めると、周囲の味方選手が思わず見入ってしまうことがあった。よくも悪くも我が道を行くドリブルに周りの選手は困惑させられた。香川真司も似たような傾向を示すところがあったが、少なくともブライトンの三笘は常時、周囲との三角形を意識しながらドリブルに及んでいる。周囲の気配を察知する能力に長けている。ケレンミがないというか臭みがないというか、理詰めで無理がない。視野が広くドリブルとパスの使い分けがうまいのだ。
日本代表でこの本領が発揮される日は訪れるのか。とりあえず左SBとのコンビネーションに目を凝らしたい。