キャリア通算8回目となるバルセロナ戦を迎えた久保建英。チームは0−1で敗戦したものの、個人としては存在感を発揮した。今回はスペイン紙『アス』およびラジオ局『カデナ・セル』でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、そんな久保に対する地元の熱狂ぶりをレポートしてもらった。

【「バルサでもスタメンだ」とカタルーニャの番記者】

 高いレベルに達したプレーで、チームにおいて卓越した存在となっているこの日本人プレーヤーが、仮にシャビ・エルナンデス率いる現在のバルセロナに加入すると仮定した場合、間違いなくスタメンを張るだろう。


バルセロナ戦でプレーした久保建英 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 ブラウグラナ(バルセロナの愛称)を日々追っているカタルーニャの同僚たちも、"久保がバルサでどのような役割を果たせるのか?" といった議論を交わしていたが、その結論はやはり "バルサの先発イレブンに入ることができる" という断定的なものになっていた。

 しかも、バルサが今夏獲得したなかでもベストの補強、攻撃陣で最も才能ある選手と言われているポルトガル代表FWジョアン・フェリックスよりも、久保を優先するというのが大多数の記者の意見であった。

 この事実は、スペインで最も影響力のあるメディアから久保がどのように見られ始めているか、を明確に反映したもの。彼はもはや、ヨーロッパのビッグクラブにリストアップされるほどのポテンシャルを秘めたクラック(名手)という評価を受けているのだ。

 バルサ戦が始まって明らかとなったのは、レアル・ソシエダの優位性および久保のハイパフォーマンスである。それは記者の間で話されていた久保に関する議論の結果を裏づけるものとなった。

 久保はバルサ相手にゴールチャンスを生み出すだけでなく、チームメイトを有利な状況に導く能力にも長けていた。そして何よりもフィジカル面の強さが増していたのには、目を見張るものがあった。これはサッカー選手として成長の基礎となり得るものだ。22歳の久保にはまだ進化し続ける余地が十分ある。

【ボールをほぼ失うことなくプレー】

 試合前には、久保に関するバルサでの過去や、FIFAの制裁によりラ・マシア(バルセロナの育成組織)でキャリアを積む機会を逃したことなどが話題に上がっていた。

 また、バルサ戦とあって、特に久保が意欲を燃やしているのではないかという話も出ていたが、イマノル・アルグアシル監督の見解は違ったようだ。

「タケがモチベーションを高めているのは、ホームサポーターの前でプレーするからだ。それが唯一の理由だよ。タケはラ・レアルのカラーを守るため、毎試合ピッチで全力を尽くしている」

 イマノルの言葉通り、この日も久保はゲームに集中し、非常に鋭いプレーを見せた。実際、ラ・レアルのチャンスは両ウイングからもたらされ、右の久保と左のアンデル・バレネチェアは、この日チームで最も際立った選手だった。

 久保はボールをほぼ失うことなく、アマリ・トラオレの守備をサポートし、まるでこれが最後であるかのようにすべてのボールに全力で臨んでいた。唯一欠けたのは、フィニッシュワークやアシストといった、決定力や最後の局面での精度だった。

 イマノルは試合後、「タケはいつも通り積極的にプレーしていた。しかし彼のようなウイングが際立つためには、チームメイトがすばらしいボールを供給してくれる必要がある。我々はタケの仕事ぶりやもたらしてくれるものすべてに満足している。彼はもっと向上するために努力し続けなければならないが、ホームでは彼のチームとの関わりを見ることができる」と語っていた。

【スペインでも特別な注目を受けている】

 バルサ戦では、またしても久保が最も注目された選手になっていた。しかしそれはラ・レアルや日本代表のユニフォームを着て、レアレ・アレーナで試合前に写真撮影を楽しむ日本人ファンが大勢いたからだと言っているわけではない。

 彼はサン・セバスティアンですでにスター選手であり、間違いなくサポーターに最も愛されている選手のひとりになっているからだ。

 私たちが「クボマニア」と呼んでいるサン・セバスティアンでの久保現象は、様々な事柄によって裏づけられている。久保はチームで最もメディアの注目を浴び、レアル・ソシエダの国際的な知名度を飛躍的に高めている選手なのだ。

 ジョキン・アペリバイ会長は、「もしタケが退団してここから去るのならば、我々はラ・レアルとラ・リーガのために、新たなタケを見つけなければならない」と最近語っていたが、これだけでも久保のピッチ外における重要性がどれだけ大きいかを物語っていると言っていい。彼の存在はすでにスポーツという枠を超え、今や社会現象となっている。

 すでにスター選手としての地位を確立している久保は、様々な場面で特別な注目を受けており、その逸話のひとつが先日の国王杯での出来事だ。久保は6歳の少年にユニフォームをプレゼントしたお返しとして、ポップコーンをもらった。

 バレンシアの少年はラ・レアルのサポーターではなく久保の大ファンで、その夜はうれしすぎて、そのユニフォームを着て寝たという。

 また、敵地バレンシアの空港に到着した際、先にゲートを出たチームメイトたちは誰も写真やサインを求められなかったが、久保が姿を見せるとその状況が一転した、というエピソードもある。

 久保にとってはサインをしたり、ファンと写真を撮ったりするのは慣れたことだ。レアル・ソシエダのトレーニング施設であるスビエタの入り口には、遠く日本からやって来たファンが必ず2、3人はいて、久保はいつも通りの自然体で接している。

【ユニフォームは他選手の2倍の売れ行き】

 久保の活躍とチームが好調であるおかげで、日本でのレアル・ソシエダのチケットの売れ行きが急上昇している。2年前、クラブのウェブサイトを通じて日本から購入されたチケットは1枚もなかったが、今では毎試合15枚から20枚ほどが売れている。

 さらに、スタジアムのチケット売り場で直接購入する日本人もいるので、レアレ・アレーナのスタンドでは毎試合30人ほどの日本人ファンを目にすることができる。

 さらに久保はレアル・ソシエダのオフィシャルショップで現在、最も多くのユニフォームが売れている選手であり、具体的にその数は他の選手の2倍である。

 またSNS上でクラブは毎日、久保に関する情報を発信している。X(旧ツイッター)のメインアカウントが75万人に対し、日本語アカウントは短期間で9万人近いフォロワーを獲得している。

 そんな久保の存在はレアル・ソシエダおよび、クラブのプロジェクトにとって非常に重要であり、スペイン国外の人たちにとっては久保が最大の魅力となっている。実際、クラブ幹部が「君がその理由だ」と本人に告げていたように、今夏のアメリカ遠征は久保がいたから招待されたのだ。

 また最近、日本企業のヤスダ・グループと交わされた契約でも、久保の存在は不可欠だった。今季終了後に日本で開催予定のフレンドリーマッチの契約書には、目玉となる久保は必ずメンバー入りし、可能な限り出場しなければならないと明記されている。

 ジョキン・アペリバイ会長はこの契約発表会で、「もちろん久保の存在が非常に重要であり、契約合意の鍵となった。我々がアクセスすることのなかった日本の企業への扉を開いてくれた」と語っていた。

 さらにラ・レアルが日本向けに行なっている活動のなかには、日本から来た12〜15歳の8人の少年たちがスビエタのスクールで練習し、スペイン語の授業を受けているというものもある。

 好むと好まざるとにかかわらず、レアル・ソシエダは久保の存在によって、日本との関係を深めているのだ。
(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)