悲願のツアー初優勝を果たし、トロフィーを手にポーズをとる菅沼菜々【写真:Getty Images】

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国内ツアー・NEC軽井沢72でツアー初優勝

 女子ゴルフの国内ツアー・NEC軽井沢72最終日が13日、長野・軽井沢72G北C(6702ヤード、パー72)で行われた。3打差の単独首位で出た23歳の菅沼菜々(あいおいニッセイ同和損保)が通算16アンダーで並んだ神谷そら(郵船ロジスティクス)とのプレーオフ(PO)を制し、悲願のツアー初優勝を果たした。「広場恐怖症」のハンデを持ちながらプロ6年目でついに栄冠。二人三脚で支えた父でコーチの真一氏は、高校時代のある出来事がゴルフ人生のターニングポイントだと回顧した。(取材・文=THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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 悲願の初優勝に涙した菅沼。明るくキュートなキャラクターで高い人気を誇るが、全国を転戦するゴルファーにとって大きなハンディキャップとなる「広場恐怖症」を抱え、苦悩もある中で遂に掴んだ1勝となった。

 投稿サイト「note」でも持病について公表しており「電車、飛行機、船、ヘリコプターなど……自力で外に出られない状況があると発作が起きます」と説明。公共交通機関を利用できないため、北海道や沖縄での試合には出場できない。

 そんな菅沼を支えているのが、父でコーチを務める真一氏。オンラインでの業務を中心にIT企業で活躍する一方、自ら運転する車で菅沼とともに各地を転戦。最大1200キロほど移動することもあり、ハードな日々を過ごしてきた。

 幼少期からゴルフ人生を見届けてきた真一氏よると、最大のターニングポイントは埼玉栄高2年時の秋。広場恐怖症、無気力症候群に陥った頃だった。

ゴルフを辞めると言って、7か月ほどクラブを置いたことがあります。どちらかというと栄養管理士だとかトレーナー、支える側に行きたいと。親からしても、その7か月は辛かったですね」

 菅沼本人にも当時のことを聞くと「抜け殻状態、何もない感じ」と回顧した。学校に行って、帰ってを繰り返すだけの日々。真一氏は敢えて再起を促すような言葉は伝えなかった。「お前の人生だし、お前が好きにすればいい」。内心は気が気じゃなかったが、自分の人生に責任を持ち、後悔なく生きてほしいという親心だった。

再起のきっかけは翌年のコンサート「わたしもこういう風に…」

 ゴルフから離れて約7か月が経過した2017年5月、3年生になった菅沼はゴールデンウィーク中に友人とアイドルグループ「Sexy Zone」の5周年記念コンサートを訪れた。以前からのファンで、推しメンは佐藤勝利。ステージ上でキラキラ歌って踊って、観客の心を鷲掴みにするメンバーの姿が、萎れていた心に火を灯した。

「私もこういう風に誰かを感動させて、笑顔を届けたい」

 コンサートから家に帰るとすぐ「ゴルフをやる」と伝えた。父も娘も「あのコンサートがなければ、今はない」と声をそろえる。突然の宣言を受けた当時について、真一氏は「嬉しかったですね。でも、なるべく平静を保って『そう?じゃあ、やろうか』みたいな反応をしたと思います」と笑った。

 練習を再開し、数か月後に行われた日本ジュニアゴルフ選手権で西村優菜、吉田優利(ともに当時2年)らを抑えていきなり優勝。ブランクを感じさせず2018年のプロテストに合格し、目標のプロゴルファーとなった。

 普段からインスタグラムやツイッターでも積極的に発信する菅沼。今年からJLPGAブライトナーとして、よりファンとの距離が近い選手を目指している。写真の撮り方や投稿内容は「乃木坂46」も参考にしているが、根本には自分を蘇らせた「Sexy Zone」の姿もあるのは間違いない。

 優勝会見で「応援して下さる方がたくさんいて、会場でも声をかけてくださる方がたくさんいる。その人たちに支えていただいた」と感謝を口にした23歳。父と二人三脚で遂に手にした優勝で、待ち続けたファンに間違いなく感動と笑顔を届けた。

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)