なかなか眠れない状態が続いたとき、どうすればいいか。浜松医科大学名誉教授の高田明和さんは「実は「眠れない」状況に陥るのは脳の問題だけで、からだは勝手に眠った状態に誘導されていく。私も、睡眠問題に悩んできた一人だったが、ベッドに入って寝つけないときは体のあちこちが徐々に休息モードになっていくのを感じると、いつのまにか脳も眠りに落ちているのだ」」という――。

※本稿は、高田明和『65歳からの孤独を楽しむ練習 いつもハツラツな人』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

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■薬物療法で廃れた対話療法の本当の効果

19世紀から20世紀にかけて活躍した精神分析のパイオニアだったフロイトが、うつ病などの患者に対してまず行なった治療は、「患者さんの話を聞く」というものでした。

患者さんの話を聞き、苦しみの根源がどのような過去の体験にあるのかを探る――それが現在の心療内科における「カウンセリング」的な治療法の出発点となりました。

その後、20世紀末になって精神医学が発達し、うつ病への「薬物療法」が始まったことで、フロイトが行なったような対話療法は、徐々に廃れていきます。

しかし近年、抗うつ剤のような薬物は、「それほどの効き目がないのではないか」とされはじめています。

「プラシーボ(偽薬。プラセボとも)効果」というものがあります。「この薬は風邪に効きますよ」と言って、ただのビタミン剤などを患者さんに渡すと、その効果を信じた体が免疫力を上げ、風邪の症状などが治ってしまうことがあります。

これまでの抗うつ剤の成果とは、そうしたプラシーボ作用の範囲内ではないか、というのです。実際のところは、プラシーボというのは言いすぎであり、自殺をしようとするような強度のうつ病に対して、抗うつ剤はそれを引き留める程度の効果はあります。

しかし、その前段階であれば、薬に頼らず、医者がその苦しみを聞きながら一緒に解決する「認知行動療法」が、昨今のうつや不安の治療法の主流になりつつあります。

■「心の内を語れるこんな相手」を確保しなさい

この心療内科の先生と同じような役割を果たしているのが、たとえばキリスト教などの宗教でしょう。特にカトリックでは、教会で神父に罪や苦しみを打ち明け(告解)、「お前の罪は赦された」と告げられることで、心のケアをしている信者は大勢います。

人は苦しいとき、その心の内を人に聞いてもらうと、気持ちが楽になるのです。だから、うつへの対策として、人と話すことは重要だ、と言いたいのです。

というわけで、「誰かに心の内を聞いてもらう」ことが、孤独感を抱かずに老化を遅らせることにつながります。

写真=iStock.com/Kobus Louw
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しかし、「そもそも、そうやって打ち明けられる人がいないから、孤独感を覚えるのでないか」と、お思いになるでしょう。

いえ、別に相談する相手は誰だっていいのです。定期的にクリニックに通って相談するのでもいいし、もしも自分の話をしっかりと聞いてもらえるのなら、お坊さんの説教とか、キリスト教のミサに参加してもいいでしょう(聞いてもらえないなら逆効果になるかもしれませんが)。

市町村の催しには、カウンセラーや心理学の先生に相談できる機会があるかもしれません。

ただ、家族や親しい友人に相談すれば、相手の負担になりかねません。相手だって、相談されたところで、どうしていいかわからないからです。

本格的にうつの傾向を感じるならば、それこそ心療内科の先生を訪ねてみてください。心理的な問題のプロに頼むことが、孤独感への対策として重要なことでしょう。

■高齢になると「眠い」という感覚が得られなくなる

年を取ってから孤独感が増す原因には、寝つきが悪くなることも含まれます。

高齢になると、「眠い」という感覚が起こりにくくなります。あなたがもし、ある程度の年齢の方なら、夜中に目が覚めてトイレに行ったら、その後なかなか寝つけずそのまま朝を迎えてしまった、という経験があるかもしれませんね。

子供のころは、目をつぶれば、ひたすら眠っていました。遊び疲れたら自然に眠くなるのが普通でした。

ところが年を取ると、脳内で分泌される眠りをコントロールするホルモンの量が減り、「眠い」という感覚が得られなくなっていきます。体は眠りを欲しているのに、心が眠気を受け付けないせいで、眠れなくなるのです。

「眠れない」という状況を放置しておくと、どんなにメンタルが強い人でも、やがて心が蝕まれていき、孤独感を強く抱くようになってしまいます。

ただでさえ人間関係や健康のことで孤独感が増しているのに、眠れなくなれば、くよくよと将来を憂える時間ばかりが増えます。すると睡眠不足からうつになるなど、体に悪い影響が出てくることもあるわけです。

ですから、医師は「ハルシオン」などの睡眠導入剤を使うのですが、なかなか効果は現れません。お酒に頼っても、飲酒はかえって睡眠を浅くしますので、余計に眠りにくい体質が強化されてしまいます。

次に解説する高田流快眠法で「よく眠る」ことが老化を遅らせます。

アルツハイマー型認知症が起こるしくみのところで述べた脳内に生じるゴミのようなタンパク質「アミロイドβ」は、寝ている間に脳から排出されます。もしも、眠れなくて困っているという場合は、ぜひ、私が編み出した次の快眠法をお試しください。

■体のあちこちが徐々に休息モードになっていく

私も、寝つけない、眠れないという睡眠問題に悩んできた一人ですが、ようやくよい解決法を見出しました。名づけて「高田流快眠法」です。

実は「眠れない」状況に陥るのは脳の問題だけで、「眠い」という意識や感覚がなくても、体のほう、つまり手や足、胃腸などはひとりでに眠った状態に誘導されていくのです。

だから、ベッドに入ったけれど寝つけない、というときは、目を閉じて、「もう手は眠っているな」「背中は眠っているな」と、体のあちこちが徐々に休息モードになっていくのを感じていくようにします。するといつのまにか、脳も眠りに落ちていきます。

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私はこの方法を編み出してから、毎日、快眠を楽しんでいます。それまでは、「眠れない、眠れない」と焦るため、逆に意識がはっきりしていっていました。

何時間も坐禅を組んだこともありましたが、これまた余計に頭が冴えてしまい、そのうえふと過去の経験を思い出し、孤独感を蒸し返したりして最悪な心理状態になっていくことがありました。

もし、この入眠法を試しても眠れなければ、逆に起きてしまえばいいでしょう。朝方にでも眠くなったら眠ればいい。よくないのは、くよくよ考え続けてしまうことです。

■暇な毎日を繰り返すうちに喪失感と孤独感で頭の中がいっぱいに

孤独に対しても、老後の人生に対しても、男性よりも女性のほうがずっと強い精神を持っています。一説によると、配偶者が亡くなった場合、妻を失った夫は平均して2年ほどしか生きませんが、夫を失った妻は平均して15年ほど生きるとか。

平均寿命も、2022年の厚生労働省の統計では、男性が81.47歳なのに対し、女性は87.57歳となっています。

ただし、女性のほうがアルツハイマー型認知症になる割合は高いので、必ずしも女性のほうが「老化に強い」ということではありません。

孤独感に関していえば、女性は近所の人などとの付き合いを広げやすく、料理や掃除など、たくさんの「やるべきこと」を見出しやすいようです。だから決して毎日に退屈はしないし、生活のルーチンも楽しみやすい傾向があります。

男性の場合は、食事にしても出されたものを食べるだけで、自分で作ろうとはしない人が多く、そういう人は、妻が亡くなってからも、自分で献立を考え、料理をすることはほとんどありません。外食をしたり弁当や惣菜を買ってきて食べるだけ。そして、15分くらいで早々に食べ終わってしまったら、あとはやることがない……。

そんなふうに、献立や調理手順に頭を使うこともなく、暇な毎日を繰り返しているうちに、喪失感と孤独感で頭の中がいっぱいになってしまうわけです。

■会社人間だった人は、家事にどんどん手を出しなさい

このような事実も逆算して孤独感対策に応用するならば、会社人間だった人は、年を取ったら今までやらなかった家事にどんどん手を出すようにしていけばいいのです。

買い物はもちろん、掃除や洗濯、料理に凝るのもいい。アイロンがけだって裁縫だって、トライしてみればなかなか難しくて、それがまた面白いでしょう。

高田明和『65歳からの孤独を楽しむ練習 いつもハツラツな人』(三笠書房)

「家事を究める」も老化を遅らせることにつながるのです。

やってみればあらゆるものは奥深いし、上達することが生きがいにもなってきます。

たとえ自分だけしか食べない食事でも、凝りだせばだんだんと楽しくなります。

それでもどうしても淋しいのであれば、それこそSNSでも発信してみてください。

SNSは、たった数回で誰も反応してくれないとあきらめてはいけません。もてあましている時間を味方につけて日々のアップ回数を多くし、数週間、数カ月と根気よく発信し続けていれば、やがて誰かが反応してくれるでしょう。

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高田 明和(たかだ・あきかず)
浜松医科大学名誉教授 医学博士
1935年、静岡県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了。米国ロズウェルパーク記念研究所、ニューヨーク州立大学助教授、浜松医科大学教授を経て、同大学名誉教授。専門は生理学、血液学、脳科学。また、禅の分野にも造詣が深い。主な著書に『HSPと家族関係 「一人にして!」と叫ぶ心、「一人にしないで!」と叫ぶ心』(廣済堂出版)、『魂をゆさぶる禅の名言』(双葉社)、『自己肯定感をとりもどす!』『敏感すぎて苦しい・HSPがたちまち解決』(ともに三笠書房≪知的生きかた文庫≫)など多数ある。
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(浜松医科大学名誉教授 医学博士 高田 明和)