選手たちを悩ませるサイン転売の問題、被害を知る選手の本音は【写真:Getty Images】

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女子ゴルファーを悩ませるサイン転売問題、現場の声は

 近年ますます盛り上がりを見せる国内女子ゴルフツアー。若手、中堅、ベテランにそれぞれ数多くの実力者が揃い、人気、関心が高まる一方、選手たちを悩ませているのがサイン転売の問題だ。

 時間をかけて丁寧にサインしたアイテムやグッズが、フリマサイトなどで高額出品されているケースは少なくない。悪質な“バイヤー”の行動、被害を知る選手の本音について、ツアー会場で聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・宮内 宏哉)

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 あるフリマサイトで「ゴルフ サイン」と検索をかけると、数えきれないほどの出品がヒットする。

 特に多いのがボールやキャップ。手軽にサインしてもらえる小さなアイテムが、同じアカウントから大量に出品されている場合もあり、中には数万円の値がつけられているものも。10万円以上の高値で売られているキャディーバッグなどもあった。

 この多くが、選手の善意を踏みにじる転売品。胸を痛めている女子ゴルファーは数多い。

 国内女子ゴルフツアーでは、プレーを終えた選手が会場を後にする前に、現地に応援に来たファンにサイン対応することがある。ひとたび選手が立ち止まれば長蛇の列が生まれ、時には1時間近くペンを走らせる選手も。子供には中腰で目線を合わせ、1人1人に「ありがとうございます」と丁寧に声をかける姿は感心させられる。

 成績だけを考えれば、調整やケアに時間を使ったほうがプラスかもしれない。しかし、会場で話を聞いたあるシード常連の選手は「(プレーの妨げになるため)会場の写真撮影が禁止されているので、サインは数少ない形に残る思い出。全ては難しいけれど、可能な時には応じてあげたい」と積極的な姿勢を示した。

 サインができるかどうかはルーティンや体調、その日の予定によって判断されるため、全ての選手が全ての求めに応じることはできない。立ち止まっている選手が貴重な時間を割いていることは確かだ。

 そこまでして書いたものが売られてしまっていると知ったときの無力感は察するに余りある。選手は転売前提でサインをしておらず、快く思わないのも当然。特に陰湿なのが、子供がもらったサインを親が転売するケースだ。

 プレーヤー側もジュニアに夢を与えたい思いがあり、特に子供相手には断れない。そんな事情を利用した親が、会場で子供に複数人のサインを集めさせる事例もあるという。

 被害を受けるのは選手だけではない。そばで支えるキャディーに対し「サインをもらう約束をした」と高圧的な態度で詰め寄り、無理やり対応させる悪質な観客も過去に目撃されている。

「子供を使うのが一番イヤ」 最後は貰い手の良心次第

 転売されているのは会場でサインされたものに限らない。

 オフのイベント等でプレゼントした実使用グッズや、選手が思いを込めて作ったオリジナルグッズが並べられてしまっていることも。ツアー優勝経験もある選手の1人は「特別なもの、愛着あるものが売られてしまうのは……だったら捨ててしまった方がよかったかも、と心苦しくなる」と正直な思いを口にした。

 女子ゴルフ人気の高まりとともに、サインの需要も上昇。本当に必要としているファンへ向け、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)は選手会に相当するプレーヤーズ委員会の協力のもとチャリティーオークションを実施し、サイングッズなどを販売。収益金は寄付する取り組みを過去に行っている。

 ただ、コースで書いたサインの行方については書面などを交わしているわけではなく、貰い手の「良心」に委ねるしかないのが現状だ。

 日付と宛名を書くことで一定の抑止が期待されるとの意見もあるが、ボールなどは擦れば部分的に消すことができ、意味をなさないという。

 サインをするのはプロとして当然の義務で、仕事の一つという考えもあるが、筆者はそうは思わない。

 毎年ランキングで職場を失う可能性を背負いながら、3月から11月末まで毎週、最大38試合。全国各地を転戦し、試合のない日も調整、トレーニングに励む。たった1打の違いで賞金が数百万円変わることもあるシビアな世界。肉体的にも精神的にもタフなシーズンを戦い抜く時間の使い方は、選手に選ぶ権利があると考える。

 それでもファンとの交流を優先したゴルファーの思いを踏みにじる転売を、出品者は今からでも思いとどまり、購入者側も「買わない」選択をすることに少しでも繋がればとの願いを込めて、今回聞いた現場からの声を記したい。

「他の選手がSNSに上げているのを見ると、自分はどうなのかなと見たりする。ほとんどの選手が問題を認識していると思います。サインを求めてくれるのはありがたい。でも、完全にそれ(転売)目的で来ている方は排除したい」

「転売のためにサインをしているわけじゃない。中には3万円とか、10万円とかの値段がついているものもあって、自分に価値をつけられればつけられるほど、サインするときに思うことが増えてくるのはあります」

「子供を使うのが一番イヤだなと……子供たちもかわいそうだし、選手が断れないのは分かっているはず。大人になって、そういうことをやっていると知ったときにどう思うか」

「サインはプロであるからこそのサービスだととらえられていると思うけれど、その10分を練習に回せば何か掴めるかもしれない。帰る時間が遅くなっても良いと思って、それだけの時間を使っているということは理解してもらえると嬉しい」

(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)