画像は【公式】『Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)』コンセプト映像「いい睡眠リズムを、つかまえよう!」 - YouTubeより

スマホで記録した睡眠データを使ってポケモン育成

注目を集めていたスマートフォン向けアプリ『Pokémon Sleep』が2023年7月20日から配信が始まった。本作は、ポケモンたちが登場する睡眠ゲームアプリ睡眠時、枕元にスマートフォンを置くことで睡眠トラッキングを行うことができ、睡眠データを記録できるほか、ポケモンたちの育成などが楽しめる。

実は本作、発表されたのは2019年5月のことである。発表から配信までかなり時間が経過していたものの、それでも中止にならずこうしてリリースされた。かなり時間をかけて配信された『Pokémon Sleep』には、さまざまな「目的」があると考えられる。

『Pokémon Sleep』のゲーム内容について説明しよう。

本作は寝るときにスマートフォン(もしくは別売りの「Pokémon GO Plus +」)を枕元に置くことで、加速度センサーとマイクで睡眠時間・質を測定するという。

結果によって睡眠スコアが発表されるほか、ポケモンにたとえた睡眠タイプも示される。また、ポケモンに関連した睡眠導入BGMや、眠りが浅い状態で起こしてくれるスマートアラームも搭載されている。


画像は【公式】『Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)』使い方の紹介 - YouTubeより

そして、計測後にゲームらしくなってくる。日中はプレイヤーと似た睡眠パターンを持つポケモンたちが集まってくるため、そのポケモンたちの寝顔を調査して「寝顔図鑑」に記録できる。この図鑑を埋めるのが大きな目標となっている。

睡眠スコアが高いほど、カビゴンがよく育つ

また、眠ってばかりのポケモン「カビゴン」を育成する要素も存在する。睡眠スコアが高ければ高いほど、カビゴンに与えるエナジーが大きくなり、よりよく育っていくわけだ。なお、フレンドとの交流要素も用意されている。


画像は【公式】『Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)』使い方の紹介 - YouTubeより

要するに、眠れば眠るほどポケモンが集まって収集・育成が楽しめる。シンプルながらも、よりよく寝ようとプレイヤーに思わせる仕組みになっているわけだ。

すでに、ポケモンと楽しく歯みがきを習慣化するゲームアプリポケモンスマイル』が出ているように、株式会社ポケモンは生活と密着した取り組みを行っている。

こういったゲームを出すことには非常に大きなメリットが存在する。

1つ目は「ゲーミフィケーション」だ。これは生活や仕事の動作をゲーム化しておもしろくするというものである。

映画『メリー・ポピンズ』の「A Spoonful of Sugar」のように、仕事や雑事をゲームとして捉えられれば楽しく行えるし、効率もよくなる。面倒に思いながらしぶしぶやるよりも何倍もいいだろう。


画像は【公式】『Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)』コンセプト映像「いい睡眠リズムを、つかまえよう!」 - YouTubeより

2つ目は、睡眠時間が増えること自体の価値だ。当然ながら、睡眠は健康に大きく関わってくる。健康状態の維持は個人の幸福にも国の活力にも繋がるわけで、きちんと眠ったほうがいいに決まっている。そのためには睡眠を記録することが重要になるわけだ。

そしてもちろん、こういった生活に密接したゲームを出すことで、人々がポケモンに親しみを持つ可能性が増える。つまり、ポケモンというIP(知的財産)そのものの認知度を増す効果が3つ目のメリットとなる。

いわば『Pokémon Sleep』は、ゲームのおもしろさを日常生活に活かし、健康増進やポケモンというIPの強化にもつながりうる作品なのである。単なるゲームの枠を越えようとする試みの1つといえるだろう。

睡眠測定アプリとしては出遅れた感

とはいえ、『Pokémon Sleep』に懸念点がないわけではない。本作は発表から4年も経ってしまったこともあり、睡眠測定アプリとしては出遅れた感もある。

現在はApple WatchやFitbitといったスマートウォッチで睡眠トラッキングを行うことができる。スマートウォッチの場合は睡眠中の心拍数・呼吸数の記録もできるうえ、睡眠時にこれといった操作をしなくてもよい。すでに使っているという人からすれば『Pokémon Sleep』に乗り換える理由は、「ゲームとして遊びたいから」くらいのものだろう。なお、今のところスマートウォッチのヘルスケア機能との連携はないようだ。

また、『Pokémon Sleep』は睡眠時の制約が大きい。必ず枕元に置く必要があり、サイドテーブルのような硬い場所に置くと睡眠が測定できないのである。

睡眠時、枕元にスマートフォンを置くのはあまりよろしくないことだろう。気になってつい見てしまえば眠りが阻害されるし、かつ充電する必要もあるので場合によっては環境を見直さなければならない。


画像は【公式】『Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)』コンセプト映像「いい睡眠リズムを、つかまえよう!」 - YouTubeより

前述のPokémon GO Plus +を購入すればこの問題は解決するものの、価格は6578円(税込み)とそれなりである。『Pokémon GO』でも利用できることにメリットを感じる人にはおすすめできるかもしれない。

ポケモン人気で出遅れを挽回できるか

なお『Pokémon Sleep』に関して、株式会社ポケモンに32%出資する任天堂は自社のQOL事業とは無関係であると2019年の株主総会で答えている。2015年に亡くなった任天堂の元社長である岩田聡氏は、2014年1月に「任天堂の娯楽を再定義する」というコンセプトのもと「QOL(Quality of Life)事業」を発表していた。ただ、その後にこれといった商品は展開されていない。

ともあれ、『Pokémon Sleep』は非常に意欲を感じられるゲームである。睡眠を楽しくできればそれこそ皆が幸せになるだろう。発表から4年経ってのリリースとなったが、その出遅れをポケモン人気とゲームとしてのおもしろさで取り戻せるのか、注目の作品である。

(渡邉 卓也 : ゲームライター)