仕事において「無計画な行動」をする人は意外と多いのです(写真:MediaFOTO/PIXTA)

時間はないのに、やることはたくさんある──。日本のビジネスパーソンは、たくさんのタスクを抱えて、追われるような毎日を送っています。限られた時間の中で、たくさんのタスクを片付けるためには、1つひとつの仕事を「短くやる」ことが重要なポイントです。
いったいどうすれば? 10万部突破のベストセラー『トヨタの会議は30分』の著者で戦略コンサルタントの山本大平氏が、新刊『「すぐやる」よりはかどる!仕事を「短くやる」習慣』をもとに、3回に渡り解説します(第2回)。

ビジネスの世界では、仕事で効率よく成果を出すためには、「PDCAを早く回す」ことが大切とされています。

PDCAとは、「Plan」(計画)→「Do」(実行)→「Check」(測定・評価)→「Action」(対策・改善)という仮説・検証型プロセスを循環させる……という考え方ですが、私は「C・PDCA」が正解だと考えています。

先頭の「C」は、計画を立てる前に最低限の状況や情報をチェックするという意味のCで、最短ルートで成果を出すためには、実際に動き出す前に、さまざまなアングルから検討することが大事なカギとなります。

極端な例を挙げるならば、誰か気になる異性がいたとして、相手のことを詳しく知らないままで、いきなり「結婚してください!」とプロポーズする人はいません。多くの人が「あまりにも無計画な行動」と思うはずですが、いざ仕事になると、意外と普通に似たようなことをやっているのです。

やり直しが多い人の共通点

例えば、皆さんは自分に与えられた仕事に取り組む際に、どのプロセスに時間をかければ、最短のルートで短くできると思いますか?

前述した「C・PDCA」のサイクルで考えれば、ほとんどの人が「D」(実行)のステージに重点を置いていると思いますが、私は一番最初の「C」(状況・情報の分析)の段階こそ、最も時間をかける必要があると考えています。

仕事を始める前の段階で、十分に「戦略」(方向性)と「戦術」(手段)を練り込んでおけば、「D」の途中で迷路にハマり込んだり、ルートを見失う可能性を低減できます。逆の見方をすれば、この段階をおろそかにすると、気がついたときには「沼地にビルを建てる」ような事態に陥って、結果的に「やり直し」となってしまうのです。

大事なポイントは、実際に動き出す前の段階で、「この仕事はどのような展開になるのか?」という観点から、タスクの全体像を俯瞰でイメージすることです。

最初に具体的な工程がイメージができていれば、2工程で済むようなことでも、この作業をパスしてしまうと、わざわざ遠回りして5工程くらいやることもあります。それが、仕事が遅くなる一番の原因となるのです。

ロケットスタートを切ることが、必ずしも最速ゴールの決め手ではないことを、きちんと理解しておく必要があります。大事なのは、動き出す前の段階で情報や状況をチェックして、どうすれば最短のルートを通り、誰よりも早くゴールインできるかを考えることです。

具体例を1つ紹介しましょう。例えば、たくさんの仕事を抱えている場合、あなたはどこから手をつけますか? 簡単そうなものから始めますか? 時間がかかって難しそうなものからやりますか? 多くの人が、「簡単そうなもの」からやり始めているように思います。

その背景には、大きく2つの理由が考えられます。1つは、「目の前にたくさんの仕事があるのだから、1つだけでも早く片付けておきたい」という切迫した心理が働くこと。

もう1つは、難しそうなものから、「できるだけ逃げたい」という気持ちが芽生えて、面倒そうなものを後回しにしているのです。

仕事を短くやるためには、難しそうに感じるものから先に始めたほうが、トータルで早く仕事が片付きます。

難しそうと感じる原因は、これまでに経験したことがないケースがほとんどですから、ゴールまでの所要時間が計算できないため、後回しにしてしまうと、結果的に期日に間に合わないという事態が発生します。

難しいと感じるものほど、時間をかけて取り組む必要がありますから、最優先でやっておけば、その時間を十分に作り出すことができるのです。

「時間がかかる」ものから始める

仕事の難しさを判断する際は、自分の経験の有無だけを基準にするのではなく、その仕事の進め方や方向性をイメージして、具体的な「ストーリー」(展開)を頭の中で描けるかどうかで考えることが大切です。

まったくストーリーが浮かばない案件であれば、必要な情報やデータが確実に不足していますから、それらを先に収集する必要があり、「これは時間がかかるな」と想定できます。時間がかかると感じたものから、先に始めればいいのです。

これまでに経験したことがない案件でも、自分でストーリーが明確に想像できるようであれば、優先順位を下げても、あまり時間をかけずに仕事を仕上げることはできるはずです。

大事なことは、抱えている仕事のすべてを無事にゴールさせる点にありますから、最初に難しい案件で時間を取られても、不安になる必要はありません。

「難しそうなもの」→「簡単そうなもの」の順番で取り組んでいけば、取りこぼすことなくすべての仕事を終えることができます。

もう1つ、動き出す前に考えることが大事な例を紹介します。例えば、取引先の担当者から、「納期はこの日までということで、いかがですか?」と仕事の締め切りを設定されるのは日常的によくあることです。

「その日程では、相当に厳しいな」と思っても、お得意様の申し出とあれば、「承知しました。何とかいたします」と受け入れることも多いと思います。

どんな仕事でも、一定のクオリティを保つためには最低限の時間は必要ですから、あまりにも厳しい期限設定を安請け合いするのは考えものです。その仕事にかかりきりになると、ほかの仕事まで手が回らなくなって、すべての進行に遅れが出ます。

無理やり間に合わせて仕事が粗くなったのでは、成果につながることもありません。いくらお得意様だとしても、あるいは大切なお得意様だからこそ、「無理なものは無理」とハッキリと伝える必要があります。きちんと話し合う姿勢を持つことが、仕事を「短くやる」ためには重要です。

相手先から厳しい納期を提案されたら、まずは「無茶」と「無理」に分けて考えることが大切です。無茶な納期とは、相当に踏ん張れば、何とか期日に間に合うものを指します。無理な納期とは、どう頑張ってみても、現実的に間に合わない期日のものです。

お得意様から、無茶なリクエストが出された場合は一考の余地がありますが、無理な注文であれば、「それは時間的に不可能です」と正直に伝えるべきです。

「実現可能」な期日を提案する

私もクライアント企業から無理な依頼をされることがありますが、スケジュール的に不可能と判断した場合は、その理由をしっかりと説明したうえで、「この期日であれば、品質レベルを保って、きちんと納品ができます」と実現可能な日程をこちらから提案するようにしています。


ある程度、時間的に余裕のあるスケジュールで先方の了解を得られれば、ほかの仕事を犠牲にするリスクを回避できます。

最初に設定された期限がどうしても動かせない場合は、「その期日であれば、このくらいのレベル感の納品は可能です」と伝えて、最初の段階で、「100%の品質は約束できない」と納得してもらうこともあります。

期限が変えられない場合は、こちらのエネルギーコストを減らすしか方法がないためですが、ほとんどのクライアントはきちんとした品質を望んでいるため、意外とスムーズに合意形成ができます。

誠意を持って対応すれば、期日に振り回される事態は避けることができます。

(山本 大平 : 経営コンサルタント、F6 Design代表取締役)