いまや小学校高学年の時点で7割近い子が自分のスマホを持ち、SNSやネット動画、ゲームなどに熱中している。仙台市の小中学生7万人を対象にスマホ使用と学力の関係を調べてきた東北大学加齢医学研究所の榊浩平さんは「スマホの使用時間とテストの偏差値をグラフ化したところ、スマホを1日3時間以上使用する子どもたちは、勉強を頑張り睡眠時間を確保していたとしても、成績が平均未満になるという衝撃の事実が判明した」という――。

※本稿は、榊浩平(著)、川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■子どもの脳は急激に発達中なのでスマホの影響が顕著に

急速に進行するスマホ社会は、脳にどのような影響を与えているのでしょうか。私たち東北大学加齢医学研究所では、子どもたちを対象に脳の発達に対する影響を15年以上にわたって研究してきました。子どもを対象にする理由はいくつかありますが、その一つに、子どもの脳は急激な発達の過程にあるためスマホの影響が表れやすいという点があります。

東北大学加齢医学研究所は2010年度より毎年、仙台市教育委員会と共同で全仙台市立小中学生約7万人を対象とした大規模調査(「学習意欲」の科学的研究に関するプロジェクト)を実施しています。本プロジェクトでは、標準学力検査で収集した学力の指標と、同時に実施したアンケート調査で収集した学習・生活習慣に関するデータを用いて、子どもたちの学習意欲や学力と関連する学習・生活習慣を科学的に明らかにすることを目指しています。

私は2015年よりプロジェクトの委員を務め、大規模データの分析を担当してきました。私たちの分析の結果から、スマホが子どもたちの学力を「破壊」している、そんな恐ろしい現状が浮き彫りになってきたのです。

出典=『スマホはどこまで脳を壊すか』

■子どもにスマホを買い与えなければ平均以上の成績に?

スマホの使用習慣は、子どもたちの学力にどのような影響を与えているでしょうか?

【図表1】は、スマホ等の使用時間と学力の関係を表しています。縦軸は標準学力検査から算出した偏差値で、平均点の子どもたちの値が50になります。横軸には、平日における勉強以外の目的でのスマホ等の使用時間をとっています。

実際の質問項目は、「ふだん(月曜から金曜日)、勉強以外で1日当たりどれくらいの時間、インターネット接続ができる機器(スマホ・タブレット・音楽プレーヤー・ゲーム機など)を使っていますか」というものでした。パソコンやタブレットなどスマホ以外の機器を使用したインターネット接続も含まれていますが、実態はスマホの使用が大半なので、以降は代表して「スマホ等」の使用時間と表現することにします。

グラフからどのようなことが読み取れるのか、棒グラフを左から順に見ていきましょう。一番左がスマホ等を「持っていない」と回答した子どもたちで、偏差値は51.3と平均点を超えています。そもそも親が子どもにスマホを買い与えなければ、平均以上の成績を修める可能性が高いわけです。

■スマホを1日1時間弱だけ使う層の学力が高い理由

グラフはスマホ等を持っているが「全く使わない」、「1時間未満」使用と、緩やかに高くなっています。ここまでの結果を見ると、「あれ? 子どもにスマホを持たせた方がよいのかな?」と、思われた方もいるかもしれません。結果の見方には、少し注意が必要になります。

この結果の説明として、私たちは二つの可能性を考えています。一つは、スマホ等を「持っていない」グループには、経済的な理由で持たせることができないご家庭も含まれている可能性があるということです。悲しい現実ですが、家庭の経済状況と子どもたちの学力には、相関関係があることが明らかになっています。

この点が「持っていない」と「全く使わない」の間の学力の差につながっている可能性があります。

もう一つ、スマホ等の使用が「1時間未満」の学力が高い理由としては、自分の意志で「1時間未満」に抑えられる子どもたちが含まれている可能性があります。楽しくて誘惑の多い魅力的なスマホに依存することなく、自律的に使いこなすことができている。そんな自己管理能力の高い子どもたちが一定数含まれているのではないかと考えています。

そしてグラフは「1時間未満」を山の頂点として、使用時間が長くなるほど、どんどんと学力が低くなっていく様子が見てとれます。このように、1時間以上のスマホ等使用が学力に悪影響を与えていることが明らかになったのです。

写真=iStock.com/Edwin Tan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Edwin Tan

■スマホをいじって睡眠時間が短くなるとどうなるか

スマホ等の使用時間が長い子どもたちの学力が低い理由として、スマホ等を使用するために睡眠の時間が削られてしまっているという可能性が考えられます。また、当然のことですが、勉強をたくさん頑張っている子どもたちの方が良い成績を修めていると考えられます。同様の理由から、スマホ等の使用によって勉強時間が削られてしまっている可能性も考慮する必要があります。

まずは、睡眠について考えてみましょう。総務省の「令和3年社会生活基本調査」の結果によると、2021年時点で10歳以上の平均睡眠時間は7時間54分と報告されています。

私たちは、おおよそ1日の4分の1から3分の1程度の時間を睡眠に充てています。生物学的に見ると、睡眠中に分泌される成長ホルモンが重要な役割を果たしていることがわかっています。「寝る子は育つ」という言葉がある通り、このホルモンのはたらきによって子どもたちの身体が形成され、健全な成長へとつながります。

脳科学的に見ても、睡眠には重要な役割があります。睡眠は、浅い眠りと深い眠りを周期的に繰り返すリズムを持っています。浅い眠りをレム睡眠、深い眠りをノンレム睡眠といいます。おおよそ90分間隔で訪れるレム睡眠の間に、私たちの脳は、日中に起きた出来事などの記憶を整理して、定着させるという作業を行なっていることがわかっています。

■睡眠時間が短い子ほど記憶を保存する海馬が小さい

睡眠不足が常習化してしまうと、恐ろしいことが起こります。東北大学加齢医学研究所では、平均年齢約11歳の子どもたち290人の脳の画像を観察し、睡眠時間と脳の発達について調べました。解析の結果、睡眠時間が短い子どもたちほど、記憶を保存する海馬の容積が小さいことがわかりました。

海馬は、コンピュータで例えると脳の中にある記録メモリー、ストレージのような役割を担っています。つまり、睡眠不足は記憶を定着させる機会を奪うだけでなく、その記憶を保存しておく記録容量さえも小さくしてしまう恐れがあるのです。

そこで私たちは、勉強時間と睡眠時間の情報を加えた解析を行ないました。

【図表2】はスマホ等を「全く使わない」と回答した子どもたちの成績を表しています。縦軸が「テストの成績」、横軸が「勉強時間」、そして奥行きが「睡眠時間」の3次元グラフで示しています。勉強時間は一番左が「全くしない」、そこから右に移るにつれて長くなります。睡眠時間は、一番手前が「5時間未満」、そこから奥にいくにつれて長くなっています。

棒グラフの色分けは、偏差値が50以上、すなわち平均以上の成績を修めている子どもたちを灰色、逆に偏差値50未満、平均未満の成績となっている子どもたちを白色にしています。ざっと全体を見回してみると、グラフの右奥側、つまり勉強をたくさんしていてかつ、たくさん寝ている子どもたちほど、学力が高いことが読み取れます。

出典=『スマホはどこまで脳を壊すか』

■長時間勉強しても睡眠で定着しなければ学力はつかない

ちなみに一番手前にある睡眠時間が「5時間未満」の行を見てみてください。すべて白色の棒、平均未満の成績となっています。興味深いことに睡眠時間が「5時間未満」だと、たとえ勉強を「3時間以上」頑張っていたとしても、成績上位に入ることができていないのです。これはまさに、前述のレム睡眠による記憶を定着させる段階をおろそかにしてしまっている影響といえます。

やはり、どれだけたくさん勉強しようが、学習した内容が記憶として残らなければ、その努力は学力という結果には結びつかないのです。

続いて【図表3】は、平日にスマホ等を1日「1時間未満」使用する子どもたちの成績を表しています。【図表2】と見比べると、平均以上の成績を表す灰色の棒の数が増えていることがわかります。これは、【図表1】で棒グラフの山の頂点が「1時間未満」にきていたことと、同じ結果を意味しています。

出典=『スマホはどこまで脳を壊すか』
出典=『スマホはどこまで脳を壊すか』
出典=『スマホはどこまで脳を壊すか』
出典=『スマホはどこまで脳を壊すか』

■勉強してもよく寝ても「3時間以上のスマホ」で台なし

榊浩平(著)、川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)

ここからが問題です。私が最初にこのグラフを作って自分で見たときに、正直ゾッとしました。【図表4】がスマホ等使用「1〜2時間」、【図表5】が「2〜3時間」、【図表6】が「3時間以上」の子どもたちの成績をそれぞれ表しています。スマホ等の使用時間が長くなればなるほど、平均以上の成績を表す灰色の棒の数が明らかに減っていく様子が見てとれます。

衝撃的なのは「3時間以上」の結果です。灰色の棒が1本も残りませんでした。この結果からわかることは、スマホ等を1日3時間以上使用している子どもたちは、どれだけ勉強を頑張っていても、きちんと睡眠時間を確保していたとしても、成績が平均未満に沈んでしまっているということです。

つまり、スマホ等を長時間使用している子どもたちは、勉強時間や睡眠時間が削られてしまうから学力が低いという、私たちの最初の仮説は証明されませんでした。この結果から、スマホ等の使用は子どもたちの学力に直接的な悪影響を与えているという可能性が高まってきたのです。

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榊 浩平(さかき・こうへい)
東北大学加齢医学研究所助教
1989年千葉県生まれ。2019年東北大学大学院医学系研究科修了。博士(医学)。認知機能、対人関係能力、精神衛生を向上させる脳科学的な教育法の開発を目指した研究を行なっている。共著に『最新脳科学でついに出た結論「本の読み方」で学力は決まる』(青春出版社)がある。
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川島 隆太(かわしま・りゅうた)
東北大学加齢医学研究所教授
1959年千葉県生まれ。89年東北大学大学院医学研究科修了(医学博士)。脳の機能を調べる「脳機能イメージング研究」の第一人者。ニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修ほか、『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)、『オンライン脳』(アスコム)など著書多数。
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(東北大学加齢医学研究所助教 榊 浩平、東北大学加齢医学研究所教授 川島 隆太)