新型コロナ拡大前、売上高が日本一の「ショッピングセンター」は成田空港でした。こうなったのには、独特の立地を活かした綿密な戦略が存在します。

2018年度の売上高は1432億円

 新型コロナウイルス感染拡大前、売上高が日本一の「ショッピングセンター」は、実は我々がよく知る大型ショッピングモールではなく、成田空港でした。空港がなぜ、と思う人も多いかもしれませんが、それは独特の立地を活かした綿密な戦略によって達成されたものでした。


成田空港(乗りものニュース編集部撮影)。

 コロナ前の成田空港は約460の飲食店や土産物店がテナントで入り、ショッピングセンター(SC)としても位置付けられていました。専門紙による全国主要SCのアンケート調査によりますと、2018年度の売上高は1432億円で、2014年度から売上高1位に輝いていたそうです。

 こうした同空港の「ショッピングセンター化」は、2004年4月1日に空港公団が民営化されて進みました。成田国際空港株式会社の2020年度のセグメント別収益では、物販や飲食収入が含まれるリテール事業は、全収益の11.7%にあたる83億円を占めるまでに成長しています。

 そして、その「ショッピングセンター化」へむけた“助走”は、空港公団時代から、念入りに行われてきました。2001年9月、第1ターミナルビルにも免税ブランド店がオープンした当時、公団職員が話した抱負を筆者は今でも覚えています。「出国前の旅客に購買意欲を起こす品をそろえたい」というものでした。

成田空港が「日本一のショッピングセンター」になった戦略

 旅行先で買い物を楽しみにしている旅客が、出国前に財布のひもを緩めるのか――筆者の疑問に対し、職員は次のような戦略を話しました。

「行った先で目当ての品がない場合もあるでしょう。出国前に買えば安心もします。貴金属などの高級ブランド品は値段が高くともかさ張らず荷物になりません。外国人旅行者にとっては、日本国内で買いそびれた品を帰国時に成田空港で見つけることが出来るかもしれません」

 この淀みのない答えは、“開店準備”へリサーチを抜かりなく行っていたことを示していました。

 また、東京都心から約50km遠方にある成田空港では、出発時間ギリギリではなく、余裕をもって空港へ到着してほしいと呼びかけてられており、観光で国際線を使う乗客も早めに空港に到着する傾向もあります。ならば、早く着いた分、出国エリアでブランド品の買い物を楽しんでもらおう――。ショッピングセンター化は、「不利な地の利」を逆手に取った経営戦術であったのかもしれません。


新型コロナウイルス感染拡大下の成田空港の第1ターミナル。店舗は閑散としていた(2020年3月、乗りものニュース編集部撮影)。

 2023年3月に入ってから、成田空港会社は3月末でコロナ禍により続けていた着陸料の減免措置を終了させると同時に、空港内の飲食店や土産物店などへ行ってきた賃貸料の減額などの支援も終えるとニュースで流れました。店舗は8割以上が営業を再開しているためということですが、海外旅行を今まで控えていた分、購買意欲も高まるでしょうし、飲食店や土産物店も活況になるでしょう。

 ちなみに、免税ブランド店に並ぶ品は、百貨店と同じようにバイヤーの「仕入れ」がモノを言うのだそう。高級ブランドをはじめ流行を先取りした商品を、空港内の店舗がいかに揃えられるかが重要になるわけです。“目利き”の選んだ品がそろえば、それだけ足を止める旅行客が多くなり、利益も上がるでしょう。コロナ禍後の成田空港がどのように売上を伸ばし、「ショッピングセンター」のランキングに食い込んでくるかが楽しみです。