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欧州市場で「軽」に勝算はあるか

「英国で軽自動車が活躍するタイミングがあるとすれば、それは今だろう」――そう語るのは、英国の代表的な日本車輸入業者であるトルクGT(Torque GT)社だ。

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同社によると、「素晴らしい」新型車の登場と、環境問題や環境規制に対する関心の高まりから、こうした小型車の需要が高まっているという。


日本で大人気の軽自動車は、欧州でも通用するのだろうか。

軽自動車は、第二次世界大戦後の日本が活気を取り戻すために導入された規格であり、車体サイズと排気量の制限を持つ日本市場向けのクルマである。税金や保険料における優遇、また地域によっては車庫証明が不要であることなど、さまざまなメリットが旺盛な需要を喚起してきた。

金銭的なインセンティブは縮小したが、現在も日本で最も人気のあるクルマの1つである。昨年日本で販売された新車420万台のうち、軽自動車は3分の1以上を占めているのだ。海外の輸入業者は、この膨大な在庫からピックアップすることができる。

冒頭のトルクGTによると、「(英国での)需要は高まる一方」だという。これまでホンダ・ビート、ホンダS660、スズキ・カプチーノなどのスポーツモデルがカルト的な人気を誇ってきたが、今は幅広い車種が求められている。トヨタのピクシス・メガや、ホンダ・アクティ、スバル・サンバーなどがその例だ。

ロンドンではULEZと呼ばれる低排出ガスゾーンが設定されており、区域内を通行するには一定の排出量基準を満たす必要がある。この基準を満たさない車両は「通行料」の支払いを求められる。

ターボGTの担当者は、こうした環境規制に対する懸念は購入者からよく聞かれるものの、軽自動車に対する認知度がまだ低く、主な選択肢にはなってないと言う。しかし、「軽自動車を知る人が増えるにつれて、この状況は変わっていくだろう」と述べている。

特徴活かせる場面も少なくない

また、軽自動車規格のEV(電気自動車)の価格は、欧米メーカーの大型車を下回るものが多く、低排出ガスゾーンの拡張によって需要をうまく取り込むことができるかもしれない。

AUTOCARの兄弟誌であるMove Electricの調査によると、首都ロンドンのULEZが今後(全行政区をカバーするように)拡張されることで、その区域内にいる運転者の39.8%がEVに乗り換える可能性があるという。しかし、多くの自動車ユーザーにとって、「コスト」は依然として大きな問題である。


軽自動車のスポーツモデルには熱狂的なファンも多い。

ルーマニアの自動車メーカー、ダチアが販売する小型EVのスプリングは、手頃な価格設定で人気を集めている。Aセグメントのコンパクトクロスオーバーで、トヨタ・ヤリスよりも小さく、最高速度も100km/hが上限で、1回の充電で最大225kmしか走行できない。

しかし、調査会社ジェイトー・ダイナミクスによると、フランスでは補助金など含めておよそ230万円から購入でき、昨年は欧州全体で5万台近くが売れた。これは、ヒョンデやポールスター、クプラなど大規模なマーケティングを行った他社モデルよりも多い数だ。

さらに安いモデルで、7695ポンド(約125万円)からというシトロエン・アミもある。しかし、最高速度45km/h、航続距離80km以下、2人乗りという制限があるため、ダチア・スプリングほどのヒットには至っていない。

そのため、性能面ではスプリングを下回るが、極端なアミよりも使い勝手の良いEVとして、軽自動車が求められているのだ。

2022-23年の日本カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた日産サクラほど、この需要に応えるのにふさわしいクルマはないだろう。昨年、わずか178万円(補助金を含む発売当時の価格)で発売されたサクラは、4人乗りで航続距離180km(WLTCサイクル)、最高速度130km/hを誇る。

「サクラは欧州でも通用する」とトルクGTは言う。しかし、競争力のある価格で販売するためには、メーカーのバックアップが必要である。

軽自動車が直面する生々しい課題

トルクGTを例に挙げると、同社は少量の輸入販売を専門としており、個人輸入代行サービスの依頼を受けることも多いが、サクラを英国で乗るとすれば「2万ポンド弱(約320万円)」で購入できるという。この価格では、2万6995ポンド(約440万円)で350kmの航続距離を持つMG 4のようなモデルに注目するのも無理はないだろう。

仮に、どこかのメーカーが欧州で軽自動車を出すとしたら、大きな問題に直面することになる。まず、軽自動車規格で作られた箱型のボディ形状は、曲線的なクロスオーバーを好む欧州の消費者には不向きである。また、GSR2という厳しい安全規制をクリアしなければならない。


厳しい制限の中から生まれた箱型の形状は、欧州では好まれにくい傾向にある。

2022年7月6日以降に欧州で発売される新型車はすべてGSR2に適合しなければならず、2024年からは既存の新車も、必要であれば改造してでも適合しなければならない。

GSR2では、高度な緊急ブレーキ、居眠り運転の検知、緊急時の車線維持などの安全システムの搭載が求められているが、一部の車種では改造が難しく、ネックになっている。そのような安全システムを持たない日本市場特有のモデルをわざわざ改造することは、経済的とは言いにくい。しかし、最近の軽自動車は先進的な運転支援機能を備えており(例えばサクラは日産の「プロパイロット)を搭載)、欧州向けに大幅な改造は必要ないかもしれない。

軽自動車は、欧州市場で失敗してきた歴史も克服しなければならない。欧州で成功したのはスズキだけで、ワゴンRのワイド版であるワゴンR+(軽自動車規格外のサイズとエンジンを搭載)の年間販売台数はピークとされる2001年で11万9008台(兄弟車のオペル/ヴォグゾール・アギーラを含む合計)だった。他の軽自動車よりは多いが、それでもルノー・クリオ(同年、49万2308台)やフォード・フィエスタ(25万5123台)といったBセグメント車には遠く及ばない。

現代の市場原理に照らして、この傾向を逆転させることができるかどうかは、日本のメーカーが実際に乗り込んでみるまでわからない。