全席でタバコを自由に吸える「THE SMOKIST COFFEE」が好調だ。コロナ禍で赤字続きだった店を救うアイデアだったが、着実に黒字を稼ぎ、現在は5店舗になっている。禁煙が常識の飲食業界で、なぜ喫煙可能な店をつくったのか。運営会社C-Unitedの友成勇樹社長に聞いた――。
撮影=遠藤素子
THE SMOKIST COFFEEを運営するC-Unitedの友成勇樹社長。 - 撮影=遠藤素子

■コロナ禍で客数が減少した「カフェ・ベローチェ」を改装

――THE SMOKIST COFFEEを立ち上げたきっかけを教えてください。

2020年11月に、東京の新橋、神田、東新宿の3店舗で始めました。2021年に新宿御苑前、仙台でオープンさせ、今は計5店舗。いずれも当社が展開する「カフェ・ベローチェ」を喫煙目的店に改装した店舗です。

写真提供=C-United
THE SMOKIST COFFEEぶらんどーむ一番町店。 - 写真提供=C-United

きっかけは新型コロナの影響です。客数減少により喫煙目的店に改装した店舗は、毎月100万〜200万円の赤字が出ていて、大きな打撃を受けていました。

私たちはおのおのの街の財産となる、皆さんのお役に立てる店づくりを目指しています。この機会にベローチェのうちいくつかを喫煙者の方を対象とした専門店に変えれば、需要とマッチして皆さんにも喜んでいただけるのではないかと思ったのです。

■「THE SMOKIST COFFEE」に課した2つの使命

最近はビル内の喫煙室や屋外の喫煙所などもありますが、皆さんが喫煙のために行列している様子を見かけることがあります。本来なら心のゆとりにつながるはずの「一服できる場所」が、中毒性を助長するような場になっているのではないか、私は前々から疑問を感じていました。

一方で、非喫煙者にとっては、路上喫煙はもちろん喫煙所の煙やにおいも迷惑なものです。ですから、当社で専門店をつくるなら、非喫煙者の受動喫煙削減に役立つ場所、喫煙者が本当の意味での一服を楽しめるような場所にしたいと思いました。

そのため、ベローチェを「THE SMOKIST COFFEE」に改装する前に、2つの社会的役割を定めました。

1つ目は非喫煙者の受動喫煙の「機会」を減らすこと。2つ目は、最新設備を整えることで喫煙者同士の受動喫煙の「量」を減らしながら、タバコとコーヒーでホッと一息つける場を提供することです。

喫煙率はここ20年間でずいぶん下がりましたが、近年は男性が28%前後、女性が8%前後で下げ止まっています。健康によくないとはいえ、喫煙者が一定数いるという現実があるわけです。

ご本人や周囲の方々の受動喫煙をできる限り減らし、喫煙の中毒性を助長させない――こうした課題解決に貢献できればと思っています。

■店内はモクモクしていなかった…

――具体的にはどんな設備投資を行ったのでしょうか。

最新の空気浄化システムの導入です。

通常の空気清浄機は、その場で空気を吸ってその場で吐いています。私たちの店舗では、大手空調メーカーと協同し、ロングサーキット(吸煙口と給風口が離れていること)を活用した空気循環システムを採用しています。天井裏にダクトを通して浄化して、離れたところで排出しています。さらに、においや粉塵を取るために大容量の活性炭フィルターを入れています。各店舗共に500万円ほどかかりました。

最初につくった3店舗は、それぞれの設備のスペックを3段階で用意しテストをしました。このうちロースペックだった新橋店は、昼の時間帯など満席になると煙が気になって納得のいくものではありませんでした。そこで再度設備投資を行い、この店舗には空気浄化システムだけで他2店舗の倍以上の投資をしています。

写真提供=C-United
席に座って自由に喫煙できる。 - 写真提供=C-United

――社内から反対の声はなかったのでしょうか。

通常なら赤字店舗は閉めますよね。社内にも「もう閉めるしかないな」という雰囲気がありました。しかし、当社が目指しているのは「街の資産」となるお店づくりです。簡単に閉めるわけにはいかない、どうにか続ける方策はないか、と考え続けました。

■いつも意見が割れるのに、部下たちがすぐ賛成した

さまざまな店舗のお客さまの傾向、喫煙所の行列を見ているうちに、ふと「喫煙目的店舗にしよう」と思ったんです。そのアイデアを自分なりに検証し、部下たちに提案をしたらすごくいいリアクションが返ってきたので驚きました。私以外、幹部たちは全員喫煙者だったんです。

私が何かをやろうって声をかけると、大抵、半分ほどはネガティブな反応が返ってくるんですが、このときは幹部メンバー全員が「それはいいですね」と。誰一人反対しませんでした。新しい施策があんなに短期間で合意形成できたのは初めてかもしれません。

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アイデアが形になるまで、とんとん拍子で進んでいった。 - 撮影=遠藤素子

そこから開店までは非常に早かったですね。構想から2〜3カ月程度で開店することができました。

海外投資家の中には、ESGの観点から喫煙目的店舗への改装を疑問視した方もいました。でも、あらかじめ定めていた社会的役割を説明することで同意を得ることができました。

喫煙目的施設だから「調理」ができない

――開店に際して特に苦労したことはありますか。

THE SMOKIST COFFEEは喫煙をサービスの目的とする施設で、健康増進法の「喫煙目的施設」にあたります。このため行政との折衝が必要でした。

店内空気の基準値をクリアしたうえで、タバコの販売免許も必要です。さらに苦労したのが、食事の提供方法でした。

喫煙目的施設」では、席で飲食をしながらタバコが吸えるのですが、食事の提供はランチタイムに限られ、店では「調理行為」はできません。

すべてを「調理」ではなく「作業」に落とし込まなければいけなかったので、商品開発には苦労しました。例えばパスタは炒められません。サンドイッチも作れません。店でできることは温めと盛り付けだけ。このあたりは行政に確認・相談をしながら商品開発を進めました。

撮影=遠藤素子
調理と作業の線引きが難しく、商品開発に苦労したという。 - 撮影=遠藤素子

――アルバイトはなかなか集まらないのでは。

喫煙目的店で仕事をしていただくわけですから、その分、時給を高く設定しています。おかげさまでベローチェよりも応募が多いです。

例えば東新宿店のアルバイトを募集した時、20〜30人を採用しようと思っていましたが、200人ほどの応募がありました。最初は時給1300円、通常のベローチェが1050円でした。今では当たり前の金額になってきましたが、2年前は「え、そんなに高いの」という感じでしたね。

応募者は喫煙者ばかりではありません。タバコを吸わない人も働いています。私たちが店長や社員を配属する時は、希望や同意を得て配属しています。

■クレームがくるだろうと不安でいっぱいだった

――タバコを嫌う人たちもいます。開店に際して不安はありませんでしたか。

不安はありました。実は最初の3店舗を開く際は、消費者団体や地域の方々、タバコを吸わない人たちから相当なクレームがくるだろうと思っていました。妻に「自宅にクレーム電話がかかってくる可能性もあるよ」と言ったぐらいです。

でも、実際に開店してみるとまったく逆でした。本社の問い合わせ窓口に「こうしたお店をつくっていただけたので路上喫煙がなくなってうれしいです」といったメールなどが届くなど、タバコを吸わない方たちからも賛同をいただきました。

私としてはかなり身構えて開店に臨んだのですが、いい意味で予想外の反響をいただけて、挑戦して本当によかったなと思いました。今では、店の存在に関して地域で一定の合意形成ができてきたのではと感じています。

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クレームを覚悟していたが、好意的な声が多く届いた。 - 撮影=遠藤素子

■赤字店舗が黒字になった3つの理由

――売り上げについて、ベローチェをTHE SMOKIST COFFEEに改装したことでどんな変化があったのでしょうか。

コロナ禍で赤字続きの店をTHE SMOKIST COFFEEに改装したことで、各店舗の毎月数百万円の赤字額が、最初の半年で半分ほどに減りました。

1年ほどたったところで黒字が出始め、2年目にはその黒字がさらに増えて現在に至ります。地域にも喜ばれ、企業としても利益が向上したのでwin-winの状況をつくれたかなと思います。

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インタビューに応じる友成社長。 - 撮影=遠藤素子

成功の理由は3つあると考えています。

ひとつは価格を、ベローチェと比較すると、50〜90円ほど高く設定させていただいたこと。通常のベローチェは、ブレンドコーヒーのレギュラーサイズは280円、ラージが330円です。THE SMOKIST COFFEEでは330円、380円としています。

もうひとつは「調理行為」ができないので従業員が少なくて済むということ。ベローチェだと1店舗で同時に5〜7人が必要だったところ、THE SMOKIST COFFEEでは2〜3人で足りるようになりました。人件費の抑制につながったわけです。

そしてもうひとつはお客さまの数。徐々にカフェの認知が広がり、喫煙目的で来店される方々が増えてきているんです。

■打ち上げ花火のような商売はやらない

――さらに店舗数を増やしていくお考えでしょうか。

私がモスフードサービスグループにいた時、創業者の櫻田慧さんの「儲けはお客さまの満足料」という言葉を知りました。この言葉を今も深く胸に刻んでいます。黒字転換したからOKというわけではなく、今後もお客さまの満足度を高める努力を続けていくつもりです。

儲けはもちろん大事です。しっかり儲けを出さないと店は長続きしませんし、長続きする店をつくるのが外食産業のプロとしての使命だと思っています。

ただ、長く続くということは、お客さまや街に求められていることの証しでもあります。私はここをいちばん大事にしています。サッと出店して大きく稼いですぐ閉める、そんな打ち上げ花火のような商売はわれわれはやりません。

THE SMOKIST COFFEEも、長く地域に愛されるお店にしていこうという思いで展開しています。

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「打ち上げ花火のような商売はやりません」と力強く話した。 - 撮影=遠藤素子

――現状ではどんな課題があるのでしょうか。

やはり空気清浄システムに関してでしょうか。最近は技術もかなり進化していますが、どこまで清浄度を上げられるか、今後も突き詰めていきたいと思っています。現段階では大規模な設備投資をしたのにもかかわらず、私自身がまだ満足できていない店舗もあります。

店舗によっては、ピーク時には煙が気になって「ここにいられない」と感じることもあります。私はたばこは吸いませんが、煙が立ち込める空間が嫌なのは喫煙者も非喫煙者も同じではないでしょうか。さらに清浄レベルを上げて、お客さまの心のゆとりや健康を害さない空間を実現できたらなという思いで続けています。

■吸う人も、吸わない人も共存できるモデル

――今後の展望を教えてください。

最近はTHE SMOKIST COFFEEへの取材も増えていまして、皆さんの関心の高さを実感しています。開店当初は予想もしていませんでしたが、今は行政や地域の方々から感謝の言葉もいただけています。

オフィスビルを管理する大手デベロッパーの方々からも、少しずつ興味を示していただけるようになってきました。

例えば、多くのビルでは喫煙所を用意していますが、スペースをとるためにテナントを減らさざるを得なかったり、ランチタイム前後に喫煙所に行列ができたりするようです。

それに対して、当社の店舗が何らかの解決策になるかもしれないと思っていただきつつあるようです。私たちはタバコの中毒性を助長するようなことはしません。ただ、喫煙者の方々が一定数いる現実に対し、飲食事業者の責任として、問題解決のモデルを提示していけたらと思います。

撮影=遠藤素子
タバコを吸う人がいる現実に、飲食事業者として向き合う。

■地域の課題を解決するために

ただ、先ほど説明した通り、評価をいただけているからどんどん出店していこうとは考えていません。もちろん、行政や地域の方々に求められれば検討しますが、儲かりそうな街に積極的に出店するんだ、全国のベローチェを一斉にこの業態に転換するんだという考えはありません。

いちばんの目的は、自分たちで定めた社会的役割を果たすことであって、この事業をむやみに拡大していくことではありません。

求められれば出店する、そして外食産業のプロとしてやる以上は利益を出し、長く継続できる店をつくる――こうしたビジネス形態においては、THE SMOKIST COFFEEはある程度完成形に近づいているのかなと思います。

いかにしてこのブランドを、さらにブラッシュアップしていくか。これからも追い求めていくつもりです。

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友成 勇樹(ともなり・ゆうき)
C-United 社長
1963年生まれ。東京都出身。大手ハンバーガーチェーンを皮切りに飲食業界で確かな実績を残す。2018年、旧・珈琲館株式会社の代表取締役に就任し、2社のM&Aを経て、2021年4月にC-United株式会社に社名変更。現在に至る。
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(C-United 社長 友成 勇樹 聞き手=プレジデントオンライン編集部、構成=辻村洋子)