伊藤美来が「あなたのため」に届けたいもの――待望のニューアルバム『This One′s for You』に込めた想い

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ソロアーティスト活動5周年イヤーを経て、声優・歌手としてますます成長する伊藤美来が、待望のニューアルバム『This One’s for You』を完成させた。「パスタ」「青100色」といったシングル表題曲に加え、自身が作詞したリード曲「Gift」など6曲もの新曲が収められた本作。そのリード曲に象徴されるように、彼女が今みんなに届けたいものを「ギフト」として詰め込んだ作品になっている。そこに込めた想いについて本人に話を聞いた。

INTERVIEW & TEXT BY 北野 創（リスアニ！）

伊藤美来が今みんなに贈りたいメッセージと「ギフト」

――今回のアルバムのテーマは「ギフト」とのことですが、伊藤さんはどんな作品にしたくてこのテーマを選んだのですか？

伊藤美来　もし私がアルバムを受け取る側だったとしたら、どんなアルバムが一番嬉しいかを考えたときに、私なら「大丈夫だよ」と優しく背中を押してくれたり、「あなたはあなたのままでいいんだよ」って自分を肯定してくれるような作品が嬉しいし、それが今の私が求めているものだと感じたんです。楽しいことも大変なこともありますけど、それも含めて全部が贈り物だし、私の声も皆さんの贈り物になっていたら嬉しいし、ファンの皆さんの声も私にとってはギフトなので、そういう色んな意味も込めて「ギフト」をテーマにしました。

――伊藤さんも、音楽に自分を肯定してもらったような経験があるのでしょうか。

伊藤　結構前に仕事のことで思い悩んで、そこから全然抜け出すことができない時期があったんですけど、そのときに夏川椎菜ちゃんと竹内アンナちゃんのライブを連続で観に行かせていただく機会があって、そこでもらったエネルギーが私の中ですごく良い方向に作用したんです。私と同世代の2人が、頑張って1つのステージを作っているのを見たり、MCで楽曲に込めた想いを話しているのを聞いて、すごく勇気をもらうことができて。そのときに誰かからもらうものの大切さを改めて感じて、私もそういう誰かの背中を押せるような「贈り物」を作れたら、というのが、今回のテーマを思いついたきっかけでした。



――そういえば伊藤さんは2022年のライブ“What a Sauce!”東京公演のMCで、「皆さんを肯定したり安心させられる表現者になっていきたい」とおっしゃっていました。

伊藤　やっぱり自分は自分で、自分を褒めることができるのも自分だし、自分を認めてあげられるのも自分の考え次第だと思うんです。だからこそ、私は皆さんがそう思える後押しができるようになれたらいいなと思っていて。

――ご自身も自己肯定力は高いほうですか？

伊藤　私は今の職業に就く前は、もっとネガティブで……というか今もネガティブなんですけど（笑）、お仕事を始めて色んな人と関わるようになってからは、落ち込むようなことがあっても、人と話すことによって救われたり、自分がやってきたものを見返して自信に繋げたり、ポジティブになるやり方を見つけられるようになりました。「私はこうすれば元気になるんだな」って、自分のことがわかってきた感覚はあります。

――その元気になるコツを1つ教えてもらっていいですか？

伊藤　私は何も考えなくてもいいようなことをするようにしています。例えばYouTubeで動画を観漁ったりとか。旅をしている人や海外で暮らしている人の動画を観ると、自分の悩みなんて本当にちっぽけで、世界はこんなにも広いんだ！って思えるんですよね。あとはシンプルにお笑い系の動画を観て、笑っているうちに（悩みを）忘れます（笑）。

ビッグバンドジャズなリード曲「Gift」に込めた自身の理想

――アルバムのリード曲「Gift」は、伊藤さんがご自身で作詞をされています。

伊藤　今回、リード曲は自分で作詞することは制作当初からお願いされていたので、アルバムのテーマに沿ったわかりやすい曲にしようと思って歌詞を書きました。楽曲は先に出来上がっていたので、それに合わせて歌詞を書く形だったんですけど……。

――この曲、いわゆるビッグバンドジャズなので、歌詞を付けるのは苦労されたのでは？

伊藤　そうなんです！ストレートなジャズだったので、「こんなの書いたことないよ！」と思って（苦笑）。楽曲の構成も、いわゆるAメロ、Bメロ、サビが繰り返される形ではなくて、色んなメロディが入っているので、「また違う音が出てきたから、ここは新しいフレーズを考えないと……」みたいな感じで、かなり悩まされました。

――楽曲を制作されたのは、2021年のシングル曲「No.6」のブラスアレンジを担当されていた千葉岳洋（Lowland Jazz）さんなんですよね。

伊藤　はい、実は繋がりがありまして。今回のアルバムに「No.6」は入っていないのですが、ジャズはこちらの楽曲で楽しんでいただければと思います（笑）。

――ジャズに馴染みはありましたか？

伊藤　あまりなかったので、レコーディングにもビクビクしながら行きました（苦笑）。歌詞を提出するときも「これで合ってるのかなあ？ジャズは全部英語のほうがいいのかも」と思ったりして。オーダー的には「いつもの伊藤さんらしく、難しいことを考えずに書いてください」という、割とざっくりした感じだったんですけど（笑）、何回も書き直したので、すごく時間がかかりました。この楽曲ではネガティブな言葉を絶対に使いたくなかったので、私の中のポジティブをかき集めながら書いて。

――“人は誰も幸せで ロマンティックなの”とは普段なかなか言えないですものね。歌だから言える言葉といいますか。

伊藤　たしかにすごく大げさだし、なかには「そんなわけないだろ！」と思う人もいると思いますけど、実際その権利は全員にあるはずだし、そうであってほしい気がするというか。人はどうしてもネガティブな思考が出てくるものだと思いますけど、それを頑張って取り除いて、「私もこう言われたら嬉しいな」と思う言葉だけを並べたので、本当に何の先入観も無く、何も考えずに、そこに並べられている言葉を素直に受け止めてもらえたら嬉しいです。

――個人的に“好きなように 踊って 好きなように 走り続ける”、“いつも通り 眠って いつも通り 毎日 Do the Best!”というフレーズが大好きなのですが、伊藤さんもこういうマインドを持っているのでしょうか。

伊藤　持っていたいとは常に思っています。自分で作詞するのは「あお信号」から数えて今回で6曲目になりますけど、どの曲も自分の理想をつらつらと並べていることが多いので（笑）。今回も「こうなりたい」「こうでありたい」というものが詰められていますね。

――歌声も伊藤さんの笑顔が浮かぶような声音ですし、MVも陽気なスウィングジャズにマッチしていますね。

伊藤　楽曲や歌詞の内容に合わせて、楽しい内容にしていただきました。途中で青いカレーとか青いパスタとか、見た目はちょっとエッ！てなるような食べ物が出てくるんですけど、食べてみたら意外と美味しいっていうシーンがあって。それは辛いことや嫌なことがあっても、実際にやってみたら実は素晴らしかったり美味しいものだったりするかもしれないという、私が書いた歌詞のメッセージも汲んでいただきました。



――すごい色のカレーでしたが、実際に食べてみていかがでしたか？

伊藤　美味しかったです！見た目は気持ち悪いなと思っていたんですけど、食べてみたら普通にココナッツ系のカレーで、辛すぎず甘すぎず、美味しくいただきました（笑）。

多彩な新曲が描き出す、ポップでポジティブな音世界

――ここからはその他の新曲についてアルバム収録順に詳しくお聞かせください。まずアルバムの1曲目を飾る「laid back」は、まさにレイドバックした感じの心地良い楽曲です。

伊藤　のんびりとしているような曲調で、これが1曲目にくるのは、アルバムのタイトルや雰囲気から考えると意外性があると思います。大人っぽくて小悪魔的な女性のイメージが浮かぶ、リズムがしっかりしていてお洒落な楽曲で、主人公の女の子の距離感の近さ、「今が幸せ」「この時間が大事」という気持ちが出ていると思います。

――この曲、歌が素晴らしいんですよね。全編ささやくような高音で歌われていて、伊藤さんの声質のおいしいところをずっと味わえる感じと言いますか。

伊藤　この楽曲は座りながらレコーディングをして、リラックスした状態で出せる、地声に近い歌声を意識しました。リアルな私をお届けできるような声質なので、聴きながら距離感の近さを感じとってもらえたら嬉しいです。

――ゆいにしおさんが書き下ろした2曲目の「ユニットバス」は、曲名を見たときに、MVでバスタブに入りがちな伊藤さんならではの楽曲だなと感じました（笑）。

伊藤　たしかに！もしかしたらゆいさんが“バスタブ声優”曲を狙っていたのかもしれない（笑）。ゆいさんには以前に「hello new pink」という楽曲を書いていただいたのですが、この曲はそこで語られた2人の後日談みたいなストーリーになっていて。

――歌詞に“ワンピース”というワードが出てきたときに、もしかしてそうかな？と思いました。ただ、歌詞を読み解いていくと、別れの曲っぽいですよね。

伊藤　私も楽曲をいただいたときに「いや〜、ダメだったのね」と思いました（苦笑）。でも、そういう辛いことを経験して大人になることも「ギフト」として捉えられると思いますし、歌詞は女の子の心情にすごく寄り添った内容なので、聴いてくださる皆さんにもこの女子心をわかってもらえたらいいなあと思いますね。

――別れの曲ではありますが、気持ちを切り変えて次の方向を見ようとしている印象があります。

伊藤　「悲しい」というよりは「諦めている」みたいな感じですよね。私も淡々とした感じ、「もう終わったのはわかっています」みたいなテンション感で歌っていて。感情があるんだかないんだか、みたいな感じが伝わればいいなと思います。

――そこから竹内アンナさん提供の既発曲「気づかない？気づきたくない？」を挿み、アルバムの4曲目「Oh my heart」は熱い雰囲気のアップチューンになりました。

伊藤　すごくダンサブルでかっこいいですよね。今回のアルバムは曲順にもこだわっていて、この曲は「気づかない？気づきたくない？」の次にくる楽曲ということを踏まえて作っていただいたんです。前の楽曲からの流れがきれいに繋がるようにしていただいたので、英語の歌詞が多いです（笑）。

――「気づかない？気づきたくない？」は英語のフレーズやラップが入った曲でしたものね。あと、この曲は力強い歌声も印象的です。

伊藤　内なる熱い想いが入った曲なので、語尾を強く歌ってみたりしました。誰かを引っ張っていく感じというか、「自分もまだ走れるかも」と思えるような、すごく元気がもらえる楽曲になっていて。“負けない”っていう歌詞がかっこいいですし、私は姉御タイプの女性に憧れがあるので、私もこんな女になりたいです（笑）。

――そしてリード曲の「Gift」に続き、6曲目の「100年前に 会いましょう」はオールドジャズ風の軽快なナンバー。しかもタイムマシンに乗って100年前のニューオーリンズに行く、ちょっと風変わりなラブソングです。

伊藤　まるで1本の映画みたいな曲になりました。森（由里子）先生の書かれた歌詞は夢があって、情景が想像しやすくて素敵だなと思いましたし、それが椿山（日南子）さんの書かれたかわいらしい楽曲と合わさって、キュンとなるラブストーリーを見ているように感じられて。でも、最初は「これはこういう物語で合っていますか？」という確認から始まりました。

――かなり突拍子もないストーリーですものね（笑）。ちなみに伊藤さんはタイムマシンがあったら、いつの時代に行ってみたいですか？

伊藤　え〜、何時代がいいかなあ……平安時代に行って毬を蹴ってみたいかも。

――蹴鞠ですか（笑）。

伊藤　「古今和歌集」とかを読んでいると、平安時代の人はみんな自分のことだけを考えていて、自由で楽しそうだなあって思うんですよね。蹴鞠して、歌を詠んで、歌が上手い人がモテるみたいな（笑）。文学的で良い時代だなあと思うので、少し行ってみたいですね。十二単（じゅうにひとえ）も着てみたいですし。すごく重そうですけど（笑）。

アーティスト・伊藤美来が「あなたのため」に届けたいもの

――アルバムの話に戻して、「傘の中でキスして」「パスタ」と既発の2曲に続き、9曲目の「トロイメライ・ミライ」はアップテンポの開放感溢れる楽曲です。

伊藤　明るくて爽やかな、ライブ映えしそうな楽曲になりました。2022年のライブ（“What a Sauce!”東京公演）のアンコールの一番最後で、「君に話したいこと」という楽曲を久しぶりに歌ったのですが、そのときに改めて皆さんとの繋がりを感じることができたし、とても反響が良かったんです。この曲はそれを受けて生まれた楽曲というか、若い頃の女の子の友情を歌った「君に話したいこと」から大人になって、社会に揉まれながらも、“君”と一緒に見た夢を忘れてはいないし、まだこれからも叶うと思っている、そんな未来を見るような楽曲になっています。

――それは伊藤さん自身の今の気持ちにも重なるわけですか？

伊藤　そうですね。個人的な気持ちの話になると、私と応援してくださっている皆さんをイメージして歌いました。特に“もう一度 夢見る君と 風になれるなんて”や“逢えるかな”“逢えるよ”のところはそうですね。とにかく未来は明るいから、一緒に見に行こうよ、ということを歌っていて。この曲は今回のアルバムの中でも特に自分のことに置き換えやすい楽曲です。

――そしてアルバムは「青100色」「La Pa Pa Cream Puff」と続いて全11曲で締め括られるわけですが、改めて今作のタイトル『This One’s for You』に込めた思いを聞いてもいいでしょうか。直訳すると「これはあなたのためのもの」という意味ですが、そこには強い意志みたいなものが込められているように感じまして。

伊藤　やっぱり皆さんに届けたい気持ちが一番にあるのですが、私の歌はもちろん、すべてを皆さんのために作っている気持ちでレコーディングも頑張ってきたので、それを受け止めてほしい私の気持ちと願望が、このタイトルには表れていると思います。「届いてください、お願いします！」みたいな（笑）。

――これは個人的な解釈なのですが、今までのアルバムは「伊藤美来」が目指すべきアーティスト像を模索しながら構築していくようなイメージがあったなかで、今作はより明確に自分がアーティストとして伝えたいものを確立しているイメージがあるんですよね。

伊藤　……多分その通りですね（笑）。自分でも「私はここまで言えるようになったんだな」って思います。「あなたのために」なんて、自分に自信がないと届けられないと思うので。それはここまでシングルやアルバム、ライブやフェス、作詞・作曲も含めて色んな活動をやらせていただいたからだと思いますし、そこで自分が得たものが今回のアルバムには反映されていると思うので、それを受け止めてもらえたら嬉しいです。

――そして今年5月には、神戸・名古屋・東京の3都市を巡るツアー“伊藤美来 Live Tour 2023「Every Day is a Gift」”の開催も決定しています。

伊藤　まだ何も決まっていないので何も言えないのですが（笑）、少しでもいいから皆さんを驚かせるような演出ができればいいなと思います。あとは楽曲の力で皆さんを少しでも肯定できるような、ライブを見て「よし！明日からまた頑張るか」みたいな気持ちになってもらえるセットリストにしたいですね。

――昨年12月にTikTokライブで配信された、アコースティックライブが素晴らしい内容だったので、個人的にはそういったライブも見てみたいですね。

伊藤　ありがとうございます！私もアコースティックライブは初めてだったのですが、楽器の音がストレートに自分の耳に入ってくるのが、すごく心地良くて。今度のツアーに組み込むかはわからないですけど、またどこかでアコースティックライブにも挑戦してみたいです。

――あとは今回の新曲「Gift」を生のビッグバンドの演奏で聴いてみたいです。

伊藤　ビッグバンド！いいですよね〜。そこまで大きくなるには、あと何年かかるかわからないですけど（笑）、いつか実現できる日を目指して頑張ります！

●リリース情報

伊藤美来 4thアルバム

『This One’s for You』

2月15日（水）発売

【BD付き限定盤（CD+Blu-ray）】



価格：￥4,400（税込）

品番：COZX-1968-9

【通常盤（CD）】



価格：￥3,300（税込）

品番：COCX-41948

＜収録内容＞

01. laid back

作詞：栗山健太　作曲：栗山健太、田中ひなの　編曲：田中ひなの

02. ユニットバス

作詞・作曲：ゆいにしお　編曲：水口浩次

03. 気づかない？気づきたくない？

作詞・作曲：竹内アンナ　編曲：名村 武

04. Oh my heart

作詞：柿沼雅美　作曲・編曲：白戸佑輔

05. Gift

作詞：伊藤美来　作曲・編曲：千葉岳洋

06. 100年前に会いましょう

作詞：森 由里子　作曲・編曲：椿山日南子

07. 傘の中でキスして

作詞・作曲：栗山健太　編曲：田中ひなの

08. パスタ

作詞・作曲：伊藤美来　編曲：水口浩次

09. トロイメライ・ミライ

作詞：花衣　作曲・編曲：佐藤厚仁

10. 青100色

作詞：川本真琴、日吉円子　作曲：川本真琴　編曲：水口浩次

11. La-Pa-Pa Cream Puff

作詞：ミズノゲンキ　作曲・編曲：睦月周平

●ライブ情報

伊藤美来 Live Tour 2023 『Every Day is a gift』

2023年5月6日(土)　神戸国際会館 こくさいホール

OPEN17:30/START18:30　全席指定

2023年5月13日(土)　名古屋市公会

17:00/18:00　全席指定

2023年5月21日(日)　東京国際フォーラム ホールA

17:00/18:00　全席指定

プレイガイドにて2月14日(火) 23:59までチケット先着先行受付中！

詳細はライブの公式サイトにてご確認ください。