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出産を控えた親と、その家族は、メタバースからベビー用ギフトを注文し、レジストリを作成できるようになった。レジストリサービスのベビーリスト(Babylist)は11月14日、「ベビーリストランド - ギフティングエディション(Babylist Land - Gifting Edition)」という、キャンディをテーマとしたカラフルなバーチャルショールームを開始した。買い物客は衣服、ベビーカー、そのほかの用品別に整理された各部屋を移動し、アイテムをクリックして詳細を確認してから、レジストリに追加したり、注文したりできる。同社の企業データによれば、同社は2011年から、米国で出産を控えた約3人に1人の親についてレジストリをホストするまでに成長した。同社は最近、2021年11月のシリーズC資金調達ラウンドで4000万ドル(約56億4000万円)を調達し、年間収益で2億5000万ドル(約353億円)を目標にしている。

メタバース進出は世代的な背景も

最高事業成長責任者を務めるリー・アン・グラント氏は、メタバースへの動きは、買い物客に対してより具体的に買い物や登録をする方法を提供するためだと、米モダンリテールに語った。同氏は次のように述べている。「これは家具と同様に、買い物客が十分に検討する分野の商品だ。客は自分たちにとってどれが適切か、予算はいくらか、どのように見えるかを十分に理解しようとする。当社は、自社のユーザーがレジストリの作成に約40時間を費やすことも知っている。つまり、ユーザーは十分な時間をかけることを望んでおり、メタバースはそれに理想的だ」。新米の親の多くはミレニアル世代とZ世代なので、これらのエクスペリエンスは人口層の観点から共感を呼ぶ可能性がある。フィンテック企業のエフアイエス(FIS)によると、ミレニアル世代の49%、Z世代の35%が、来年メタバースにアクセスする可能性が高いと回答しており、これに対して全消費者の割合は29%であることが、今年判明した。

増える体験型オンラインショッピング

そして、体験型のオンラインショッピングを試みているのはベビーリストのほかにも数多く存在する。ここ数週間でクレアーズ(Clarie’s)、パックサン(PacSun)、チートス(Cheetos)などのブランドが同様なシステムを運用開始した。グラント氏は、バーチャルショールームは、顧客がどのようにショッピングを行うかについてのデータを同社が収集し、仮説をテストするための方法でもあると語る。買い物客はズーム(Zoom)と似た機能を使用して、ショールームに友達を招くことができ、特別なオファーを提供するためのゲームも用意されている。商品のレビューとチュートリアルは随所に盛り込まれている。バーチャルセルフィーのためのフォトブースもあり、占星術をテーマにした赤ちゃんの名前を提案する壁も設置されている。「現在のところ、メタバースはまだとんでもなく大規模な実験の段階だ。当社は早期から学習を開始したいと考えた。これが数年後、5年後、または10年後には、購買プロセスの中核部分になると確信しているからだ。そのときのために、今から学習を行わない理由はない」。

ベビーシャワーギフト以外にも拡大

ベビーリストランド(Babylist Land)は2021年、Covid-19によるロックダウンのあとで対面のイベントが再開しはじめた頃に誕生した。ベビーリストは物理的なショッピング空間を保有することを長いあいだ検討しており、ロサンゼルスとニューヨーク市のアパートに2つのポップアップショールームを開設した。買い物客は3週間にわたってこのアパートを実際に訪問するか、オンラインで部屋を見ることができた。これらの体験では合計閲覧時間が1000時間、ページの表示回数が10万回で、5000のアイテムがレジストリに追加された。グラント氏は、これらの体験によって、人々がベビー用品をシミュレーション環境で見ることを好んでいると証明されたと語る。そこでこの6月、ホリデーのマーケティング戦略を立案しているとき、チームは「ベビーリストランド - ギフティングエディション」を立ち上げるというアイデアを再検討することになった。今回は、ショップが無期限に運用される。ズームのような統合などの追加機能もあり、ベビーリストはニュースレターによってこのショップを、レジストリを作成する親や、過去にギフトを購入した人々など、約500万人の自社の顧客に対してマーケティングすることを計画している。ショールームのディスプレイは新生児の枠を超え、親と祖父母のために幼児向けの用品やギフトも含んでおり、これは同社がベビーシャワーギフト以外にも拡大していくための意図的な行動だと、グラント氏は語っている。「これは当社にとって、出産を控えた親、新米の親、さらにその友人や家族に対して、ベビーシャワーの瞬間だけではなく、子どものはじめての誕生日やホリデーにもサービスを提供するための大きな機会だ」と、同氏は述べる。グラント氏は、この運用のコストがどれだけなのかを明らかにしていないが、サードパーティーの契約業者であるオブセス(Obsess)を雇ってインフラを構築した費用は、同社のマーケティング予算のうち「ごくわずかの部分」だったと語る。同社の社内コンテンツチームのプッシュ(The Push)は、後払いサービスのアフターペイ(Afterpay)からの支援を受け、このサービスでの支払を選ぶユーザーに15ドル(約2120円)のクーポンを渡している。「たとえ、これを使用するユーザーが1%だけだとしても、当社は学びを得ながら楽しんでいる」と同氏は述べている。

アーリーアダプターをターゲットに

ソルマーケティング(Sol Marketing)のブランドストラテジストとCEOを務めるデブ・ガボール氏は、メタバースをベースとする体験は、シミュレーション体験を提供することにより、オンラインベースのブランドにとって利益になり得ると語る。ベビー用品の場合、これは商品のサイズを的確にイメージしたり、家具が子ども部屋にどのように収まるかを確認したりすることを意味する。メタバースをベースとする体験が成功するには、最終顧客がその空間を簡単に移動でき、十分に没入感を得られる必要があると、ガボール氏は語る。そして、バーチャルショッピング体験は良い点があるとしても、今日の環境でブランドが運用していくためのベースライン要件からはかけ離れたものだ。しかし、メタバースをベースとするさらに多くの体験が一般的になれば、これは変わっていくかもしれない。ガボール氏は次のように述べている。「この分野のブランドは、まだアーリーアダプターだ。これが小売カテゴリーで標準装備になれば、ほかのブランドも同じものを採用せざるを得なくなるだろう」。しかし同氏は、ブランドがテック自体をマーケティングの策略として重視しすぎることに警告している。ほとんどの消費者は派手なテクノロジーそれ自体には興味を抱いていないと、同氏は語る。「消費者は、ブランドがどのようなテクノロジーを使用しているかとか、その背後のストーリーなどには関心がない。消費者が関心を持つのは、そのテクノロジーによって体験がよりエキサイティングで、簡単で、感性に訴える方法で買い物ができるようになることだ」と、同氏は述べている。グラント氏は、このシステムが万人に適したものではないことを認めている。しかし、これを試してみる意欲を持つ人々にとって魅力的な体験になることが主な目標だ。同氏は次のように述べている。「これらの人々に、自分たちがメタバースの一部であると感じてほしいわけではない。これらの人々が楽しい時間を過ごし、有益なことを学んで、自分たちに必要な商品を見つけたと感じてほしいのだ」。[原文:Baby registries are entering the metaverse] MELISSA DANIELS(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:黒田千聖)Image via Babylist