日本人の給与総額(平均年収×勤労者数)を1997年と2020年で比べると、約7.4%増。しかし、給料から天引きされる控除額(公的保険料の本人負担分+所得税+住民税)は41.7%増(13兆円近く)。そのため汗水の結晶は吹き飛び、消費税分まで加味した「実際に使えるお金」は、この23年間で6兆円も減ってしまった。北見式賃金研究所の北見昌朗所長の調査分析レポートをお届けしよう――。
写真=iStock.com/Atstock Productions
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■なぜ、こんなにも日本人は貧しくなってしまったのか

1997年から2020年までの23年間に、いかに日本の市中にお金が回らなくなったか。

前回は「勤労者1人あたりの給与」という視点で論じたので、今回は「日本全体の勤労者の給与総額」というマクロ的な視点からデータを検証したい。

今回も例を挙げながら説明していきたい。使用するのは、国税庁の「民間給与実態調査」である。給与総額(平均年収×勤労者数)は、年収がピーク時であった1997年と直近の2020年とを比較すると、次のようになる。

1997年の給与総額 211兆5080億円

2020年の給与総額 227兆1581億円(15兆6501億円増、7.4%増)

これだけみると7.4%増ですこぶる順調そうだが、そうではない。実は次のような形で給与総額が増えている。

平均年収↓×勤労者数↑=給与総額↑

つまり平均年収そのものは落ち込んだが、この二十数年間で勤労者数(非正規社員を含む)が増加したため、給与総額はどうにか増加になった感じだ。

平均年収は、次のとおり7.3%ダウンした。

(1997年) 467万3000円

(2020年) 433万1000円(34万2000円減、7.3%減)

勤労者数(1年以上勤務、非正規雇用者含む)は次のとおり2桁の増加となった。

(1997年) 4526万人

(2020年) 5245万人(719万人増、15.9%増)

この勤労者数が15.9%増というのが筆者には驚きだった。日本人の生産年齢人口は減っているのに、勤労者が増えたのだ。ちなみに総務省の調査によれば、人口(15歳〜64歳)は次のように減少した。

1997年 → 2019年
8697万人 → 7501万人(1187万人減)

定年後に働く高齢者や、女性が働きに出て共働き世帯が増えたことも一因になっていると考えられる。

それにより給与総額は多くなった、だが、後に述べるように社会保険料や税金によって汗水の結晶は吹き飛んでしまったのだ。

■知らぬうちに天引きされる額の増え方がすごい

社会保険(労使折半)には、厚生年金、健康保険、介護保険がある。また、労働保険には雇用保険(一部本人負担)、労災保険(全額会社負担)がある。

日本の勤労者は、厚生年金、健康保険、介護保険、雇用保険の本人負担分をいくら払ったのか?

まず厚生年金から調べた。

厚生年金の保険料(本人負担分)は次のとおりだった。

1997年の保険料総額 10兆3415億円

2020年の保険料総額 16兆3098億円(5兆9682億円増、57.7%増)

厚生年金の保険料は、引き上げが続いた。

2003年、総報酬制が導入された。それまでは毎月の給与からのみ保険料が徴収されていたが、賞与からも徴収されるようになった。
2004年、厚生年金保険料の計画的な引き上げが始まった。
➂ 短時間労働者に対する適用拡大も行われた。

結果、5兆9682億円増(57.7%増)である。これすべて、会社員の稼ぎから天引きされたのだ。

健康保険の保険料(本人負担分)は、次のようになった。

1997年の保険料総額 5兆9000億円

2020年の保険料総額 8兆8934億円(2兆9934億円、50.7%増)

この保険料には、協会けんぽおよび健康保険組合が含まれている。

介護保険は2000年から導入された。介護保険料(本人負担分)の総額は、次のとおりだった。

1997年の介護保険料総額 ゼロ

2020年の介護保険料総額 1兆3461億円

雇用保険料(本人負担額)は、次のとおりだった。

1997年の保険料総額 6458億円

2020年の保険料総額 5665億円(793億円減、12.3%減)

所得税の総額は、次のとおりであった。

1997年の所得税総額 3兆5013億円

2020年の所得税総額 3兆1664億円(3349億円減、9.6%減)

住民税の総額は次のとおりであった。

1997年の住民税総額 10兆4275億円

2020年の住民税総額 13兆3812億円(2兆9536億円増、12.8%増)

■天引き=控除額(保険料・税金)はしめて13兆円増

給料から天引きされる控除額(公的保険料の本人負担分+所得税+住民税)は、合計すると次のとおりになった。1997年と2020年とを比べると、実に13兆円近くも増えた。

(1997年)
控除額30兆8162億円

(2020年)
控除額43兆6634億円(12兆8472億円増、41.7%増)

この12兆8000億円というお金は、赤ちゃんを含めた日本の人口1億2000万人で割ると、1人あたり約10万7000円になる。思わずため息が出てしまう額だ。

筆者作成

■社会保険料増加のせいで「手取り」は微増にとどまった

勤労者の手取り収入は、次のようになった。

(1997年)
給与の総額 211兆5080億円−控除額30兆8162億円=手取り収入 180兆6917億円

(2020年)
給与の総額 227兆1581億円(15兆6501億円増、7.45%増)―控除額43兆6634億円(12兆8472億円増、41.7 %増)=手取り収入 183兆4947億円(2兆8029億円増、1.5%増)

このように給与の総額は冒頭で触れたように15兆円増えたが、社会保険料や住民税などの控除額が12兆円も増えたので、結局手取りの増加は3兆円にとどまった。

天引き額=控除額が給与総額に占めるウエートも次のように上昇した。

(1997年)
控除額 30兆8162億円÷給与の総額 211兆5080億円=14.6%

(2020年)
控除額 43兆6634億円÷給与の総額 227兆1581億円=19.2%(4.6ポイント増)

■消費税率の引き上げで「実際に使えるお金」は6兆円減

上記の「手取り収入」からさらに消費税を差し引くと「実際に使えるお金」になる。消費税率は1997年当時は5%だったが、2020年は10%だった。ということは、次のような計算になる。

(1997年) 手取り収入 180兆6917億円×0.95=171兆6571億円

(2020年) 手取り収入 183兆4947億円×0.9=165兆1452億円(6兆5119億円減、3.8%減)

つまり「消費税分まで加味した実際に使えるお金」は、この23年間で6兆円も減ってしまったのだ。

2020年のお金事情を整理すれば、次のようになる。

給与総額は227兆1581億円になった(15兆6501億円増。給与総額自体のアップ)

控除額(天引き額)は43兆6634億円になった(12兆8472億円増)

手取り収入は183兆4947億円になった。(2兆8029億円増。公的保険料及び住民税の引き上げによる負担増が加わった)

しかし、実際に使えるお金は、165兆1452億円になった。(6兆5119億円減。消費税率の引き上げによる負担増が加わった)
筆者作成

このほかに物価上昇による実質所得ダウンもある。1997年から2020年は、「戦後2番目の景気拡大」の時期とかぶる。しかし、実際の会社員の生活は不景気風がビュービューと吹きまくっていたのだ。

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北見 昌朗(きたみ・まさお)
北見式賃金研究所所長
1959年生まれ、名古屋市出身。愛知大卒業後、中部経済新聞社に入社、12年間勤務した後に独立して社労士となり、北見式賃金研究所所長。著書に『製造業崩壊 苦悩する工場とワーキングプア』(東洋経済新報社)、『消えた年収』(文藝春秋)、シリーズとして『愛知千年企業』(中日新聞社)他。
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(北見式賃金研究所所長 北見 昌朗)