KDDIの郄橋誠社長は7月29日の会見で、「長時間の障害を起こしてしまい、お客様の信頼を失ったと感じている」と語った。

「今回の通信障害は防げたものだったし、防がなくてはいけないものだった」。7月29日に会見を行ったKDDIの郄橋誠社長は反省の言葉を何度も口にした。

7月2日未明に起きたKDDIの通信障害。影響が出た回線数は約3091万に上り、総務省が公表している2008年度以降で最大級となった。

発端は、通信設備のメンテナンス中に不具合が生じたことだ。本来、使うべきでない古い手順書に沿って作業したことで、ミスが発生。「全面復旧」を宣言するまで4日近くも要した。「通常のミスと判断し、(大規模障害に)発展するかもしれないという考えが足りなかった」(技術統括本部長の吉村和幸専務)。

同様のミスが発生する可能性は否定できない

今回、すべての契約者に対しお詫びとして一律200円を返金する。その返金総額は75億円となる見通し。KDDIは再発防止策として、メンテナンス時における手順書の管理体制やリスク評価を見直すほか、情報開示の徹底などを行う。

ただ、通信ネットワークの整備には、ハードウエアの交換など人の手が介在する作業が一定程度存在する。今後も同様のミスが発生する可能性は否定できない。

今回のKDDIの事故以前にも、2021年10月にはNTTドコモで延べ1290万人、2018年12月にはソフトバンクで3060万人に影響する大規模な通信障害が起きている。

NTTの島田明社長は7月中旬の東洋経済のインタビューで「ネットワーク制御や障害発生後の復旧が難しくなっている。KDDIの通信障害は決してひとごとではない」と述べた。

この数年、技術の進展により携帯電話と連係するサービスが増加。結果として、通信障害1件当たりの影響を受ける個人や法人の数が増えている。もちろん、各社で通信障害を回避する体制を整えることは重要だが、同時に業界全体としての再発防止に向けた仕組みづくりが求められている。


その1つの可能性として、郄橋社長は会見の中で「ローミングを積極的に実現したい」と言及した。ローミングとは、自社のユーザーが自社のネット―ワーク外にいる場合、そのエリアで事業を行う通信会社のネットワークと相互に接続し、自社ユーザーの通信や通話が可能となる仕組みだ。

国内では東日本大震災後にも、被災時に通信環境を維持するため、キャリア間でローミングを導入する議論があった。だが、当時主流だった3G回線でのキャリア間の通信規格の違いなどから実現には至らなかった。一方、2020年に本格参入した楽天モバイルが、自社のネットワーク体制を構築するまで、カバーできていないエリアについてはKDDIのネットワークにローミングすることで利用できるようにした事例もある。

今回のような大規模な通信障害が起きた場合、一時的に別の通信会社のネットワークにローミングすることで影響を最小化しようというのが、その狙いだ。金子恭之総務相も7月29日に行われた会見で、「事業者間ローミングの実現も重要な課題だ」と述べた。

コストは誰が負うのか

とはいえ、ローミングには課題もある。その1つが、追加で必要になる設備投資負担のルールづくりだ。

そもそも各キャリアはそれぞれの回線数を基にネットワーク設計をしている。そのため、他社ユーザーからのアクセスが急増すれば、ネットワークがパンクして障害が起きかねない。ローミングを可能とするネットワークを導入するには、追加の設備投資が必要になる。

その場合、誰かがコストを負担しなければならない。通信事業者なのか、それとも通信インフラの公共性に鑑みて国などが支援をするのか。また、回線をローミングした側とされた側との費用負担をどうするかなど、今後詰めるべき事項は多い。

一方、今回のKDDIの通信障害時には、110番など緊急通報の通信サービスが利用できないという事態も発生した。

ただ、こうした緊急通報に限れば、「トラフィックの急増は考えにくい。大きな設備投資をせずとも対応可能だ」(野村総合研究所の北俊一パートナー)。実際、緊急通報のみローミングができるような仕組みは、海外ではアメリカやEU諸国などに見られる。

また、情報通信総合研究所の岸田重行主席研究員は「災害用の公衆無線を通信障害発生時に使えるようにするのも選択肢の1つだ」と指摘する。

総務省は、今秋にも有識者で構成する検討会などを立ち上げ、ローミングをはじめとする障害対策の実現に向けて動き出す。今回の大規模障害を受けて、総務省とキャリア各社が一体となった形での早急な仕組みづくりが求められる。

( 高野 馨太 : 東洋経済 記者)