執刀したブラジルの医師(左)とイギリスのジーラニ医師(画像は『Gemini Untwined 2022年7月29日付「Meet the twins: Arthur and Bernardo」』のスクリーンショット)

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ブラジルのリオデジャネイロで今年6月、頭蓋結合双生児で3歳になる兄弟の分離手術が行われ、無事成功していたことが明らかになった。手術はVR(仮想現実)技術を活用し、イギリスの小児神経外科医ヌール・ウル・オウェイス・ジーラニ氏(Noor Ul Owase Jeelani)の協力のもと100人近いチームが編成され、27時間以上が費やされた。

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ベルナルド君(Bernardo)とアルトゥール・リマ君(Arthur Lima)は2018年、ブラジル北部ロライマ州の田舎町で頭部が結合した非常に珍しい頭蓋結合双生児として誕生した。2人は一方が上向き、もう一方が下向きで頭蓋が繋がっており、普通に歩くことも座ることもできずにいた。

両親が最初に助けを求めたのは、リオデジャネイロのパウロ・ニーマイヤー州立脳研究所「Instituto Estadual do Cérebro Paulo Niemeyer」の小児外科医長ガブリエル・ モハレジュ氏(Dr.Gabriel Mufarrej)で、兄弟は2年半にわたりケアを受けた。

手術が実現したのは今年初め、モハレジュ医師が英ロンドンの慈善団体「ジェミニ・アントゥワインド(Gemini Untwined、以下GU)」に分離に関するアドバイスを求めたことがきっかけで、ジーラニ医師の指導のもとVRを駆使した数か月にわたる準備が続けられてきた。GUはジーラニ医師が2018年に設立、頭蓋結合双生児の研究や手術を手掛けており、今回の手術はパキスタン、トルコ、イスラエルなどに続いて6例目となった。

リオデジャネイロでの手術はジーラニ医師が中心となり、6月7日と9日の2回(合計33時間)を含めた計7回が行われ、ロンドンのバーチャルルームで外科医チームが待機、ヘッドセットを付けたリオデジャネイロの医師らを見守った。

ジーラニ医師は9日の27時間の分離手術中、飲食に15分休憩を4回取っただけだったそうで、「手術が終わった後はクタクタでしたが、やるだけの価値はありました。家族は無事に兄弟が分離されて非常に喜んでいましたよ」と笑顔で語った。またモハレジュ医師も「病院で2年半を一緒に過ごした2人は私たちの家族のようなもの。この手術は2人の人生を変えたのです」と述べ、ブラジルでは不可能と言われた手術の成功を喜んだ。

なおまもなく4歳を迎える兄弟は、脳の主要な静脈をシェアしていただけでなく、頭蓋結合双生児の分離としてはこれまでで最年長だったため、手術は非常に複雑だったという。手術から数日は高血圧と高心拍数に苦しんだものの、手術から4日後には初めて同じベッドで向かい合ったそうで、手を繋ぐとずいぶん落ち着いたそうだ。兄弟は今後、病院で6か月間のリハビリを受ける予定で、ジーラニ医師は「6か月経ってみないと手術の本当の成果は分かりません。今後は注意深く見守っていく必要がありますね」と話している。

GUによると結合双生児の5%が頭蓋結合で、そのうちの約40%が死産か分娩中に死亡、3分の1が24時間以内に命を落とすという。また78%は1歳までに、90%は10歳までに亡くなってしまうという。

ジーラニ医師は「分離手術はGUの基金によって賄われており、人々の寄付があったからこそ今回の手術が実現したのです」と感謝の言葉を述べ、次のように続けた。

「全ての頭蓋結合双生児の手術が可能なわけではありませんが、我々の技術を駆使しもっと多くの人がGUを利用できるようになれば、世界の約半数の頭蓋結合双生児を手術で救うことができると思っています。今後も世界のチームと知識を共有し、協力しあいながら頭蓋結合双生児に希望を与えていきたいと思っています。」

画像は『Gemini Untwined 2022年7月29日付「Meet the twins: Arthur and Bernardo」』『New York Post 2022年8月1日付「Conjoined twins born with fused brains separated after 27-hour surgery」(Gemini Untwined)』『The Mirror 2022年8月1日付「Conjoined twins successfully separated after 27 hours of ‘space age’ surgery」(Image: PA)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 A.C.)