現在48歳の女性は、若い頃から父親からの仕送りのおかげでほとんど働かなくてもひとり暮らしができた。5年前に父が他界した際には2400万円の相続金が入ったが、怪しい投資にのめりこんでいく。「母親さえ死ねば、お金の心配はなくなるのですが……」。家計相談を受けたFPは女性が吐露した本音に驚愕した――。
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東海地方に住む吉川みどりさん(仮名・48歳)は、母親(79歳)が所有するアパートでひとり暮らしをしている。大学を中退した後は、不定期にアルバイトをしてきたが、この3年くらいは、働くことなく、アパートの部屋で一日の大半をボーっとしながら過ごしている。

父親は5年前に他界し、2400万円ほどの現金を相続した。相続にかかる税金は、母が懇意にしている税理士に頼んで納付を済ませ、みどりさんの口座に振り込まれたのが2400万円とのことである。

父親亡きあとは、相続したお金で暮らしてきたが、毎年約100万円ずつ減っている。今のように働けない状態が続いたら、貯蓄が底を突くのではないかと不安になり、筆者にZoom相談を申し込んできた。

[家族構成]
吉川みどりさん(仮名・48歳)
母親 79歳(別世帯)
[資産状況]
母親の年金額:不明だが、それとは別に家賃収入が月20万円ほどある
母親の現金資産:金額は不明だが、推定5000万円程度

■精神面でも金銭面でも支えてくれた父親が他界

みどりさんから相談を受けるのは、今回で二度目のことである。一度目は10年くらい前、父親がまだ健在の時で、月に5万〜6万円くらいのアルバイト収入を得て、ひとり暮らしをしていたときである。アパートの家賃を含め、父親が月に15万円くらいの仕送りをしてくれていたので、生活は成り立っていた。

ちなみに、みどりさんは手元にあるお金はすべて使い切る性格である。そのため、自分でまとまった金額の貯蓄をした経験はない。貯蓄を増やす方法を知りたいというのが、当時のみどりさんのメインのご相談であった。

その後、みどりさんに仕送りをするなど、金銭面でも精神面でも支えてくれた父親が他界。アパートの家賃を払うのが難しくなったことから、みどりさんはもう少し安いアパートに引っ越そうと考えた。自分でアパートを借りようと試みたが、アルバイト収入だけで収入が不安定なことや、母親がみどりさんの保証人になることを拒んだため、自分の力では住み替えることができなかった。母親としては、みどりさんに実家に戻ってほしかったようである。

悩んだ末、母親が父親から相続したアパートの空いていた部屋に勝手に住み替え、現在に至っている。アパートの家賃は支払っていない。

■母の過干渉で娘の心が壊された

みどりさんが親と別居したのは、母親との関係性に問題があったからである。

一人っ子ということもあり、幼い頃から溺愛されてきたらしい。同時に、幼い時からみどりさんの行動を細かくチェック。高校生の時は午後6時が門限で、大学生になっても午後8時には帰宅するように言い聞かされてきた。午後8時を過ぎても帰宅しなかった時には、母親が知り得ていたみどりさんの友人宅に電話を入れるなど、過干渉な関わり方をされてきた。

大学生の時、みどりさんに彼氏ができると、干渉はエスカレート。彼氏にもさまざまな質問を投げかけるため、母娘のケンカは絶えず、彼氏ともいつのまにか疎遠になってしまった。そんなことが何度か繰り返されるうち、「自宅を離れないと、母親につぶされてしまう」と思ったみどりさん。大学を中退してアルバイトを始め、ひとり暮らしを始めた。

写真=iStock.com/Dishka
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ようやく母親から逃れて、心が休まると思ったみどりさんだったが、アルバイト先で要領の悪さを指摘される機会が多く、長く働けても6カ月くらいで解雇されてしまう。そんなことが何度か繰り返されるうちに、働くことが怖くなり、やっとの思いで逃げたはずの自宅に戻ることになった。

しばらくは自室に閉じこもりがちだったみどりさんだが、2年くらいが経ったのち、アルバイトに行けるようになった。「このまま家に閉じこもっていたら、私は駄目な人間になってしまう。母親の干渉からも逃げたい」という気持ちで、この時はなんとか踏ん張ったそうだ。

そして、二度目度目の一人暮らしを開始したものの、以前と同じように、アルバイトは長続きしない。だが父親からの仕送りで、アルバイトをしない時期もひとり暮らしをなんとか継続することができた。

■知人の勧めで投資したが投資先が倒産?

父親の仕送りは20年近く続いたが、長年患っていた心臓の病気が悪化し、父親は5年前に他界した。それまで「自分の家族は父親だけ」と思ってきたみどりさんは、父親が亡くなってからは、生きる力を失うくらい落ち込んだそうである。

みどりさんからZoomでの相談を受けた時は、体調が比較的良い時だったらしく、前回の相談から空いた時間の生活状況について、いろいろと報告を受けた。10年もの時間が経っていたが、みどりさんの話を聞くにつれ、私も少しずつ、以前の相談内容を思い出してきた。

今回、みどりさんの相談の目的は、「今後の生活について」である。そこで現在の貯蓄額をうかがうと、「1900万円くらい」とのこと。「相続発生時から500万円くらい減っていますね?」と聞くと、「毎年100万円くらいずつ、貯金が減っています」という。

「現在の貯蓄の内訳を教えてください」
「え〜っと、○○ファンドへの投資が1000万円くらいと、普通預金が900万円くらいです」
「○○ファンドって、初めて聞いた名前ですが、どんな投資先ですか?」
「実は、△△さんに勧められて始めたんでよくわかっていないんですが、外国の株などに投資をするので、国内の株などに投資をするよりたくさん儲かると聞きました」

みどりさんの話を聞きながら、私はネットで○○ファンドを検索してみた。すると、HPは見つからず、「○○ファンド 倒産」「○○ファンド 詐欺」「○○ファンドに監督官庁の調査が入る」「○○ファンド 経営者一族が私的流用」など、目を疑うような内容の記事が次々とヒットした。

写真=iStock.com/bankrx
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「みどりさん、今、○○ファンドについてネットで検索してみたけれど、もしかしたらこの会社は倒産しているんじゃないかしら。HPもすでに閉鎖されているみたいだし、このことはご存じですか?」
「△△さんから、なんとなく話は聞いています。でも、今は暫定的にHPを閉じているけれど、お金は守られていると言われました。それに、投資資金を追加してくれれば、今までよりも良い条件でお金を殖やしてあげると言われているので、今日は畠中さんに、いくらくらいなら追加で資金を投資しても大丈夫なのかも、聞きたいと思っているんです」

正直、「開いた口がふさがらないというのは、こういう時を言うのかな」と感じるくらいだったが、みどりさんが△△さんを信頼しきっているため、「そうなんですね。だけど、みどりさんが投資した1000万円は、おそらく戻ってこないと思います。1000万円もの大金を投資して、しかも投資先が倒産しているかもしれないのに、みどりさんはそのことを自分で確認はしていないわけですね」と、自分としては、嫌味だなと思いつつも、現実を伝えてみた。

するとみどりさんは、「△△さんには、いろいろと愚痴を聞いてもらったり、困ったときに助けてもらったりしているので、△△さんが、私の困ることをするわけはないんです」と、私の言葉にいら立ちを隠せない様子で反論をした。

■メンターに勧められた商品で投資金をすべて失う?

私の言葉にかなりのショックを受けた様子で、言葉が出てこない状態になっているみどりさん。実は私も、△△さんのことは知っている。みどりさんとは関係がないところで知り合ったため、△△さんの詳細は省くが、いわゆるメンターのような仕事をしている人である。

私が持つ△△さんの印象も、投資詐欺につながるような商品を、みどりさんに勧めるような人には思えない。みどりさんが全面的に信頼しているのも、うなずけてしまう感じなのだ。

「私も△△さんを知っているから、みどりさんに損をさせようと思って勧めたのではないと思うけれど、みどりさんの大好きなお父様から譲り受けたお金を、万が一、失うことになったら、みどりさんも悲しいですよね。それに1000万円がなくなってしまったら、みどりさんの生活設計も、かなり変わってくるはずですが、どう思いますか?」というと、みどりさんは再び無言になってしまった。

「一歩ずつ前に進むしかないですから、まずはご自分の力で確認作業をしていきましょう。投資金を払った後、何らかの書類を受け取っていますよね。その書類に連絡先が書いてあるはずですから、その番号に電話をかけてみて、状況を聞いてみましょう。その電話がすでに使われていなかったら、国民生活センターなどに電話をして、同じような被害に遭っている人がいないかを確認するとよいと思います。それでも状況がつかめないようでしたら、金融庁などに直接電話をしてみるしかないかもしれません。いずれにしてもみどりさんの大切な1000万円が、どのような状況になっているのかは、早急に調べる必要があります。みどりさん、できますか?」
「……」
「調べた結果、1000万円が戻ってこなかったとしたら、普通預金の900万円だけで、やりくりすることになります。とはいえ、900万円では、現在のペースでいくとあと8〜9年くらいしか、持たないと思われますが」

写真=iStock.com/kazuma seki
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「たしかに、900万円だけで残りの人生をまかなうのは難しいと思います。でも、母親が死んでくれれば、母親の預金(推定5000万円)は私のものになりますし、私が今、住んでいるアパートも自分名義になります。母親さえ死ねば、何の心配もなくなるんです」とみどりさん。

△△さんが自分に詐欺のような投資商品を勧めたとは、絶対に考えたくないようで、みどりさんの話は、母親の財産に移った。

■母親の死を待つだけではなく自分でも稼ぐことを目指す

「みどりさんは一人っ子だから、お母さまの財産をひとりで相続できるのは事実ですが、みどりさんには、お母さまの介護をする意思はないですよね。もし、お母さまに介護が必要になって、高齢者施設に住み替えるとしたら、今ある預金の多くは、介護費用で消費されてしまう可能性もあります。お母さまは預金で入居一時金を払えるでしょうし、年金と家賃収入で月々の費用をまかなえるはずだから、それなりの費用がかかる施設に入居される可能性もありますよね。今の時点でお母さまがお持ちの預金が、そのまま相続できるとは限らないことも知っておいたほうがよいと思うんですが……」

「たしかに、私は母親の介護をするつもりはまったくありませんし、母親も今さら、私に介護をしてほしいとは思ってない気がします。となると、介護が必要にならずに、母親に死んでもらうしか、私が働かずに暮らしていく方法はなさそうですね」

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「失礼ですが、さきほどからお母さまが亡くなることを願うような発言をされていますが、それよりもまず1000万円がどうなるのかを自分の力で調べることが大切だと思います。△△さんに聞いただけでは、調べたことになりませんから、できる限りの関係先に電話をしてみてください。

調べた結果、投資したお金が戻ってこないと判明したら、みどりさんも少しは働きませんか? お母さまが亡くなることを願う人生って、私なら悲しいですし、40代から部屋に閉じこもったままでいると、50代、60代とこの先、身体も動きにくくなっていくと思います。たくさん稼ごうと思わなくてもいいと思うんです。せめて自分の食費くらいはアルバイト代で稼ぐことを目指せませんか?」

「そうですよね。働けない状態がかれこれ3年くらい続いていて、最近は外に出るのさえ、おっくうになっています。今は、△△さんとときどき会話するのが、唯一の楽しみですが、△△さんとの会話にもお金がかかる現実を考えたら、少しでも自分で収入を得るべきですね」

このあともやるべきことを確認していったが、私のアドバイス通りに動いてくれるかは疑問が残る。投資先への確認も、私に頼みたそうな雰囲気だったが、私が代わりに引き受けるのはみどりさんのためになるとは思えなかった。

みどりさんは一人っ子なので、親の財産をひとりで相続できる代わりに、相談できる兄弟姉妹はいない。また△△さん以外に、本音を話せる友達もいないとのこと。

母親が亡くなったら実家に戻るのかもしれないが、古くなった家の修理や建て替え、親亡き後のアパートの管理など、子どもとしてやるべきこともある。やるべきことを自分で解決しようとはせず、優しく接してくれる人を頼り続けていけば、家の建て替えなどでも、悪徳業者にだまされないとも限らない。

「今までは親御さんに守られてきたけれど、これからはもう少し、自分の力で物事を解決しようとする力も必要だと思います。そういう意味でも、今回は起こっている現実を直視して、嫌なことから逃げないように頑張ってください。そしてアルバイトも、年単位で続くように努力してみてくださいね」

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畠中 雅子(はたなか・まさこ)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」「高齢期のお金を考える会」主宰。『お金のプロに相談してみた! 息子、娘が中高年ひきこもりでもどうにかなるってほんとうですか? 親亡き後、子どもが「孤独」と「貧困」にならない生活設計』など著書、監修書は70冊を超える。
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(ファイナンシャルプランナー 畠中 雅子)