「今こそ鉄道ファンは変われるチャンス」撮り鉄のマナー問題に土屋礼央が解決策を提案 - 土屋礼央
※この記事は2021年10月01日にBLOGOSで公開されたものです
こんな記事や
「どけー!」撮影を邪魔された「撮り鉄」が罵声上げる動画拡散(弁護士ドットコムニュース)
https://www.bengo4.com/c_23/n_13396/
こんな記事を
運転席から見た〝迷惑撮り鉄〟 現役鉄道マン「あの人たち、本当に危ないんで」(弁護士ドットコムニュース)
https://www.bengo4.com/c_18/n_13480/
最近ネットニュースでよく目にするようになっています。
鉄道ファンの中でも鉄道写真の撮影が特に好きな、通称「撮り鉄」と呼ばれている人のマナー違反のニュースです。
僕も鉄道好きの端くれとして思います、鉄道好きが鉄道に迷惑をかけてどうするのよ…。
鉄道ファンが鉄道運行を妨げるなど言語道断
僕は「撮り鉄」「乗り鉄」のように鉄道ファンの趣向をカテゴリー分けすると、「企業努力鉄」という極少数派の鉄ヲタです。
鉄道会社の企業努力、サービスをより感じて喜びを増幅して乗車するタイプになります。
そんな僕にとって一番あってはならないのが鉄道関係者に対して迷惑をかける行為。
毎日当たり前に運行されている事が最大の素晴らしさである中、運行の妨げになるような行為は絶対にいかんのです。
そんなニュースが続いているので、あまり鉄道に興味がない方にとって、鉄道イベントのイメージは、怒号が飛び交い、殺伐としていて常軌を逸した雰囲気で、そもそも鉄道への執着心が怖い。
もしかしたら、そんな風に思われているかも知れません。
鉄道ファンの端くれとして、これだけは伝えたい。
悪質なマナー違反を繰り返す人はごくごく一部です。
大半の鉄道ファンの方は、それこそ、マナーの部分では平均以上だと思います。
なぜならばレール、ダイヤというルールの上で動いているものを愛し、それに従って行動している人達だからです。
ルールが大好きなんです。仕組みが大好きなんです。
鉄道ファンには思いのほか常識人が多く、ルールを外れた行動をしない、迷惑をかけたくない人達ばかりです。いつもそういう人達と絡んでいるんで、それは間違いない。
そしてマナー違反をする人は、本当に鉄道を愛している人達じゃなかったりもします。
線路に侵入容疑、「撮り鉄」2人を書類送検 中央線が30分止まる(朝日新聞デジタル)
https://digital.asahi.com/articles/ASP995HWGP99UTIL024.html
レアな写真は高く売れるんですって。これじゃダフ屋行為と一緒です。そこに鉄道愛はありません。
コミュ力を必要としない趣味だからこそ起きた問題
ただこういう事案は昔からありました。でも最近の方が増えている気がします。
レアなスポットに人が集まりすぎるんです。
「タモリ倶楽部」の収録で普段は走らない特別列車を通常ダイヤの隙間に走らせ乗車する企画の時、収録している事は誰も知らないはずなのに、一駅二駅を通過していく度にカメラを持ったお客さんが、ホームにどんどん増えていく事がよくあります。
収録開始から2~3時間経ったら告知をしたのではないかと思うぐらい集まってくる。おそらく鉄道ファンの方がSNS等を使って情報を共有し、人がどんどん集まってくるのです。
ちょっとでもレアな写真が撮れるとなると物凄いスピードで情報が拡散される。昔に比べて、人が同じ場所に集まりやすい状況になっているため、トラブルになる事も増えたのだと思います。
先日、鉄道好きの人が集まって鉄道イベントの魅力について対談をする企画があったのですが、鉄道イベントのマナー問題を提案したら、「踏み込みますねぇ」となりました。
正直、鉄道好きでもあまり踏み込んでこなかった議題なのです。
「それはおかしいよ、マナーの悪い人がいればみんなで注意すれば良いのでは? 同じ鉄道ファンの問題だし」
そう思う方も多いと思います。
でも自分がそうなので、ご批判はあるかも知れませんが、あえて言います。
鉄道好きはコミュニケーションが苦手な人が多いんです。
なぜならば鉄道は個人行動の趣味。人とのコミュニケーションが上手じゃなくても、とても楽しい趣味なのです。
常に鉄道と向き合いたいので、鉄道の旅も基本は集団で行かない。ポエム風に言うと、車窓と会話をしているのです。
だから人と行動をともにする必要がなく、一日中無言で旅が終わる事だってあるし、売店でその日初めて発声をする時に声がカスカスな自分に驚く事もある。
マナー違反をする人が極少数いたとしても、そういう空気感が、声をかけられない要因になっているのではないでしょうか。
そんなコミュニケーションが苦手な人が沢山いるので、いきなり他人に声をかけるにはとても勇気がいる。
中には勇気を出して注意をする人もいますが、それでも従わなかったりすると、その後に声がけが続かない。個人主義なのです。
「良くないよ、そういう事は…」
と思っている人が大半なのは間違いありませんが、嵐が過ぎ去るのを待ってしまう。これが鉄道好きの心理状況だと思います。(ご批判は受け付けます)
だから昨今の鉄道ファンのマナーの悪さの報道を目にする事が増えて来ている事に、鉄道ファンみんなが心を痛めている。この記事を書くために色々な鉄道好きの方にお話を伺いましたが、みんな同じ気持ちでした。
なんとかしないと…。でも解決方法は、うーん…。
撮影スポットの有料化も一つの方法と思われます。最近の花火大会の有料席と同じパターンで、良い場所で撮影したければ、お金を払ってください、というやり方です。
どうしても今までは「切符を持っている人は平等」という観点から、鉄道会社側もなかなか撮影する人と乗客を分けられませんでした。以前も、上野駅で撮り鉄の方で溢れ返りそうな可能性があった、特急列車が出発するホームには、乗客以外立ち入り禁止の措置をとりました。おかげでホームでの混乱はなかったと記憶しています。
ちなみに鉄道好きはお金が発生するシステムには従順です。
グリーン車にはグリーン券を持っていないと入ってはいけない。逆におれはグリーン券を持っているから堂々と入ります!みたいな価値観を持っているので、撮影スポットを有料スペース化すれば、場所の取り合いは発生しにくい。さらに有料スペースも指定とグリーンに分けたらなおさら、混乱は防げるかも知れません。
とは言え、出発ホームは有料化である程度防げたとしても、通過駅ではそうはいきません。どうしても普段通勤列車が入線するホームにダイヤの隙間を縫ってレア列車が通過するので、撮り鉄と一般乗客をセパレートする事が出来ないのです。
このエリアでは撮影禁止とルール決めをしたとして、撮り鉄の方がルールを守ったとしても、それこそ一般乗客の方が「おっ、レア列車だ!パシャ!」なんて撮影禁止エリアで携帯カメラで撮影しようもんなら怒号の嵐になりかねない。一番避けたいパターンです。
現状、駅員さんでは管理しきれず、警察官が出動している始末。
どうしたって、鉄道写真に深い愛情を持っている人達と、鉄道を移動手段として利用している人が同居する世界なのです。
では、どうすれば世間に受け入れられる鉄道ファンになれるのだろうか…。
今こそ鉄道ファンが変われるチャンス
こんな記事がありました。
「撮り鉄締め出せ」怒った住民 マナー違反越え、仲良し(朝日新聞デジタル)
https://digital.asahi.com/articles/ASM4P7RCRM4PUEHF009.html
2年ほど前の記事ですが、鉄道ファンの未来はここにヒントがあるのではないでしょうか。全員に言い分はあると思いますが、結局、我々鉄道ファンが行動を起こすしかない、声をかけ合うしかない。
この連載は、「しかない」ではなく「もある」と別の視点で物事を捉えたい人間が書いている記事ですが、鉄道ファンのマナーに関しては、「しかない」で良いと思うのです。
声をかけあって、招きたいと思われる鉄道ファンに自分達でなっていきたい。
あまりに悪質な人達には排除という選択肢もあるかも知れませんが、それより話し合い歩み寄り、日常的に受け入れられる鉄道ファンにならなくてはならない。
コミュニケーションが苦手でも楽しめるとか言っている場合ではないのだ。
もしかしたら、そういう話し合いをしている中で、鉄道以外にも人とコミュニケーションを取る事が楽しいと思えるかも知れない。
この問題は短期間でどうこうなる問題ではないと思う。ちょっとずつちょっとずつ成長していくのみ。
もちろん、ニュースで報じられるような、鉄道ファンのマナーの悪い部分は、そこだけ切り取られた全体のほんの一部分である事も間違いありません。現場を見ていて思います。
でも今こそ、鉄道ファンが変われるチャンスとも捉えられます。
だからどんどん撮り鉄のマナーの悪さを報道してもらいたいと思う。
鉄道ファンにとって、これはごく一部の人の問題で片付けてはいけない問題なのです。
著者プロフィール
土屋礼央(つちや れお)
1976年生まれ、東京都国分寺市出身。RAG FAIRとして2001年にメジャーデビュー。 2011年よりソロプロジェクト「TTRE」をスタート。FM NACK5「カメレオンパーティー」TBSラジオ「たまむすび(木曜パートナー)」NHKラジオ第一「鉄旅・音旅 出発進行!~音で楽しむ鉄道旅~」などに出演中。主な著書に「ボクは食器洗いをやっていただけで、家事をやっていなかった。」「FC東京のために200兆円で味スタを満員にしてみた」「なんだ礼央化―ダ・ヴィンチ版」など。
・Twitter - 土屋礼央 @reo_tsuchiya