月間ユーザー数2000万人突破 存在感増す「note」はなぜクリエイターを惹きつけるのか - BLOGOS編集部
※この記事は2019年10月15日にBLOGOSで公開されたものです
クリエイターと読者をつなぐプラットフォームとして2014年にローンチした「note」。コンテンツ制作者のモチベーションを上げる独自の仕組みと、これまで実装されていなかった課金システムを取り入れたことで、大きく注目を集めた。
そのnoteは今月、月間アクティブユーザー2000万人突破を発表。ますますクリエイターのためのプラットフォームとして存在感を増している。多くのメディアが書き手探しに苦労するなか、なぜnoteはクリエイターたちを惹きつけるのか。その思想と根底にあるメディア産業への展望について、運営元の株式会社ピースオブケイク代表取締役CEOの加藤貞顕氏に話を聞いた。【取材・文:村上隆則、撮影・弘田充】
目指すのは「クリエイティブ全般のプラットフォーム」
-- いま、いろいろな媒体が「書き手不足」に悩んでいます。その一方で、noteにはどんどん書き手やクリエイターが集まっていますよね。なぜなのでしょうか。
加藤貞顕氏(以下、加藤):現在noteでは、毎日1万記事以上が投稿されています。多くの方が集まってきてくださってほんとうにありがたいと思っています。
noteがやっていることは、基本的に2つだけで、ものづくりをしたい人が、①表現しやすくて、②見てもらいやすい場をつくるよう心がけています。そのためにいろんな施策を実行しているんですね。たとえば、エディタの使い勝手も重要ですし、SEOも重要です。デビューのキッカケになるコンテストも大事ですし、ものづくりを続けていくためには、記事ごとに課金できる仕組みだって必要です。そういったさまざまなことの積み重ねが大事だと思っています。
-- BLOGOSでは以前、noteで「神保町編集交差点」というイベントのレポートを公開していたのですが、そのときにも「スキがたくさん集まりました」「一番読まれたnoteの一つです」といったようなお知らせが届きました。このような書き手を応援するような仕組みは、昔からある他のプラットフォームにはなかったですよね。
加藤:そういう仕組みは、CXOの深津(貴之氏)の就任後にそうとう増えましたね。いま、noteはメディアのプラットフォームとして捉えられていますが、考えているスコープはもう少し広くて、クリエイティブ全般のプラットフォームにしたいと思っています。創作を支え、出来上がった後の充足感を満たし、広く届けるアシストができる。そういう場所を目指しています。
もちろん、これまでの出版とか新聞、テレビも、クリエイティブのためのプラットフォームですよね。現在でもすごく大きいですし、意味があるものだと思うんですが、しくみが大掛かりなので、限られたクリエイターしか利用できないという面があります。たとえば本を1冊つくるには、何百万円というお金がかかります。出版社はそれを回収できる見込みがあるものしかつくらないので、選ばれた人だけが著者になっていました。
インターネット以降の最大の変化は、ものづくりのためのコストが劇的に下がったことです。それによって誰でも創作ができるようになった。ただ問題は、つくるのは誰でもできるけど、創作のクオリティを上げたり、ちゃんと見てもらったり、認められたり、お金になったりというエコシステムがなかった。noteはそこを解決していきたいと思っています。つまり、クリエイティブのためのエコシステムをインターネット上につくりたい。
コンテンツに値が付くようになるのは「自然」なこと
-- noteができてから変わったこととして、Twitterで記事について「これが無料なんだ」という感想をつぶやく人を見るようになったということがあります。加藤さんとしても、コンテンツにきちんと値がつくようにしていきたいというのはあるんでしょうか。
加藤:その部分は、変えていきたいという気持ちはあるといえばあるんですが、でもそもそも「それが自然なのでは?」という思いもあります。インターネットコンテンツの流通と収益化の仕組みはまだまだ未完成で、過渡期なんだと思います。これまでのメディア産業には、たとえばフリーペーパーと有料の雑誌があったり、新聞にも無料の新聞と有料の新聞がありますし、テレビも無料のものと有料のものがあります。つまり、広告と課金の両方の収益源があるのが普通だったわけです。
なぜネットがそうなっていなかったかといえばいろんな理由があるんですが、課金のためのシステムやセキュリティなど、技術的な部分はほとんど解決できるようになりました。であれば今後コンテンツは、有料化されるものと、広告のみで無料で見られるものが混在していくのが当然だと思います。
-- たしかに、過去に課金コンテンツに対して、「なんとなく無理そう」という思い込みはあったかもしれません
加藤:ぼくはそれが不思議なんですよ。cakesをはじめた2012年当時、「コンテンツに課金なんてありえない。そんなの無料で見られるだろう」と言われました。僕は出版社時代には編集者として、本を普通に有料で売っていました。また、無料のオンラインメディアも経験しましたが、広告だけで回すのは難しそうだなというのが率直な感想でした。また同時期に電子書籍も手掛けましたが、デジタルのよさがあまり生きていないのではと思っていました。
今の電子書籍は数千億円くらいの市場規模ですが、当時、出版は2兆円以上の規模がありました。出版社としても、「電子が紙書籍の市場全体をカバーする規模になるのか」と考えたときには、難しいという結論にならざるをえない。さらに広告モデルの媒体を手伝ってわかったのが、がんばってもページビュー単価がなかなか上がらないということです。
-- その点は多くの媒体が苦労していると思います
加藤:ですよね。コンテンツの作り手としては、個人的には、1ページビューあたり10円くらいほしいと思うのですが、1~2円がせいぜいですよね。それで、完全に異なる仕組みが必要だなと思い、会社をつくりました。当時、課金というのは誰もやっていなかったので、まずはここから手を付けようとcakesをはじめたんです。
noteはクリエイターの集まる「街」を作る
-- noteはコミュニティのような雰囲気もありますよね
加藤:ぼくたちは「街」という表現をよく使います。クリエイターの集まる街を作りたいんです。彼らのための街ができると、クリエイティブが流行って、クリエイターが創作活動をつづけられるだけの収入も得られるようになる。そのお金の一部で僕らは運営していければいいという考え方です。だからクリエイティブを何よりも大事にしています。
-- そういう運営方針に共感するのか、ライターや編集者さんのような方がnoteを書いてることも多いですよね。
加藤:共感してもらえているならうれしいですね。クリエイティブしている人たちは、お金も必要だと思いますが、いちばんの根本はやっぱり表現したいことがあってやっている。僕たちはその部分でいかに役立てるかということばかり考えています。きれい事に聞こえるかもしれませんが、そのうえでビジネスとしてもしっかり回るのが理想だと思うんです。
-- クリエイター側に対して、noteでは「クリエイター支援プログラム」も始めています。この取り組みは、書いてくれた人たちが次につながるようにという意図なんでしょうか。
加藤:「続ける」ということを考えたときに、チャンスや出口というものはとても重要です。おもしろいものを書くだけで、結果的にデビューできる、つぎにつながる、ということであれば、クリエイターがnoteで本気のコンテンツを出してくれるようになります。
おもしろいものを書くだけで、たとえば書籍化や映像化ができたりするとすごくいいですよね。そういう事例が増えるほど、noteにチャンスがあると感じた新しいクリエイターが集まる。そういう流れをもっとつくっていきたいなと思っています。
代替不能なもの以外、ほとんどすべてのメディアはデジタル化していく
-- noteからは少し離れますが、クリエイターの集まる場作りをする立場から見て、今後メディアビジネスはどんなふうに進んでいくと思いますか?
加藤:話の前提として、ぼくは今後ほとんどのビジネスはメディアになると思っているんです。たとえば金融は、どんどんウェブサービスになってきてますよね。おそらくこれから、そこら中にある銀行の支店はなくなっていくはずです。スマホやPCの画面で銀行サービスを受けるようになるわけなんですが、そのページには金融機能だけではなく、いろんな情報も掲載されている。これが金融におけるメディア化です。
同様にして、他のビジネスもメディア化していくと思います。その流れで考えると、既存のメディア産業は、情報だけを取り扱っているから、いちばんメディア化(デジタルメディア化)しやすかった。だからわりあい早くメディア化をせまられている。金融も「お金」という情報を取り扱っているから、やりやすいので急速にメディア化しています。
メディア産業の今後を考えると、どうしても代替不能なもの以外はほとんどすべてデジタルメディア化するしかないと思います。デジタル化した結果、これまでより強くなるものもあれば、なくなるものもありますが、メディア自体がなくなるということはありません。課金とかサブスクリプションとか広告とかアフィリエイトとか、あるいはECの組み合わせとか、メディアによって目的やコンテンツやユーザ特性が違いますから、さまざまな手段でビジネスを行っていくようになるんだと思います。
-- ついサブスクが流行ってるからサブスク、となりがちですが
加藤:雑誌の時代から、サブスク=定期購読の形は昔からありましたが、あらゆる雑誌が定期購読だったわけではないでしょう。手段が1つ増えただけなんじゃないですかね。ぜんぶがそうなることはないと思います。
雑誌と1つちがう点をあげるなら、昔の雑誌は1カ月に1回出ていたという点です。ネットではいつでも好きな時にコンテンツを出せます。ビジネス手段にも、課金もあれば、サブスク、ワンショット、広告といろいろあるわけです。
もうひとつ、すべてがデジタル化していく流れのなかでは、イベントなどリアルの場の価値も、相対的に昔より上がっていくと思います。デジタル上がデフォルトになると、リアルの場やつながりが、逆説的にすてきなものになるんです。
だから、ぼくたちもnoteを使っているクリエイターが自分のファンに対面できるような機会を用意するために、イベントのための場所を用意しています。クリエイターとファンの関係が継続するためには、ライブや対面コミュニケーションが果たす役割は大きい。Spotifyで聞いてるよりも、ライブに行ったほうがそのミュージシャンを好きになるでしょう。そういう価値観が今後、より重要になっていきます。
プロフィール
加藤貞顕(かとう・さだあき):アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海)、『ゼロ』(堀江貴文)、『マチネの終わりに』(平野啓一郎)など話題作を多数手がける。2012年、コンテンツ配信サイト cakes(ケイクス)をリリース。2014年、メディアプラットフォーム note(ノート)をリリース。