「藤田さんは悪ではなかった」クラブ名変更に揺れるFC町田ゼルビアサポーターの本音 - 島村優

写真拡大

※この記事は2019年10月15日にBLOGOSで公開されたものです

サッカーJ2・FC町田ゼルビアが10月13日、クラブ名の改名問題が議論になったサポーターミーティング後初となるホームゲーム・鹿児島戦を本拠地の町田市立陸上競技場で開催した。

オーナーである親会社サイバーエージェント(以下、CA)の藤田晋社長が、クラブ名を「FC町田トウキョウ」に改名する意向を示したミーティングから2日、会場に集まった約3000人の関心の的はやはりクラブの今後について。

サポーター同士の会話でも、試合後のトークショーでも、様々な場面で話題が改名問題に及んでいた。

「ゼルビア」を外す理由が説明不足

様々なサポーターと意見交換をする中で、共通していたのはクラブ強化への思いだ。ミーティングで藤田氏は、今後のゼルビアのビジョンとして、

2020年J1昇格
2021年J1参戦
2024年J1優勝
2025年ACL優勝

という目標を掲げていたが、CAが経営に参画しチーム強化のために資金を投入することについては歓迎する声が多いようだった。

13日の鹿児島戦を観戦したある古参ファンは、ゼルビアの現状を次のように話す。

ファンはチームを強くしたい、J1で戦いたい、って言うけど、今までの体制では戦力的にも経営的にもどん詰まりだったのは確か。だから、僕はサイバーエージェントの傘下に入ったことは歓迎している。やっぱりチームには強くなってほしいから。

一方で、チーム名の変更については唐突に感じられたという。

彼らがそれを必要だと言うなら、そうなのかもしれない。より広いマーケットを相手にする上で、『トウキョウ』が必要なのも理解できる。でも、なぜゼルビアを外さないといけないのかは、説明が足りないように感じた。

意外にも、チームの未来のために名称変更を受け入れる余地があると話すサポーターは一定程度見られた。ただ、そのように限定的な賛意を示す人も、「ゼルビア」という名前を変える理由について説明不足だと指摘する声は多く上がっていた。

試合後に掲げられたメッセージ

スコアレスドローで終わった試合後、熱烈なサポーターが陣取るゴール裏エリアで名称問題についてのメッセージが書かれた横断幕が掲げられた。

横断幕に書かれていたのは次のような言葉だ。

「藤田オーナー ゼルビアの名前を残し、歴史に残る英断を」
「ゼルビアというこの街の灯りを永遠に」
「ゼルビアを本当に失くそうとしている犯人は誰?」

この行動に移る前、拡声器を持ったサポーターの1人はスタンドに残る人に対し、今回の問題については様々な立場があるため強制ではないとしつつ、賛同できるのであれば協力してほしいと呼びかけていた。

メッセージを掲げていた約10分の間には、株式会社ゼルビア代表取締役の下川浩之氏がグラウンド側からスタンドに歩み寄り、横断幕の掲出について激昂する場面も見られた。

下川氏は去り際、「これから話し合いをしようという時に、アイツらは何をやってるんだ!」と怒りを露わにしていた。

「藤田さんが悪だという考えは変わった」

試合から約1時間後、関係者入口付近ではゼルビアサポーターが集まり、激しい試合を戦った選手に拍手を送る姿があった。

選手たちに対する配慮だろうか、ゼルビアの選手たちを乗せたバスが会場を後にするのを待つようにして、残ったサポーターたちは再び先ほどと同じ一枚の横断幕を掲げていた。

メッセージの掲出にも関わっていた、2人のコアサポーターに今回のクラブ名称変更について聞いた。

このチームはゼルビアという名前で東京都リーグ、一番下のカテゴリから歴史を積み上げてきました。FC町田ゼルビアというのは町クラブで、町田は少年サッカーが盛んな地域なんです。多くのサッカーをする子どもたちの夢が『ゼルビア』なんです。

こう話すのは、ゴール裏のコールリーダーであるトモキさん。サポーターには様々な立場があり、バラバラになってはいけないとしつつも「ゼルビア」の名前は残したいと言葉を強める。

もう一人、ファンミーティングでの質問がネット上でも話題になっていたアユムさんは、クラブ名変更への率直な思いを次のように語る。

ゼルビアの名前をなくすことに納得できる説明がなかったことが残念でした。トウキョウをつけたいっていうビジョンはよくわかったんですけど、なんでゼルビアを消すのか。

これまでの人生でずっとゼルビアを応援してきているので、名前が変わってしまうと、クラブがなくなってしまうのと同じだと思っています。大げさに言えばゼルビアが人生のすべてで、名前が変わると今まで応援していたチームではなくなってしまう。

「犯人は誰?」という強いメッセージを掲げていたが、CAの藤田氏と対立するつもりはないという。

ファンミーティング後に行われた懇談会で、藤田氏と意見交換したというアユムさんは藤田氏から「俺の方が間違っていたかもしれない。アユムの言葉に心が動かされたよ」と言葉をかけられた。

これまでは藤田さんが悪、というように考えてしまっていましたが、直接話して考え方が大きく変わりました。チームを本当に良くしようと思ってくれているんだなと。翌日のブログにもクラブ名にはそれほどこだわっていないと書いていましたが、藤田さんは僕らの気持ちを理解してくれたと思っています。(アユムさん)

「犯人は誰?」のメッセージの背景を調べると、次のようなことがわかった。ゼルビアはクラブチームのFC町田を母体にし、1997年にFC町田ゼルビアに改称したチームだ。一部のサポーターは、クラブフロントの中のFC町田出身の人物が「ゼルビア」の名を消そうとしているというのではないか、と考えており今回の行動につながったようだ。

今後については「ゼルビアの名前を残す方向で、藤田さんと話し合って、お互いが妥協できる着地点が見つかれば最善かなと思います」ということだった。

クラブ名称変更の行方は?

藤田氏はファンミーティングで「人件費を増やして強いチームを作って、ファンを増やして収入を上げて、経営を成り立たせる」ためには町田を拠点に東京全域でのマーケティング展開が求められ、だからこそチーム名に「トウキョウ」を含める必要があると力説していた。その一方で「ゼルビア」を外す理由については、「長い」「覚えにくい」といった以外に具体的な説明はなかった。

この会見を受けて、サッカーファンからは「東京ならどこでも良かったんだろう」「クラブが地域の公共財だと理解していない」「そもそもビジョンの見通しが甘すぎる」といった批判も上がっていた。

クラブ名称から「ゼルビア」を外すという決定は、ゼルビア側の意向が全面的に反映されたものだったのだろうか。そうした事情があり、また藤田氏が言葉通りファンとのつながりを重要視するのであれば、今後の話し合いの中で双方が納得できる落とし所が見つかるのかもしれない。その際には、「東京ならどこでも良い」という批判が的外れだったと言えるだろう。

「FC町田ゼルビア」の今後の推移を見守っていきたい。