「世論は危ない」安倍改造内閣への反応をどう見るべきか~田原総一朗インタビュー - 田原総一朗

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※この記事は2019年09月27日にBLOGOSで公開されたものです

安倍晋三首相は今月、内閣改造と党人事をおこなった。その後に実施された新聞の世論調査で、安倍内閣は高い支持率を示した。外交面で日韓関係の悪化が懸念されるが、田原総一朗さんはどのように見ているのか。話を聞いた。【田野幸伸・亀松太郎】

安倍首相の「イエスマン」ばかりの改造内閣

マスコミが大きく取り上げたのは、小泉進次郎氏の初入閣だ。小泉氏は相当抵抗したようだが、最終的には安倍首相の熱意が上回った。小泉氏を内閣に入れるために実際に動いたのは、菅官房長官。彼が口説き落とした。

たが、今回の内閣改造は、小泉氏の入閣を除けば非常に評判が悪い。新内閣の顔ぶれを見てみると、安倍首相の側近やイエスマンばかり。これまで大臣になれなかった「お友達」を大臣にしたという指摘もある。

特に評判が悪いのは、文部科学大臣になった萩生田光一氏である。彼は内閣官房副長官時代に加計学園の問題でいろいろ発言している。加計学園の大学獣医学部の新設を何としても実現する、官邸の意向だと、文科省に対して強く迫ったという記録が、文科省の文書に残されていた。

内閣改造後に発売された雑誌『AERA』に、こんな記事が載った。
初入閣組でまず注目したいのは、文部科学相の萩生田光一氏(56)だ。ネット上では就任に反発する声も多かった。「報道機関に対し率先して“圧力”“恫喝”を繰り広げてきた人物」「みんなで『やめろ』といわないとダメだよ。日本が終わる」

加計学園の問題がクローズアップされていたときには、国民の多くが批判的な姿勢を示していた。その問題の中心にいた萩生田氏が文科省の大臣になった。安倍首相としては「加計学園の問題はすでに終わっている」と言いたいのだろうが、反発は強い。

萩生田氏のほかにも、官房副長官経験者の加藤勝信氏や西村康稔氏、首相補佐官経験者の衛藤晟一氏など、安倍首相の側近が内閣に入った。今回は、安倍首相として「最後の内閣改造」になる可能性がある。だから、党外や世論の目を気にしないで、好きなように選んだ人事と言えるだろう。

新聞から批判されているが、安倍首相もそれは知っている。しかし、現在の政界は「一強多弱」。野党が弱く、自民党の中もイエスマンばかり。安倍首相に文句が言えない様態で、安倍首相は安心しているのだ。

安倍内閣の支持率は上昇した

だが、新聞の批判とは裏腹に、国民の内閣支持率は悪くない。

たとえば、毎日新聞が内閣改造後に実施した世論調査で、安倍内閣の支持率は50%。前回(6月)よりも10ポイント上がった。一方で「支持しない」は28%。前回の37%から9ポイント下がった。この結果には驚いた。

さらにびっくりしたのは、韓国に対する政府の強硬策を支持する国民が非常に多いことだ。政府が、安全保障に関する物品の輸出管理を優遇するホワイト国から韓国を除外したことについて、「支持する」と答えたのは64%で、「支持しない」の21%を大きく上回った。

現在の日韓関係は戦後最悪で、僕には「これでいいのか」という思いがあるが、国民の多くは、政府の強硬的な政策を支持している。

朝日新聞の世論調査でも同様の結果が出ている。安倍内閣の支持率は48%。前回(7月)の42%から6ポイント上昇した。一方、不支持率は31%で、前回の35%から下がっている。やはり、内閣支持率はむしろ上昇しているのだ。

日韓関係についての質問でも、毎日新聞と似た結果となっている。韓国が好きかどうかという問いに対して、「好き」13%、「嫌い」29%、「どちらでもない」56%という結果だった。

安倍政権の韓国に対する姿勢については、「評価する」が48%で、「評価しない」の29%を上回った。このように、朝日新聞と毎日新聞という安倍内閣に批判的な新聞の世論調査でも、安倍内閣の姿勢を支持する結果が出ている。

僕は「これは危ないな」と思う。実は世論というのは危ないのである。

韓国への強硬策を支持する「世論」に感じる危うさ

いまから30年ほど前、太平洋戦争のときに首相だった東條英機の家を訪ねて、姪御さんにいろいろ話を聞いたことがある。

東條自身は、アメリカと戦争をしても勝てる見込みがないということで、開戦をためらっていた。ところが、世論は「戦争すべき」という声が強かった。東條英機の姪御さんは、1000通以上の手紙を見せてくれた。そこには「意気地なし」「馬鹿野郎、早くやれ」という内容の言葉が書かれていた。

国民の多くが「早く戦争しろ」という意見だった。その背景には、すべての新聞が「戦争をやるべし」と書いていたということもある。我が国には、上からの圧力ではなく、下からの圧力で、戦争に突き進んでいったという歴史がある。

国民の大半が、韓国への強硬策を支持する現在の状況を見て、約30年前のことを思い出した。これは危ない。僕はそう思う。

これまでは、政府が韓国や中国と対立しても、党がそれまでに築いたパイプを使って関係の調整に努めた。今回も、自民党が調整役を果たすことが求められる。特に幹事長の二階氏にその役割を期待したい。