パドレス・ダルビッシュ有【写真:木崎英夫】

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OP戦2度目の登板で4回を1失点4奪三振と好投した

 怪我が飛躍への研究心をかき立てた。

 パドレスのダルビッシュ有投手が、躍動的な新投球フォームで開幕投手に近づいている。オープン戦2度目の登板となった27日(日本時間28日)のガーディアンズ戦で、4回を1失点4奪三振の好投。試合後の会見で、改良への経緯を聞いた。

「近年は、グラブがだんだん高く上がってきてる状態で、右足も折れている状態。なかなか体重移動も上手くいってなかったというのもあったので、オフシーズンにグラブをまず下げることと体重移動の仕方を変えようと思ってやりました」

 咀嚼するのは難しいと言えば難しいが、「右足の折れ」と「体重移動」は立派なヒントだ。この2つを昨季のフォームと重ねると、言葉の意味がわかってくる。

 昨季のダルビッシュは、夏場に痛めた左股関節と腰に張りが出てフォームが定まらず苦しんだ。特に、一連の動作の後半で支点になる左股関節を痛めてしまったのは不運だった。十分な体重移動ができない状態での投球は相当なストレスになっていたはず。それだけに、体幹部から下肢、上肢とのバランスが取れたフォームを作ることがオフの最重要課題になっていた。

 ダルビッシュは、ズームによる講義でイメージを構築していく。

「オフシーズンにズームでピッチングのメカニックスのセッションを6、7回くらい受けました。朝の1時間くらいで、ああだこうだって言って。そうやりながら自分で試行錯誤してやっていきました」

53球中28球がストレート、最速156キロをマークした

 左股関節が癒えたことで、しっかりと蹴った軸足からの体重が乗った左足を蹴る理想のフォームを求め、重ねた試行錯誤から生まれた新型フォーム。右足の蹴りと左足の蹴りがしっかりと見て取れることから迷わずに「躍動的」という表現になった。

 実は、新フォームでいちばん気になっていたのが、投球の一連の動作を締めくくるグラブをはめた左手の動きだった。昨年より体の後ろへよりシャープに引き戻される動きは、先の説明の中にちゃんと答えが隠されていた――。

 体重が乗った軸足から体は並進し、踏み込む左足に体重移動がスムーズになったことで、腰の回転速度が上がる。それに伴い、振る腕にはこれまでよりも強い遠心力が働き、蹴り上げた左足の反動は最後、左手へと伝わって体の後ろへとシャープに引き戻されるという動きを見せる。これは体の回転力の自然な流れが出来上がっている証でもある。

 この日の投球で軸にしたのは、全投球の52%を占めた最速97マイル(約156キロ)のストレート。パドレスのアドバイザーを務める野茂英雄氏もスタンドから熱視線を注ぐ中、質の高い28球を繰り出した新型フォームにも、ダルビッシュは反省点を挙げた。

「球速は出ていますけど、自分の中では、ちょっと(体の)開きが早くなったり骨盤が回るのがちょっと早くなっていた感じがしてたので。そういうところですね。安定感をちゃんと持って長いイニングを投げられるようにしたいと思います」

 ボブ・メルビン監督は昨季にノーヒッターを達成しチームトップの11勝を挙げたジョー・マスグローブとダルビッシュを天秤にかけているが、ここまでオープン戦はともに2度の登板でダルビッシュの安定感はマスグローブを上回っている。発表を「近々に」とする指揮官の決断はまだ先になるのだろうか。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)