この記事をまとめると

■ミラーレスのクルマがいくつか存在

■しかし思ったほど普及が進んでいない

■考えられる理由について解説する

革新的な技術にもかかわらず思ったほど普及せず……

 デザイナーが未来のクルマを描いたスケッチなどを見てみると、あることに気が付くと思います。そう、これまでのクルマには必ずついていた、サイドミラーがついていない、もしくは極小のデザインになっていることが多いのです。

 現実にも、レクサスESをはじめアウディe-tronやホンダのHonda eといった、早々に「ミラーレス」を実現したクルマも存在します。まだ、未来のスケッチのように完全にボディから突起物がなくなるわけではなく、細い棒のようなものがサイドミラーの代わりに装着されていますが、どんどんミラーレス車が増えてきて、技術が進歩していけば、それもなくなるのではないかと予想されていました。

 ところが、思ったよりもミラーレス車は広がらず……。同様に、ルームミラーにカメラの映像を写す液晶ルームミラーも、後方視界の死角を減らしてくれるという革新的な技術であるにもかかわらず、なかなかユーザーには浸透していないように感じます。なぜでしょうか。じつは、さまざまなデメリットがネックとなっているのではないかと考えられています。

 まず、ミラーレス車に初めて乗った人が抱く感想として、意外にも「車幅感覚がつかみにくくて怖い」という人が多いのです。個人差はあるかと思いますが、私たちは無意識のうちにサイドミラーの両端を目安として、車両の幅がどのあたりになるのか、見当をつけていたということです。なので、それが細く小さな棒になると運転席から先端が見えにくく、どこで車幅をつかんでいいのか戸惑ってしまうことに。

慣れないことによるユーザーからの拒否反応も

 また、これは液晶ルームミラーにも言えることですが、運転中になるべく遠くの前方を見る習慣がついている人が、急に近くの液晶画面に視線をうつすと、瞬時に瞳のピントが合わず、よく見えないことが多いと言います。とくに、40代以上で老眼が入ってきている人は、まったく見えないと嫌悪感を示す人が多くなっています。時間帯や向きによっては光の反射の影響が出てしまう場合もあり、逆に、以前のサイドミラーより夜間や雨の日などの視認性がアップするというメリットが謳われているわりには、そんなに違いがわかるほどよく見えるようになっているわけではなく、それなら普通のサイドミラーのほうがいいや、ということになってしまうようです。

 さらに、液晶ルームミラーの場合は、サイドミラーが既存の鏡だった場合に、前方視界はリアル、サイドミラーは鏡、ルームミラーは液晶画面と、3つの異なる視覚を瞬時に切り替えることになるため、より違和感を覚える人が多いようです。また、小さな子供を後席に座らせているような場合は、ルームミラーで子供の様子も確認したいものですが、液晶ルームミラーにするとクルマの後方しか映らないため、車内の様子はまったくわかりません。スイッチやレバーで液晶画面と鏡の切り替えは可能ですが、面倒なので普通の鏡でいいという人もいます。あとは、後続車がトラックやバスなど自車より大きいクルマの場合に、実際には車間距離を適切に空けて停車していても、液晶ミラーだとまるで煽られているかのように接近して映るので、恐怖感を感じる人もいるようです。

 こうした、慣れないことによるユーザーの拒否反応が多いことのほかにも、鏡なら割れない限りは半永久的に使用できますが、デジタルとなると当然、耐久性やトラブルも気になるところ。もし電装系がエラーを起こしたらどうなるのか? 極度の低温下などで結露などのトラブルは大丈夫なのか? もちろんメーカーとしてテストはしていると思いますが、心情的に心配になる人もいることでしょう。

 あとは、コストの問題です。ミラーレスや液晶ルームミラーはオプションで用意されているモデルが多く、新しもの好きな人はつけるかもしれませんが、なかなか高いお金を払ってまでつけたいという人がまだ少ないことも、広がらない理由といえそうです。