全世界独占配信中のNetflixシリーズ『金魚妻』が「Netflixグローバル・トップ10」にランクインした。初動でランクインした日本発ドラマは今作が初めてだ(写真:Netflix

Netflix、Amazon プライム・ビデオ、Huluなど、気づけば世の中にあふれているネット動画配信サービス。時流に乗って利用してみたいけれど、「何を見たらいいかわからない」「配信のオリジナル番組は本当に面白いの?」という読者も多いのではないでしょうか。本記事ではそんな迷える読者のために、テレビ業界に詳しい長谷川朋子氏が「今見るべきネット動画」とその魅力を解説します。

「妻は男がいちばん欲情できない生き物」

世界190カ国で同時独占配信された日本発オリジナル作品がついに「Netflixグローバル・トップ10」にランクインしました。タイトルはNetflixシリーズ『金魚妻』。女優の篠原涼子と三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEメンバーで俳優の岩田剛典が演じるカップルの禁断の恋を中心に、高層マンション「タワマン」に住む妻たちがこぞって肉欲に走る、いわゆる不倫ものです。そして、その描き方は昭和臭が漂う愛憎劇のスタイル。なぜ国内外で受け入れられたのでしょうか。見どころとともに、その理由を解説します。


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人妻たちが欲する甘美な妄想を酔いしれるような映像美でドラマ化した。Netflixシリーズ『金魚妻』からまずはそんな印象を受けます。原作は青年漫画誌「グランドジャンプめちゃ」(集英社)で連載中の黒澤Rによる同名漫画ですが、主要な登場人物の設定を大幅に変えています。物語のヒロインは超セレブな人妻・平賀さくらとし、篠原涼子が演じています。さくらのお相手は古びた小さな金魚屋を営む好青年・豊田春斗に変わり、岩田剛典がその役を全うしています。


女優の篠原涼子(写真左)と三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEメンバーで俳優の岩田剛典が演じる禁断の恋の行方はいかに。ベタな展開が多いが、このドラマのよさは女性目線に徹底した作りにある(写真:Netflix

2人は出会ってすぐ、いとも簡単に恋に落ちます。そもそも不倫を大前提としたドラマですが、さくらが金魚鉢の中で泳ぐ傷ついた金魚のような状態だと思わせる演出は少々大げさで、不貞行為に疑問を与える余地がないほど。冒頭のシーンでさくらの夫・卓弥(安藤政信)が、同じタワマンに住む箱崎ゆり葉(長谷川京子)と情事を交わしながら「妻にした女って男がいちばん欲情できない生き物だよ」と吐き捨てる聞き逃せないせりふから、たかだか数時間の外出でさくらをなじるDVぶりまで、これ見よがしに畳みかけてきます。


岩ちゃんこと岩田剛典が演じる春斗はおとぎ話の王子様のように描かれている(写真:Netflix

浮気とDVを繰り返す夫はわかりやすい悪者として描く一方で、許されぬ関係を結ぶ相手は救世主のような存在です。そこにも疑問を持つとある意味、楽しめません。おとぎ話の王子様的な設定で突き進んでいきます。さらに「実は2人の出会いは……」「実は春斗は……」と明かされていく背景もどれもこれも使い古されたベタすぎる展開。この想像の域を超えない無難さが心地よいとも言え、小難しさが増すドラマトレンドとあえて逆行していることに潔ささえ感じます。

人妻たちが惜しげもなく披露する濡れ場


タワマンに住む妻たちの肉欲が止まらない。主役の篠原涼子(写真右)と長谷川京子がそれぞれ女優魂を見せつける(写真:Netflix

このドラマの話題性はタワマンという人の欲望を象徴するような場所を舞台に、妻たちが惜しげもなく披露する濡れ場にもあります。このシーンのために話が進んでいくようで、あざとさは否めませんが、女性目線のエロチシズムを極めていることには評価できそうです。ゆり葉を演じた長谷川の演技は息を吞むほどです。

岩田演じる春斗の後ろ姿ヌードを映し出した場面に至っても、カメラの捉え方は行為そのものよりも肉体美をいかに魅せるかにこだわっています。もちろん個人差はありますが、女性が男性のどこを静観しているのかがわかるような切り取り方です。


物語のヒロイン(篠原涼子・写真右)は、夫の卓也(安藤政信)の浮気とDVに悩まされる日々。ドラマに登場する男性陣は型どおりの悪者として扱われている(写真:Netflix

一方、このドラマに登場する夫役の男性陣キャラクターの描き方は型どおりの悪者扱いです。エピソード毎のタイトルは篠原演じるさくらの「金魚妻」から始まり、グラビアアイドルの中村静香による「外注妻」のほか、「弁当妻」「伴走妻」「頭痛妻」「改装妻」といった具合に並び、つまり、妻目線の話であることは一目瞭然です。それゆえに、夫に非がある一方的な描き方になっています。

先の安藤演じる浮気DV夫・卓也のみならず、お笑い芸人の藤森慎吾演じるモラハラ夫をはじめ、支配的な言動や愛情の履き違えなど人妻たちを悩ませる夫たちばかり。それが婚外性交の免罪符となるのは短絡的すぎますが、話し合いを避けて物事を穏便に進めがちな日本人女性の特徴を捉えているとも言えます。また、多かれ少なかれ夫たちに不満を持つ日本の妻たちにとって、感情移入できる人物がいそうです。


「弁当妻」のエピソードではお笑い芸人・藤森慎吾がモラハラ夫役を演じている(写真:Netflix

ちょっとしたリアリティーを持たせるなか、女優の松本若菜と俳優の眞島秀和が主役となる「頭痛妻」のエピソードは『世にも奇妙な物語』のようなシュールさとファンタジー感を持ち合わせています。頭痛の正体は一昔前の韓国ドラマのようなオチで、これまたベタながら印象に残ります。今となっては愛憎劇の禁じ手の数々。それを容赦なく詰め込んでいることに脱帽します。

アジア13の国と地域で「トップ10」入り

監督を務めたのは『最高の離婚』(2013年)や『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016年)の演出を手がけたフジテレビ所属の並木道子さんらです。Netflixシリーズ『金魚妻』はフジテレビグループと共同企画・制作したNetflixオリジナルドラマなのです。Netflixが2015年に日本に上陸した当初からフジテレビが共同企画・制作した作品は多く、国内外の一定の層から支持を集めるノウハウは蓄積されていそうです。

実際に「Netflixグローバル・トップ10」が2021年11月から公開され始めて以来、初動でランクインした初のドラマにNetflixシリーズ『金魚妻』が輝きました。2月14日〜20日の1週間の集計で香港やシンガポール、タイなどアジア13の国と地域でトップ10入りし、非英語シリーズの中で7位を獲得しました。英語シリーズを合わせたトップ20の中では12位。十分健闘しました。最新の集計(2月21日〜27日)でもランクインし、ナイジェリアでトップ10入りするなど、アジア地域以外にも広がっています。


婚外恋愛を意味する「外注妻」のエピソードに登場するグラビアアイドルの中村静香(写真:Netflix

同週の「Netflixグローバル・トップ10」にはイタリア発Netflixシリーズで不倫をテーマにした『忠実と背信』のほか、南米で人気の「テレノベラ」と呼ばれる愛憎劇作品も並びます。世界的に人気ドラマの条件に女性の「エンパワーメント」がテーマに含まれていることが多く、ご多分に漏れず、『金魚妻』もその要素を取り入れています。新作発表会「Netflix Japan Festival 2021」(2021年11月開催)に登壇した並木監督は「不倫だからといって男性に依存するわけでなく、自立しようとする姿を描いています」と見どころを話していました。

最終話に向かうほど、篠原のさくら役の余裕がある言動が見せ場となっていきます。ドラマは全体的に体に傷を負った不幸設定から、わざとらしいせりふ、強引な偶然が重なるストーリーに至るまで、やはり浅はかさが目立つわけですが、観る側も余裕を持ちながらたしなむと面白さに気づくはずです。

(長谷川 朋子 : コラムニスト)