アーダーン政権の閣僚たちも個性派揃いで、なかでも目立っているのが、マオリ族の下顎タトゥーを施したナナイア・マフタ外務大臣だ。彼女は、1996年に先住民の女性議員として当選し、2016年に下顎タトゥーを施し、同国で初めてタトゥーを施した女性議員となった。彼女の外相抜擢は、マオリの文化をアピールするニュージーランドのイメージを世界により強烈に印象付けていくことになるだろう。

一方、日本との関わりで思い起こされるのが、2019年のラグビーワールドカップだ。ニュージーランド代表であるオールブラックスは、試合前に伝統的な戦いの踊り「ハカ」を行うことで人気が高い。タトゥーを施している選手もいるが、ワールドラグビーは「タトゥー を隠すように」と促したという。この件は世界的には「やり過ぎ」ではないかと疑問視されたが、ワールドラグビーの対応は開催国である日本の事情に配慮したものとも言える。

2013年、オリンピックの東京招聘が決まった直後のタイミングで、マオリ族の女性エラナ・テ・ヘアタ・ブリューワートンさんが下顎タトゥーを理由に、北海道で温泉の入浴を拒否されるという事件が起こった。彼女は先住民族の言語に関する学術会議に出席するために来日していた。誰が見ても暴力団関係者のはずもないマオリ族の女性に対する柔軟性のない対応に世界中が呆れかえった。

タトゥーカルチャーの先進国ニュージーランドと比較すると、日本のタトゥーに対する偏見の根強さが透けて見えてしまう。タトゥーに対する好き嫌いはそれぞれあるとしても、世界の文化の多様性に対して、もうちょっと寛容になれないものかと思うのは筆者だけではないだろう。

■文化面と学術面、双方の盛り上がり。タトゥーカルチャーの最前線

ここでニュージーランドのタトゥー事情について、もうちょっと踏み込んでおきたい。

ニュージーランドは人口約500万人の島国で、ポリネシア文化圏に属している。ポリネシアとは、ハワイ諸島、イースター島、ニュージーランドを頂点とする三角形のエリアを指し、サモア、タヒチを含んでいる(*3)。

ポリネシア文化に共通する特徴として民族的な文様タトゥーがあり、近年のポリネシア文化復興において、タトゥー文化が重視されるのは、ニュージーランドだけに限ったことではない。タトゥーの技法や文様は地域によって違いがあり、彫られる部位は主に、サモアは腰から膝にかけて、タヒチは臀部、マルケサスとラバヌイ(イースター島)は全身、マオリは顔(女性は唇と顎)であった。技法と文様をそのまま残したサモア以外では、植民地化とキリスト教化を受け、ほとんどの島でタトゥーは彫られなくなっていた(*4)。