UoC UNIVERSITY of CREATIVITY 共同編集長の近藤ヒデノリ(Hide)と平井美紗(Misa)がお届けするInterFMの番組「UoC Mandala Radio」。クリエイターに“ワクワクする社会創造の「種」を聞く”というテーマで、毎回さまざまな領域で社会創造をおこなっているゲストを招き、未来に向けた創造やアクションについて語らいます。2月 16日(水)の放送では、ダンサーの田中泯(たなか・みん)さんが登場。田中さんの活動に密着したドキュメンタリー映画の感想をHideとMisaが語りました。

(左から)Hide、田中泯さん、Misa


田中泯さんは、クラシックバレエとモダンダンスを学び、1978年にパリで開催された「日本の時空間―間(ま)―」で海外デビュー。映画「たそがれ清兵衛」でスクリーンデビューを果たしてからは、「アルキメデスの大戦」やNHK大河ドラマ「龍馬伝」「鎌倉殿の13人」など、さまざまな作品で活躍しているダンサーです。

◆2週に渡って田中泯の活動に注目

Hide:プライベートでは40歳から山梨で自給自足の生活を送っており、そこで培われた身体を使い、76歳になった今でも各地で踊っていらっしゃいます。

Misa:ダンサーとして世界中で表現をおこなってきた田中泯さんですが、Hideさんがとてもお会いしたかった方の1人だそうですね?

Hide:10年ほど前に何度かお会いして、そのときに感じた強烈な印象が今でも忘れられないんですよ。今回の対談をすごく楽しみにしていました。UoCにお迎えし、じっくりとお話をお聞きましたので、今週と来週、2週に渡ってオンエアをお届けします。

◆映画「名付けようのない踊り」に出演

Misa:ダンサーの田中泯さんをゲストにお迎えしました。よろしくお願いします!

田中:よろしくお願いします。

Hide:現在公開中の映画「名付けようのない踊り」のお話をお聞かせください。田中さんの2017年8月から2019年11月までの活動に密着した映画でして、世界各地で踊られた様子や、子ども時代から現在に至るまでの田中さんを、映像や記録を通して知ることができました。

映画を観ながらいろんな考えが浮かんできました。映画のインタビューでは、ポルトガルのアートフェスティバルに犬童一心(いぬどう・いっしん)監督を誘い、そこでビデオを回したのが始まりだったとお聞きしました。

田中:僕は踊りを踊る人なんですけども、50年ぐらい前から写真として記録することに対して不思議な感じがして、「何を映しているのかな? 踊りとどう関係するんだろうか」って思っていたんですね。

写真にするとたしかに綺麗だし、場合によっては自分がよく映っているんですけども、それに首をかしげちゃう人だったんです。いまだにそうなんですけども(笑)、写真はおおよそ捏造に近い行為に思えてしまうんです。映しているものは、絶対に“そのまま”ではないわけですよ。

自分が踊りをやりたいと思ったのは、テレビが出始めた13、14歳ぐらいの頃なんですけど、テレビに映ったロシアの舞踊団を観て「これはすごいぞ」と感じたからなんですね。そこからしばらくしてから踊りを習い始めて、ビデオテープが出てきて早速録るようになったんです。

だけど当時は、録画した映像を観ても「踊りが全然映っていない」と(感じていました)。踊っているときに私の体、あるいは私の脳に押し寄せてくるもの、感じ取っているものはどこにあるんだろうと感じたんです。今、踊りと言われたらおそらく「動く者」と「それを見せられる者」で留まっている人が多いと思うんですね。

Hide:たしかに。普通は(踊りに対して)そういうイメージを持ってしまいますね。

田中:それ(目で見ること)で「あいつはうまいぞ」と判断しているというか。目で確かめられるってことが、今の踊りでは一番大切な要素なのかもしれないですが、僕はそういうものとは違うものをいつも感じていて、その思いが自分の踊りに表れるわけです。だけど、ビデオで撮った映像では自分の表現したいものがちっとも映っていないんですよ。踊りの型だけが動いている。

Hide:「映像に魂が入っていない」と感じられたんですね。

田中:そうです。(そういう背景があって映像というものを)ものすごく疑っていたんですが、映画「たそがれ清兵衛」に出たときに「待てよ」と思えたんですね。踊っているとき、僕はいろんな感覚に襲われているんですけども、あれと近いものが「たそがれ清兵衛」の映像には見えたんですよ。

Hide:映画の映像を観たときに、踊っているときの自分を感じることができたんですね。

田中:はい。すごくびっくりしました。デジタルになった今の時代でも、僕は映像から踊りを感じることができます。

◆己を見つめ直すきっかけを与えてくれる映画

Hide:映画は、泯さんの踊りを見てきた犬童監督が編集をして制作されたものですよね。泯さんの体、生活の風景、子ども時代をアニメにした映像作品など、いろんなものが映画のなかに詰まっているので、「泯さんは何を感じながら踊っているんだろう」というのを体験している感覚になれました。

田中:物事を目撃した人がそのままの形で出しても、僕は「既に終わっている(もの)」として捉えてしまうんですよね。

Hide:中身が入っていないというか、周りが映されていないということですか?

田中:そうですね。映像を再生するなかでいろんな工夫をするっていうのは、すごく大事なことだと思います。

Misa:私も映画を観させていただいたのですが、自宅に帰ってからしばらく作品のことを考えていたら、涙が止まんなくなったんですよ。

田中:おお。

Misa:13歳ぐらいの自分に、声をかけてもらえたような感覚になったんです。自分の話になってしまうのですが、私が中学生のとき、母が亡くなったんですね。そのときの苦しみとか悲しみは言葉にすることができなくって、絵という形でしか表現することができなかったんです。

3、4年ぐらいちゃんと眠れなくて、ずっと描き続けていたんですよ。その経験があって今の自分があるんですけども、映画を観ていたら当時の自分を思い出してしまって、涙が止まらなくなりました。

子どものときに感じた強い衝撃とか抑えきれないものを、泯さんの映画で思い出してしまったというか、今もその感覚を保ち続けているような気がしたんです。「自分の姿、形は今の状態でいいのか」を考えさせられるきっかけとなりました。

田中:考えられるっていうのは幸せなことだと思いますよ。“個性的であれ”とか“孤独はだめ”とか今の社会は言っていますけども、そうした人気の言葉にみんなが乗せられているのを見ると「自意識とか自我とはどういうものですか?」って聞いてみたくなるのね。

本来、みんなはそれぞれピュアな自意識を持っているんですよ。だけど社会はでこぼこしているにも関わらず、「平等だ」と平らにしようとする流れによって、自我や自意識が“味付け”させられちゃっているんですよね。昔と比べて、酷い自意識の人が増えていると感じます。

◆畑仕事をしていると感覚が鋭敏になる?

Hide:踊っているときって、感覚が一番研ぎ澄まされている状態だと思うんですけども、感覚ってたまになまるときもあると思うんですよ。感覚を鋭敏に保つ上でしていることって、何かあるのでしょうか。

田中:それはひょっとしたら、野良仕事かもしれません。雲の動きに鈍感だったら畑仕事はできないので。

Hide:たしかに。

田中:光の変化を意識していないとだめだし、土の水気にも注意しないといけませんからね。そういった意味で、自分のことよりも周りで起きていることに対して意識が動かないと……。

Hide:作物を育てることができない、と。

田中:そうなんです。

*   *   *

次回2月23日(水・祝)の放送は、引き続きダンサーの田中泯さんをゲストにお迎えしてお届けします。

番組でお届けしたトークは音声サービス「AuDee」 https://audee.jp/program/show/100000316と「Spotify」 https://open.spotify.com/show/6biaO40gUuf4gbI2QhdTsL?si=C2-xOifkQz230V6X514UlAでも配信中。

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聴取期限 2021年2月24日(木)AM 4:59 まで
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<番組概要>
番組名:UoC Mandala Radio
配信日時:毎週水曜23:00〜23:30
パーソナリティ: 近藤ヒデノリ(Hide)、平井美紗(Misa)
番組Webサイト:https://www.interfm.co.jp/mandala