恋愛に慣れていない者同士の婚活。お互いの距離をどう縮めるかが大事になってくるようです(写真:kouta/PIXTA)

結婚相談所でのお見合いでは、それまでまったく知らなかった男女が、プロフィールの情報を見てお見合いし、好印象を抱けば交際に入る。その交際は当然のことながら、結婚が前提だ。そのときにうまく相手との距離を縮められるかどうかが、結婚に繋がるか繋がらないかの大きな別れ目となる。恋愛に慣れていない者同士だと、距離の縮め方もわからないし、手探りだし、とても難しい。

仲人として婚活現場に関わる筆者が、婚活者に焦点を当てて、苦労や成功体験をリアルな声と共にお届けしていく連載。今回は、婚活に苦戦する35歳男性の姿を追いながら、恋愛初心者男女の距離の縮め方を考えたい。

私の相談室で婚活を始めて4カ月のあきお(仮名、35歳)。有名大学を卒業しており、大手メーカーに勤務していて、年収もいい。見た目も細身のハンサム。登録をすれば、お見合いが組めるタイプだった。ただ、彼に欠けていたのは、恋愛経験の数だった。

大学時代に一度、恋愛らしきものを経験したことはあったが、深い仲にならないまま自然消滅した。社会に出てからは恋愛とは無縁。30歳を過ぎて結婚を意識し、大手相談所で婚活して結婚したのだが、その結婚生活は1カ月経つか経たないかで破綻した。

結婚に失敗した、あきおの新たな挑戦

とはいえ、男女の仲は相性だ。あきおは結婚を諦めたくなくて、再度、婚活にチャレンジしたいと、私を訪ねてきた。


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婚活をスタートさせると、経歴も見た目も良かったので、お見合いはすぐに組めた。

しかし、交際に入って1度か2度デートすると、あきおから断ったり、相手女性からお断りが入ったりで、結婚につながる相手になかなか出会えないでいた。

苦戦続きだったが、2カ月を過ぎたころ、交際に入ったゆい(30歳、仮名)に手応えを感じていたようだった。

あるとき、あきおからこんな連絡が入った。

「お付き合いに入ってから、もう4回ほど会いました。お見合いを入れたら5回です。僕としてはとてもよい感触なので、ゆいさんの相談室に彼女の気持ちが今どんな感じなのか、聞いていただけないでしょうか」

仲人型の結婚相談所は、こうやってお互いの気持ちを仲人を通じて聞くことができる。どちらかが独りよがりにならずに交際を進めていけるのがメリットだ。

あきおの依頼を受け、ゆいの相談室の仲人に「こちらは前向きにお付き合いを進めたいと考えているようですが、女性様はいかがでしょうか?」と連絡を入れてみた。

すると、ゆいの仲人からこんな返事が来た。

「面談をしたところ、こちらも交際には前向きです。『あきおさんは、学生時代で例えるならクラスのリーダー的存在で、キラキラしたタイプ。私は、休み時間になると窓際でひっそりと本を読んでいるような目立たないタイプなので、そんな私を気に入ってくださっているなんてうれしいです』と、喜んでいました」

あきおとゆいはこのまま成婚となるか…

これを伝えると、あきおはさらにこの交際に前向きになったようだった。「ありがとうございます。いい形で結婚まで進んでいけるように頑張ります」。私は、このまま2人が真剣交際へと進み、成婚に向かっていくと、この時点では信じて疑わなかった。

数日後。またあきおから連絡が入った。

「今度の週末、2人で遠出します。お昼を食べた後、近くに景色のきれいな公園があるようなので、そこを散歩しようと思っています。そのときに手を繋ぎたいのですが、大丈夫でしょうか。まだ手を繋ぐのは早いですか? それとなくゆいさんの相談室に聞いていただけないでしょうか」

あきおは交際の進め方がとても慎重だった。彼をそこまで慎重にさせていたのは、1度目の結婚の失敗があったからで、そのときと同じ轍を踏みたくなかったからだ。

あきおは元妻のさとみ(29歳、仮名)とも結婚相談所で出会った。しかし、結婚したものの、1カ月もしないうちに離婚。入会面談のときに離婚理由を聞くと、あきおは言った。

「結婚して、同じ家で生活が始まったものの、体に指1本触れさせてもらえなかったんです。そして、1カ月もしないうちに実家に帰ってしまった。その後は彼女はいっさい出てこず、お義父さんが、彼女のサインと判が押された離婚届を持ってきました」

離婚理由は、“生活習慣が違いすぎる““時間の使い方が合わない“というものだった。

それまで違った環境でお互いに暮らしてきたのだから、生活習慣や時間の使い方が違うのは当たり前のことだ。それが本当の離婚理由なのか。私は、それは後付けの理由で、それよりなぜ体に指1本触れさせなかったのか、そこが気になった。

私は、あきおに「お付き合いしていたときに、手を繋いだり、ハグしたりはしなかったの?」と聞くと、あきおはこう答えた。「手は繋いだけれど、それ以上のことはしなかったです」。

プロポーズの夜の話もまた奇妙だった。

あきおは思い出に残るドラマチックな演出をしようと、まずはアミューズメント施設をさとみと一緒に訪れた。そこは、テレビなどでも紹介されるプロポーズのメッカ。そこでプロポーズをし、その後は近くのホテルに移り、初めての夜を2人で過ごすことを計画していた。

親に泊まるって言っていないから「帰るね」

プロポーズは無事、受けてもらえた。そして、ホテルの部屋を取ってあることを告げると、さとみは言った。「今夜泊まるって親に言ってないから、夜は帰るね」。

30歳近い娘が結婚相談所で婚活し、プロポーズをされた。その夜に夫になる男性と外泊するのをとがめる親は、まずいないだろう。

「僕がご両親に許可をもらおうか」とあきおは言ってみたが、「今夜は帰る」と、さとみは譲らなかった。

ホテルの部屋では抱き合ったものの、服を脱がそうと手をかけると、それもかたくなに拒否された。無理やり脱がせることもできず、なんとも肩透かしを食らったような気持ちになった。

それでも結婚話はそのまま進んでいき、両家の顔合わせを終え、2人で住む家も決まり、入籍を済ませて、新婚生活がスタートした。ところが、結婚してからもまったく男女の関係がない。あきおは、夜になると雰囲気作りをしてそれとなく誘ってみるのだが、そのたびに拒否された。

その1カ月後にさとみが実家に帰り、二度とあきおの前に姿を表すことはなかった。義父がすでに元妻のサイン済みの離婚届を持ってきて、そこにあきおがサインし、離婚が成立した。

成婚退会したものの、男女の関係にならずに破綻したカップルは、私の知る限り、あきおだけではない。

元女性会員(41歳)が成婚退会をした後に、相手の男性(48歳)と2泊3日の温泉旅行に出かけた。ところが、夜になると男性は1人で布団に入ってさっさと寝てしまう。1日目は朝も早かったし疲れているのだろうと思っていたが、2日目の夜も何もなかった。

さすがにこれはおかしいだろうと、帰りの車内で彼女が切り出した。「なんでエッチをしなかったの?」。

すると、男性は涼しい顔で言った。「えっ、キミは子どもはいらないって言っていたじゃないか。する必要はないでしょ」。

「それって子どもを作るためだけにするのではなく、夫婦のコミュニケーションでしょう?」

「それだと話は変わってくるな。僕は、キミが子どもはいらないというから、キミとの結婚を選んだんだ」

この旅行の後、2人で話し合った結果、このカップルは結婚せずに婚約破棄をした。

もう1人の男性会員(39歳)は、35歳女性と結婚した。付き合っているうちは手を繋いだり、ハグをしたりしていたそうだが、入籍して一緒に暮らしてみると、彼女は彼が体に触れることを頑なに拒否した。

彼は、当時のことをこんなふうに言っていた。

「食事以外の時間は自分の部屋にこもってしまうんです。断りもなくドアを開けようものなら、激怒する。同居が始まった日から寝る部屋は別々でした」

このカップルは、男性から離婚を切り出した。ところが女性は「離婚はしたくない」の一点張り。女性の実家を巻き込み、男性が女性の両親に現状をすべて話したところ、親が「それは娘が悪い。(あなたが)気の毒だ」と、娘を親が引き取る形で離婚が成立した。

男女の関係になったら、成婚とみなす

生活圏内での出会いなら付き合っている時間も長いし、キスしたり、ハグしたり、男女の関係になったり。そうしたコミュニケーションの先に結婚がある。

ところが、結婚相談所には“男女の関係になったら、成婚とみなす“という規約があり、それを忠実に守っていると、男女の関係にならないまま婚約することになる。

「そういうこともしてみないと、男女の相性はわからないだろう」という人もいる。確かにそれは一理ある。しかし、それを許してしまうと、結婚相談所が異性を口説く人たちの遊び場になってしまう。

実際、その縛りがない婚活アプリなどでは、会ったその日に男性が女性をホテルに誘い、男女の関係になったりしている。一方は夢中になっていたのに、一方は遊びで、スーッと姿を消され、心に傷を負ってしまったということも起きている。

相談所にしろ、アプリにしろ、異性をどう見極めていくのかは自己責任。相手を見極める目が大切なのだろう。

話をあきおとゆいに戻そう。

あきおは、1度目の結婚の失敗から同じ失敗は繰り返したくなかった。ふれあいや男女関係になることをスムーズに受け入れてくれるかどうかが、ゆいと付き合っていくうえで、とても気になっていた。そこで私に、ゆいとのデートで手が繋げるかどうか、相談室に聞いてほしいと聞いてきたのだろう。

ゆいの相談室にこの連絡を入れると、後日、仲人からこんな返信がきた。「こちらは、スキンシップは大丈夫だと言っております」。

そのことを伝えると、あきおはほっとしたようだった。そして、この手繋ぎデートを機に、あきおとゆいは真剣交際に入った。

しかし、そこから数日後。面談を申し入れてきたあきおの顔が浮かなかった。「ゆいさんは、僕が思い描いていた人と違うかもしれません」。

「どう違うの?」

「ゆいさんは、どちらかというとクールでさっぱりした性格なんです」

「その性格では、いけないの?」

「いや、いけないというか、なんというか」

なんとも歯切れが悪かった。そして、よくよく話を聞いてみると、ある日のデートを境に、気持ちがスーッと引いてしまったようだ。

「僕の家に来る?」を断ったゆい

その日、あきおは自分の地元でのデートを提案した。よく行くスーパー、ドラッグストアを案内し、「この後、僕の家に寄っていかない?」と誘ってみた、ところが、ゆいはそれをやんわりと拒否した。

おそらく、そこに元妻のプロポーズの後にホテルを取ったのに、帰られてしまったのと同じ肩透かし感を覚えたのだろう。

また、あきおが「結婚したらいつもイチャイチャしたり、毎晩のようにエッチしたりするのは、すごく大事な夫婦のコミュニケーションだと思っているのだけれど、どう思う?」と聞いたときに、ゆいはそれに対しての答えが曖昧だった。

ただ、これはゆいが恋愛初心者だったとしたら、「私もイチャイチャするのは好き」「毎晩でもエッチしたい」と、恥ずかしくて言えなかったのではないか。

あきおも恋愛経験がないからこそ、言い方が直接的になってしまった。そこにゆいは曖昧な答えを返してしまった。そして、このボタンのかけ違いが交際終了につながった。

恋愛経験がないままに年を重ねてしまうと、どこかで恋愛をこじらせてしまう。婚活で、2人の距離を縮めて結婚にたどり着くのは、本当に難しい。ただ、距離を縮めることができるか、できないかも、男女の相性なのかもしれない。そして、それがご縁なのかもしれない。

(鎌田 れい : 仲人・ライター)