Art Gallery M84は、2022年4月4日(月)より左目がほとんど見えない視界を表現した豊吉 雅昭写真展『MONOCLE VISION』を開催する。

■不安や驚きなどの心理的な要素を加え作品にした初の個展
今回の作品展は、Art Gallery M84の第115回目の展示として実施する個展。東京2020パラリンピック閉会式の最後に名曲「What a Wonderful World」を弾いたピアニスト西川悟平氏の『NY音楽活動20周年記念アルバムCD/DVD』ジャケット写真を撮影した写真家 豊吉 雅昭。彼は、緑内障による視野欠損が進み、左目の大半の視野を消失。この作品は、晴眼者には見えていない、彼が見ている視界、左目がほとんど見えない日常を捉えている。

日常の中で、横断歩道を渡る時に信号は見えない。「一体どこに信号があるのか?」「今は渡って大丈夫か?」これらの不安を恒常的に感じる人は晴眼者には少ないのではないだろうか。こういった点を写真作品として構成し、更には不安や驚きなどの心理的な要素を加え作品にした初の個展になる。作品約 25点を展示予定。

■「見えない視界」を表現する作品群
モノクル(MONOCLE /片眼鏡)は、ヨーロッパの上流階級の間で19世紀末頃に流行し、鼻眼鏡より以前に視力補正器具として使用され、装着している方の眼で遠くを、裸眼の眼で近くをカバーすることにより遠近両方見えるというものでした。しかし左右の眼で見え方が異なる為、遠近感や晴明感に欠け、その視界は不明瞭だったそうです。

そして彼の眼ですが、緑内障の進行と共に視野の消失点が広がっており、現在では左眼の大半の視野を失っています。右は見えるけど、左は見えない。まるでモノクルをかけた状態のようです。彼は、この「見えない視界」を表現する作品群を『MONOCLE VISION』と名付けたシリーズを制作して、初の個展を開催する運びとなりました。
Art Gallery M84オーナー 橋本 正則

※作品展の会場にて、写真冊子『MONOCLE VISION』の販売も行います。また、4月9日(土)16:00〜18:00に、作品展の会場にて、ピアニスト 西川悟平氏と写真家 豊吉雅昭氏のギャラリートークを予定しております。(先着15名、ギャラリートーク実施中は入場制限を致します。実施は、感染状況により判断します。)

■作家からの一言
コンピュータが好きで、これからの社会はIT無くしては成立せず、また社会インフラとしての重要性も高まってくる中でのシステムエンジニアの仕事は充実しており、技術者として上を目指すことに迷いはありませんでした。そんな折に緑内障を発症します。罹患当初、仕事を優先して点眼などの治療を怠ることが多く、これが進行を早める事になりました。天職と捉えていた仕事を辞め、運転免許も返納し、付き合っていた女性とも別れ、この時のことは今でも悔やみきれません。

「見えなくなる前に見えるものを残したい」そんなやけっぱちとも取れる思いから写真に傾倒するようになります。写真家の所幸則氏に師事を仰ぎますが、ファインダー内の像はよく見えず、撮る写真は水平垂直が歪んだものばかり。また認識できない色もあったので、何を撮るか右往左往する日々。そして緑内障の進行は止まらず、「もうこのまま見えなくなり続けるんだ」そう思い込んだ私は、全てに絶望し、ベッドから出ない生活をしていました。

私を救ったきっかけが、たまたま見たTV番組。神経系の難病ジストニアに罹患し、「2度とピアノを弾くことはできない」そう医者に告げられた後、絶望の中で7年もかけて地道なリハビリを繰り返し、動くようになった7本の指で演奏活動を再開。NYにある有名なカーネギーホールでのコンサートを皮切りに再び世界中で演奏を行うようになった日本人 ピアニスト西川悟平氏。その彼に興味を持った私は、引きこもりをやめ、カメラを携えてコンサートに行くようになり、再び写真に取り組むようになりました。彼は長年の夢である2021年8月に開催された東京パラリンピックの閉会式でトリを務め、ルイ・アームストロングの名曲「What a wonderful world」を演奏しました。