写真:ベルベHPトップページより、最終閲覧日:2021年12月3日

パンの製造小売業界で過去最大の倒産となったベーカリーチェーン・ベルベ。「パン工房ベルベ」「ブーランジェリーベルベ」の名称で大手町やお台場など首都圏に28店舗を構え、近年も積極的に出店攻勢をかけていた同社だが、11月9日に突然の全店舗閉店と倒産を発表した。

突然の閉店を惜しむ同社のファンの声も聞かれる一方、同社の従業員への給与未払いや取引先への代金未払い、銀行への借金の未返済などがあり、利害関係者への早急な説明が求められている。しかし、同社の社長の所在は現在わからなくなっており、問題解決には時間を要する見込みだ。

創業48年、順風満帆にも見えた人気ベーカリーにいったい何があったのか。倒産や企業再生を専門に20年以上にわたり取材・執筆を行なう帝国データバンクの内藤修氏がレポートします。

手作り製法・地産地消で人気に


全店閉店のお知らせが貼られた横浜市内の店舗(写真:筆者撮影)

ベルベの創業は1973年。創業者でもある社長が製パン大手の工場勤務を経て、横浜発祥の新興ベーカリー(当時)で総務課長に従事した後、8年の業界経験をもとに独立した。その後、社長は地元商工会議所の常議員を務めるなどして事業基盤を固め、従業員教育にも長年力を入れていた。

創業以来、「手作り製法にこだわり妥協しない」をモットーに、「1店舗・1工房」の体制で手間暇をかけたパンを特徴としていた。高級フランスパン・クロワッサンなどの調理パン、各種ケーキのほか、人気商品「ふみおおじさんのこんがりラスク」などの焼き菓子を販売。なかでも「スイートポテト」は主力商品のひとつだった。地産地消のコンセプトで、地元のサツマイモ「ベニアズマ」を使用した季節限定商品は人気を集めた。

毎年のように新規出店し、一定額の月商を下回る店舗は順次閉店。賃料、面積でより条件の良いテナントへの移転を進めるなど、積極的なスクラップアンドビルドを繰り返し、安定した収益を確保。コロナ禍の影響が出た2020年6月期の年売上高も過去最高となる約25億6000万円(会社公表値)を計上するなど、県内上位クラスの売上高を誇った。

2021年9月18日にオープンした静岡・裾野店では、パンを買い求める人々が列をなし、駐車場も満杯の盛況ぶりだったという。消費者、取引先、金融機関などからは直前まで、コロナ禍をものともせず積極的に拡大基調を続ける「優良企業」と見られていた。

社長が突然の失踪

しかし、2021年10月下旬に借入金の返済遅延、複数の取引先に対する支払遅延が判明。そして11月2日、事態が急変した。前日まで連絡の取れていた社長が書き置きを残して失踪し、家族も会社関係者も誰も行方がわからなくなったのだ。残された専務取締役らが中心となり社外対応に当たっていたが、それまで経理面にタッチしていなかったこともあり、状況は刻一刻と悪化していった。

後に分かったことだが、社長は10月末、東京の弁護士事務所を訪問していた。ベルベの今後について相談するためだが、この時点では破産ではなく、営業継続を前提とする民事再生を検討していたという。しかし直後に社長が姿をくらまし、再生計画自体を早期に立てることができず、事業継続が困難な状況に追い込まれていった。

それでも、11月5日に筆者が取材した段階では、取引先からスポンサー支援の紹介案件がベルベの元に複数持ち込まれるなど、存続の道は残されていたかのように見えた。だが、前述のように10月下旬からすでに資金ショートを起こしており、具体的に話を進めるには時間がなさすぎた。


(写真:筆者撮影)

週明け月曜の11月8日夕刻、1枚のFAXが取引先各社に届いた。

「都合により本日をもって、ベルベ全店の営業を終了させて頂くことに致しました」―。

8日当日も午前中まで通常通り営業を続け、ピーク時400名を超えた従業員にも直前まで倒産の事実は知らされなかったという。

そして明くる11月9日、自己破産申請の準備に入ったことを発表した。

11月15日、事後処理を一任された弁護士から債権者宛てに届いた書面は、関係者に大きな衝撃を与えた。その書面には、ベルベは「現段階では約52億円の負債」を抱えているというのだ。直前まで「優良企業」だったはずの会社が突然倒産したうえ、関係先に提出していた決算書の負債額(2020年6月末時点で約10億円)とはあまりにかけ離れていたからだ。

明らかになっている直近の決算から1年以上のタイムラグがあるとは言え、同社の規模で1年間に40億円もの借金をすることは考えにくく、しようものならより早い段階で信用不安が取り沙汰されていただろう。

実際、代理人弁護士に取材したところ、「倒産発表後、融資元として把握していなかった金融機関から借入金の返済について問い合わせがあり、当初把握していた負債総額よりも膨らんでいる」という。つまり、決算書に計上されていない借金を抱えていたものとみられる。詳細は弁護士による債権・債務の調査結果を待つほかないが、「関係先ごとに複数の決算書を提出していたようだ。問題のある融資先との認識もなく見破れなかった」(取引金融機関)。

そして、倒産後の追加取材で明らかになったことだが、今年の春先から夏頃にかけて、店舗の賃料など取引先に対する支払いぶりが一部で悪化していた。こうした予兆を察知してか、5月時点で融資金の回収にいち早く動いた取引銀行もあったようだ。

借金の「使途」解明が急務

ベーカリーチェーンの倒産としては過去最大となる50億円超に膨らんだ負債額についても、疑問の声が上がっている。負債の大半は金融機関からの借入金と見られ、店舗のスクラップアンドビルドを繰り返すなかで債務が増加した可能性が高い。とはいえ、「金額が大きすぎる。借入金の使途について今後詳しい調査が必要だろう」(取引先)。

経営面全般を掌握していた社長が不在の今、真相はやぶの中だが、「身の丈を超えた出店戦略」が災いしたといえる。最後は、新型コロナウイルスの感染拡大と原材料高という「外部環境の急変」がとどめを刺した。多くのファンに愛された“優良ベーカリーチェーン”は、こうして事業継続の道を絶たれた。