Netflixで2020年9月から配信されているフランス映画「キューティーズ!」は、配信前にNetflixが公開した宣伝ポスターが「未成年の子どもを過度に性的に描いている」として炎上し、ポスター制作に携わっていない監督や演者が誹謗中傷されるといった事態に発展しました。そんな炎上騒動に対し、Netflixは「Netflix内の検索結果に『キューティーズ!』が表示されにくくする」という対策を講じていたと海外メディアのThe Vergeは報じています。

Netflix scrambled internally to suppress a controversial movie from search results - The Verge

https://www.theverge.com/2021/10/26/22747488/netflix-suppress-cuties-algorithm-search-results-dave-chappelle

「キューティーズ!」はセネガル系フランス人のマイムナ・ドゥクレ監督の初長編映画であり、保守的な家庭に育った11歳の主人公が学校の女子生徒たちで結成されたダンスグループに引かれ、家族の伝統に逆らっていくという内容です。主人公たちが踊るのは腰を低く落として音楽に合わせてお尻を動かすトゥワークというダンスで、少女たちを性的に描く「セクシャライゼーション」の問題にも踏み込んであったことから、同作はアメリカで開催されたサンダンス映画祭で高い評価を得ました。

「キューティーズ!」の予告編はYouTubeで見ることができます。

Cuties | Official Trailer | Netflix - YouTube

2020年8月19日にフランスの映画館で公開された「キューティーズ!」は、9月9日からNetflixで配信される予定となっていました。ところが、Netflixでの配信に先だって8月18日に公開されたポスターが、「少女を性的に描いている」として大きな非難を浴びてしまいました。

以下の画像の左側がフランスでの劇場公開で使われたオリジナルのポスターで、右側がNetflixのポスターです。オリジナルのポスターではカラフルなショッピングバッグを持った子どもたちがはしゃぐ姿が描かれていますが、Netflixのポスターは体にぴったり沿った衣装を着て挑発的なポーズを取っている姿が描かれています。



by Deadline

Netflixのポスターが公開されると共に、保守派のコメンテーターが児童の性的搾取ではないかと批判の声を上げ、SNSを中心に大きな反発が巻き起こりました。Twitterでは「#CancelNetflix」というハッシュタグを使った抗議活動が行われたほか、QAnonの陰謀論者は「Netflixが児童ポルノを配布している」と主張して炎上を煽ったとのこと。

また、オンライン署名サイトのChange.orgでは映画の削除を求める請願書に4万を超える署名が集まり、テキサス州下院議員のマット・シェーファー氏はテキサス州司法長官のケン・パクストン氏に対し、「キューティーズ!」が児童搾取および児童ポルノ法に違反している可能性を調査するように要請しました。



The Vergeが入手した内部文書によると、「キューティーズ!」が炎上して宣伝ポスターやあらすじの差し替えを行った後、関係するマネージャーやディレクターが対策について協議したとのこと。その結果、対策チームはNetflixのアルゴリズムに焦点を合わせ、「可能な限り『キューティーズ!』を映画の検索結果画面に表示されないようにする」という方法を採用したとされています。

具体的には、「キューティーズ!」はNetflix内の「coming soon(近日公開)」「popular searches(人気の検索)」といった主要カテゴリから削除され、「cute(かわいい)」などの関連ワードで表示されなくなったそうです。また、「cuties(キューティーズ)」や「mignonnes(『キューティーズ!』のフランス語タイトル)」というワード検索を行った際に、性的な作品や子ども向けの映画が表示されないようにした他、「pedo(ペド)」などの問題があるワードの検索結果からも「キューティーズ!」を除外したとのこと。

元々、「pedo」で検索して「キューティーズ!」が表示されることはなかったものの、Netflixのアルゴリズムは検索ワードとユーザーが視聴したコンテンツを追跡して分析を行います。つまり、「pedo」で検索したユーザーが最終的に「キューティーズ!」を視聴するケースが増えた場合、最終的に「pedo」で検索すると「キューティーズ!」が表示されてしまう恐れがあったそうです。

Netflixの内部文書によると、今回の対応はポスターに関する報道を最小限に抑えつつ、「キューティーズ!」のページを削除したり、配信日をズラしたり、配信を取りやめたりしたように見えるのを避けることが目標でした。そのため、あくまで「キューティーズ!」のページをプラットフォーム上に維持したまま、可能な限り目立たないようにするために最善を尽くしたとのこと。



Netflixで配信する映画を事前にチェックする担当チームは、2020年1月16日の時点で「ダンスシーンは11歳の少女が指をしゃぶる様子をスローモーションで撮影したり、股間や後ろ姿をクローズアップしたりと、挑発的で性的な内容であり、時には視聴が不快になるシーンもあります」として、視聴者から反発が起きる可能性を指摘していたそうです。しかし、Netflixはあらすじの中でトゥワークを「sensual dance(官能的なダンス)」と訳したり、オリジナルポスターより挑発的な独自の宣伝ポスターを作成したりしました。

従業員の中にはあらすじやポスターの組み合わせに不快感を覚える人もいたそうですが、そもそも映画を制作したのはNetflixではないことに加え、サンダンス映画祭で高い評価を得た実績もあったことから、声を上げようとする人はほとんどいなかった模様。Netflix内では特定の国で問題視されるコンテンツを報告するガイドラインがあったものの、「未成年の微妙な描写」に関する標準化されたガイドラインはありませんでした。また、当時は一連の作業が新型コロナウイルスのパンデミックに伴うリモートワークで行われたため、従業員同士のコラボレーションも困難でした。

Netflixでは配信される映画の宣伝方法を事前に監督と共有しない場合も多く、「キューティーズ!」のドゥクレ監督はポスター公開後にSNSで攻撃的なダイレクトメッセージを受け取るまで、映画の趣旨にはそぐわない挑発的な宣伝ポスターが作られたことを知らなかったそうです。結果的に、宣伝ポスターとは関わっていないドゥクレ監督の下にも嫌がらせや脅迫が届いた他、映画に出演したキャストもさまざまな被害を受けたとのこと。炎上の後、Netflixは宣伝ポスターについて謝罪したほか、共同CEOのテッド・サランドス氏は直接ドゥクレ監督に謝罪の電話をかけました。

Netflixの内部文書に記された「事後分析」は一連の炎上騒動について、「この事件は、私たちがNetflixを単なるコンテンツの導管とみなしていることを明らかにしました。対照的に、Netflixの加入者らは私たちを情報源・著者・プレゼンターだとみなしています」と指摘。あくまでNetflixはサンダンス映画祭の後で「キューティーズ!」の配信権を買い取った立場であり、映画制作や内容に関与したわけではありません。しかし、ユーザーや外部の人々からすると、Netflixが制作したコンテンツと配信権を買い取ったコンテンツの区別はないことを、Netflixは「キューティーズ!」の炎上を通じて理解したとのことです。