この記事をまとめると

■EVの駆動用バッテリーはクルマとしての用途を終えた後も定置型蓄電池として利用可能

■初代リーフのバッテリーはさまざまな用途で二次利用されている

■ライフサイクルで考えた場合、積み替えた再利用バッテリーのCO2排出量はゼロになる

EVのリチウムイオンバッテリーは再利用が可能だ

 エンジン車を使い終わったら素材へ戻すリサイクルをすることになるが、電気自動車(EV)は素材へ戻す前にもうひと働きできる。EVで使われる駆動用モーターは半永久的であり、車載のリチウムイオンバッテリーは、クルマとしての用途を終えた後もまだ6〜7割の容量を残す。そこで定置型の蓄電池として利用する道がある。

 ではなぜEVで使わなくなったリチウムイオンバッテリーにまだ6〜7割の容量が残るのか。

 スマートフォンや家庭電化製品などの利用でわかるように、一般的に電池はある一定の消費電力で利用される。このため、定格出力と呼ばれる仕様諸元がある。定格出力とは、ほぼ一定の条件で安定して出せる電力をいう。

 一方、クルマの場合はエンジン車であろうがEVであろうが加減速を頻繁に行い、高速道路への合流などではさらに強い加速を求められ、使う出力の変化が大きい。そうした瞬発力を発揮できるのは、バッテリー容量に余力がないとできないのである。

 加速が悪くなってきたところでEV用としてのバッテリー寿命が来るため、定置型のように定格出力が得られれば使える広く一般的な電気の利用に対しては、まだ6〜7割の余力が残っているということなのだ。

再利用バッテリーのCO2排出量はゼロになり環境性能が高い

 日産自動車が初代リーフを発売する前に創業させたフォーアールエナジーという会社は、EVから外したバッテリーパックをバッテリーモジュールに分解し、モジュールごとの容量を短時間で検査する技術を持っている。

 初代リーフの場合、1モジュール内に4セルのリチウムイオンバッテリーが入っており、より精密な容量検査を行っている。検査によって3つの水準に格付けする。一番上の良品はEV再利用できる。2番目は電動フォークリフトなどで使えるし、あるいは災害時の支援用蓄電池としての利用も可能だ。3つ目の一番下の水準でもスマートフォンへの充電器や画面を使った料理のオーダー機能などへの利用が可能だ。

 フォーアールエナジーでは、JR東日本の踏切で停電が起きたときの支援用に、リーフから外した再利用のリチウムイオンバッテリーを提供している。従来、鉛バッテリーを使っていた時は頻繁に交換が必要だったが、リチウムイオンバッテリーにすれば中古の二次利用でも長期間交換せずに済む。また、4割ほどの原価低減にもなる。

 再生可能エネルギーである太陽光発電や風力発電の一時的な蓄電にも、EVで使い終えたリチウムイオンバッテリーの二次利用で十分役立つ。

 クルマとしてのライフサイクルで考えても、素材へのリサイクルの前にリチウムイオンバッテリーとして再利用ができ、単純な二酸化炭素(CO2)排出量比較はできないのである。ライフサイクルの試算方法自体がすでに前時代的であり、21世紀の技術や製品に適した再利用を含めた試算が必要で、EVとハイブリッド車(HV)のCO2排出量がライフサイクルで同等などと語るのは、無知による事実誤認だ。

 初代リーフでは、バッテリー積み替えに再利用バッテリーを使うことで20万km近く走った例もある。この場合、積み替えた再利用バッテリーのCO2排出量はゼロだ。21世紀になって20年も過ぎたいま、前世紀型の机上の計算ほどあてにならないものはないのである。