この記事をまとめると

■筆者はアメリカの刑事ドラマ好き

■英語台詞&日本語字幕で見ると登場車種の「車名」が省かれることが多い

■じつはアメリカドラマでは「車名」が大きな意味をもつ

セリフで「車種」を言っても字幕では「日本車」などと訳される

 筆者はケーブルテレビでアメリカのテレビシリーズ(テレビドラマ)をよく見ている。とくに警察ものが大好きで、いまは「MIAMI VICE(マイアミ バイス)」や、「LAW&ORDER(ロー&オーダー)」シリーズなどの制作にも携わっている、“ディック ウルフ(Dick Wolf)”が手掛ける、“シカゴシリーズ(シカゴ ファイア、シカゴPD、シカゴ ジャスティス、シカゴ メッド)”のなかの、「シカゴPD」にはまっている。

 アウトローな捜査手法も辞さない、ハンク ボイトがボスであり、シカゴ警察21分署にある、凄腕刑事たちで構成される特捜班が日夜凶悪犯罪捜査に奔走するといったドラマである。以前はジェリー ブラッカイマー製作の、「CSI:科学特捜班」、「CSI:ニューヨーク」、「CSI:マイアミ」が大好きで視聴していた。

※画像はイメージ

 ただ、これらお気に入りの番組でひとつ気になることがある、それは翻訳内容である。筆者は英語がペラペラ話せるわけではないが、視聴する時は必ず二か国語を選択し、音声は英語で字幕を入れて見るようにしている。すると、原文(つまり英語)ではセリフが、たとえば「トヨタ カローラ」というように、メーカー名や車名になっているのに、日本語訳では「日本車」や「ドイツ車」と訳されているのである。筆者が見ているケーブルテレビでは、本編放送中は番組宣伝以外テレビコマーシャルが入らないが、地上波などで放送する時も考慮(スポンサー忖度?)した、“大人の都合”で翻訳されているのかもしれない。

 アメリカではローンを利用する時の審査などの仕組みもあり、新車を購入できるひとでも、“身の丈(収入や資産状況、すべてのローンなどの返済状況などが審査され、結果的に欲しいクルマが買えるほどの十分な融資額がおりないこともある)”に合ったクラスの車種しか買えないし、ローン審査がそもそも通らず(アメリカでは現金での新車購入は原則できない)中古車しか買えないひとも多くいる。つまり、劇中のセリフで車名が出てくるのはそれ相当の“意味”があるのだ。

 たとえばある番組で、捜査会議のシーンの時、ホワイトボードに容疑者のクルマが「ポンティアック アズテック」と書かれていたが、日本語字幕のセリフでは「アメリカ車」となっていた。アズテックは2000年から2005年にラインアップされていた、アメリカンブランドのなかでは、クロスオーバーSUVの先駆的モデルだが、その不格好に見えるスタイルもあり不人気車となっていた。しかも、ポンティアックはGM(ゼネラルモーターズ)のブランドだが、とっくの昔に廃止となっている。

 クルマにそれほど興味がないひとでも、廃止となったブランドで、しかも聞いたこともない低年式モデルということで、「安く買えるクルマ」という印象を持つし、クルマに興味のあるひとならば、さらにそのスタイルや不人気だったのがわかり、当然低年式車なので中古車ならば、とっくに安く買うことができるので、なんとなく容疑者が低所得者であることが想像できるのである。

 聞いた話では、たとえば中古車であっても高年式のホンダ車などでは、中古車ローンでも利用して買おうとしたならば、審査を経て決まった融資額が車両価格に届かなかったり、金利が高くなったりして、おいそれとは買えないのが現実である。以前、レンタカーを借りようと、レンタカー会社のカウンターで黒人女性のスタッフとやりとりをしていると、「私、最近中古なんだけど、高年式のホンダ シビックを買ったのよ」と嬉しそうに自慢してきた。

 また犯罪被害者が、トヨタ カムリの新車に乗っていたという設定もあった。カムリは“アメリカでは“カローラ”のようなもので、“中間管理職のお父さんの通勤用のクルマ”的なイメージとなっている。とくにカムリに興味があって乗っているというよりは、壊れにくく、燃費も良く、そしてリセールバリューが良いといった現実的な理由で乗っていることが多い。そのため、あくまで筆者が視聴した印象だが、犯罪被害者がカムリに乗っていたということで、しかも新車なので、一般的な中産階級の市民、日本的に言えば“善良な一般市民”であることをイメージづけているように見える。劇中やセリフでトヨタ車(新車が大前提)が出てくる時は、結構な頻度で、“善良な一般市民”という演出に使われているように見える。

スバルの登場などはアメリカでのいまの勢いを感じさせる

 テレビや映画に限らず、過去には著名な大学教授など、富裕層でインテリジェンスの高い職業に就くひとといった設定では、たいてい新車のボルボワゴンが定番であった(公立の小、中、高校などの学校の先生は給料が安いので中古のボルボといったことも多かった)。しかし、それがいまかなりの頻度でボルボに代わって、スバル アウトバックの時が多い。いまのアメリカでスバル車の評価の高さを感じた。

 アメリカでは映画やテレビドラマのなかでは“意味のある”小道具としてクルマが登場してくることが多い。また、基本的には登場してくる車両において、日本車やドイツ車、韓国車などがメインとして登場してくることはほとんどなく、主役もしくは主役級が乗るクルマアメリカンブランド車が圧倒的に多い。ここだけは都合よく“フィクションだから”と、リアリティの追求は置いといて、アメリカンブランドの最新型車が登場するドラマも目立つ。それでも最近は、劇中で日本車や韓国車がよく出てくるようになってきている。少なくとも風景の一部として登場していないと、アメリカで販売台数が多いことは否定できないので、逆に違和感のある映像になってしまうのかもしれない。

 前述した“シカゴPD”では、特捜班が使う捜査車両は(つまり劇中で頻繁に登場するクルマ)、ダッジ デュランゴ、ラム ピックアップトラック、ダッジ チャージャー、ジープ グランドチェロキー、つまりステランティス傘下のFCA(フィアット クライスラー オートモビルズ)のなかの、クライスラー系アメリカンブランドでそろえられている。いずれもSRT系などハイパフォーマンス系で、当然ながらV8エンジン(もちろんOHV)を搭載しているので、カーアクションでも迫力が違うのは間違いない(FCAが車両協力しているかは未確認)。

 一般的なパトカーはリアリティを出すためなのか、フォードの車両(エクスプローラーやフュージョンベース、あるいはクラウンビクトリア)となっている。

 また、ここ最近日本で放映される、アメリカの“クライムアクション”などとカテゴライズされる、アクション系テレビシリーズでは、麻薬ディーラーなどの犯罪組織が、レンジローバーも含むランドローバー系SUVやジャガー、アストンマーティンなど、イギリスの高級ブランド車に乗っていることが多い。地域(アメリカの)にもよるのかもしれないが、アメリカの犯罪組織ではイギリスの高級ブランド車に乗るのが流行っているのかもしれない。

 同じ女性キャストでも、CSIでは科学捜査班となり、科学者でもあるので、プライベートカーはプリウスとなっていたが、シカゴPDでは現場の刑事ということもあるのか、先代カローラとなっていた。カローラは日本でのヤリス的存在となるので、年齢を問わず女性が運転していることが多い。

 とにかく「なるほど」と思うほど、登場するクルマがストーリーを盛り上げる小道具として使われていることが多いのがアメリカのドラマなのである。日本はまだそのレベルまではいっていない。というよりかは、あえてそこまでストーリーにクルマを絡ませることを意図的に避けているように見える(大人の都合?)。日本では身の丈に合ったクルマ以外でも、購入資金があればたいていのクルマは誰でも買えるので、アメリカほど意味をなさないのも確かである。

 とりあえず、吹替でも字幕でも、アメリカのドラマのセリフで車名が出てくるのは、ストーリー上意味のあることなので、できるだけ原文に忠実に翻訳して欲しいと願っている。