カジュアルにも高級にも使える! フルコース5,000円台の注目フレンチ

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1つの店の中で、座った場所によって注文できないメニューがある。一見、不可思議な仕組みだが、実はスペインのバルなど海外ではよくあるシステムだ。バルと違うのはそれがビストロの5,500円フルコースというコスパの高いものと、11,000円のスペシャルなコースというギャップだろう。友人や恋人、一緒に行く人や食べたいもので店を変えることなく通えるのが「ars」だ。

〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!
食材の高騰などで、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?

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友人や家族と行くならビストロエリアでお得なコースを

「心地よいちぐはぐさ」を意識しているという店内。モダンとシックな空間が共存している。

人形町の駅から路地を入った場所に佇む「ars」は、1軒の店で複数の使い方ができる店だ。
店内に入ると正面に4席のカウンター席、手前に2名席の4つのテーブルが並んでいる。それぞれ、木目調のシックな空間とモノトーンのモダンな空間に分けられており、誰とどんな食事をしたいかのニーズに合わせて座る席が異なっているのだ。

例えば、友人や家族と訪れ、ビストロ風に好きな料理を気分やお腹の空き具合に合わせて頼みたいときは手前のテーブル席へ。恋人や特別なとき、料理をじっくりと味わいたいときはカウンター席に座り、ライブキッチンでシェフたちの動きを眺めながらスペシャルなコース料理に舌鼓を打つ。1つの店でハイクラスなガストロノミーレストランと、庶民的なビストロが楽しめる造りになっている。

そして、気の置けない仲間と気軽に食事を楽しむような「自腹飯」ならば、ビストロ使いがおすすめだ。

フルコースを5,500円で楽しめるビストロエリア

前菜2皿のうちの1つ「3種盛り」。右からタラのベニエ。ラタトゥイユ、鶏肉のバジルペースト。

ビストロエリアでは、50種類にも上るメニューをアラカルトでオーダーできるが、お得なコースメニューも用意されている。そのため、初めての訪問ではコースを頼む人も多いそうだ。

コースはサラダ、前菜2皿、魚、肉とデザートの計6品のフルコースで5,500円とコストパフォーマンスが高い。前菜は、季節の食材を使った冷菜と温菜が提供される。この日は、前菜の3種盛りが供された。

皿の写真右上にあるタラのベニエ(衣揚げ)は、酸味のあるクリームチーズのソースを添えることで夏らしい爽やかさを感じる一品となっている。手前のラタトゥイユはコブミカンで香りを付けているため、アジアのテイストが添えられている。左奥は鶏肉にバジルペーストを和えたもので夏らしい味わいだ。

その日のおすすめの魚で仕上げるポワソン

弾力があり淡白な白身のコチを、コクのあるバターのソースが引き立てている。

コースではこの後、2皿目に温菜が提供され、魚料理(ポワソン)、肉料理(アントレ)となる。

この日の魚料理は、コチにブールブランソースを添えたもの。特注だという鮮やかな青い皿に、白身の魚とソース、旬の緑の野菜が映える。比較的淡白な味わいのコチに、バターがふわりと香るソースが良く合っている。

よく見ると、コチの断面の一部が真珠のような虹色に光っている。コチの脂が浮き出たもので、このような焼きあがりに仕上げるには水分と脂分の割合や温度が重要だという。調理を科学的な観点からも分析し、それを実現させているオーナーシェフの高木氏の技術力の高さがわかる一皿だ。

ボリュームもある房総オリヴィアポークのポワレ

やわらかな食感の房総オリヴィアポーク。脂の甘みと旨味が強い。

肉料理は千葉県産の房総オリヴィアポークのポワレ。やわらかな肉質を持つ豚肉で、噛むごとに甘みのある脂と肉汁が口内に広がっていく。ここに、豚で出汁をとったスープや玉ねぎのピューレとマスタードを合わせたソースがアクセントを加えている。

肉や魚もそうだが、添えている野菜も高木シェフの以前の職場などからつながった生産者から仕入れている。高木シェフのこだわりやこれまでの歴史がそれぞれの料理に盛り込まれているのだ。

コースの最後を締めくくるのはデザート。コストパフォーマンスの良さはここでも発揮され、ヌガーグラッセ、チーズケーキ、テリーヌショコラの3種類から2つを選んだ2点盛りと豪華だ。

アラカルトで居酒屋風の使い方ができる店

ワインはナチュラルワインをはじめ幅広くあり、グラスは常時、白8種類前後、赤6種類前後が用意されている。

5,500円のコースはボリュームもあるため、軽く食事をしたい場合や、自由に食べたいときはアラカルトにしてもいい。

アラカルトで人気なのは、牛タングリエや豚足ガレット、ブーダンノワールなど。品揃えもクラシックがあったり、モダンがあったりと多彩なので、自分の好みに合ったものが見つかるだろう。

もちろんワインも、料理に合わせてナチュラルからクラシックまで幅広く揃えている。グラスも白、赤、スパークリング、ナチュラルワインなどがあり、食事の相手と好みが違っていても、それぞれがワインと食事を楽しめるのがうれしい。

ビストロだけのメニューや、スペシャルなコースでしか味わえないメニューも

ライブキッチンとなっているガストロノミーレストランエリアのカウンター席。

なお、11,000円のコースでは、高木シェフのスペシャリテであるパイ包みとフォアグラ、パテ・ド・カンパーニュを使ったパテバーガーが楽しめる。このうち、フォアグラはビストロエリアのアラカルトでも注文できるが、ほかの2点についてはコース以外では食べることができない。それだけ、11,000円のコースは特別感があるのだ。

通常、高級なディナーに興味を持ってもらう仕掛けとしてランチがある。同店でも、ローストビーフ丼や、おまかせのビストロランチなどお得なランチメニューを用意しているが、ディナーの時間帯の中でも同様の効果を果たしているのが、この2つのスタイルの共存だ。

ビストロエリアで気軽にフレンチに触れるなかで、特別感のあるガストロノミーエリアにも興味を持ってもらう。一方で、スペシャルなコースを堪能しながらも、アラカルトメニューを作るシェフの様子や料理を見て、ビストロエリアにも期待を感じてもらう。全く異なる2つのスタイルを提供しているからこその相乗効果といえる。

次回はスペシャルなコースへと期待が高まる仕掛けづくり

arsは、勤める店のスタイルが異なっていても「高木シェフの料理が好き」というお客様視点から生まれた。

しかし、実際にこの営業形態はオペレーションが大変だろう。ガストロノミーレストランで使う食材とビストロで使う食材はそもそも違う。アラカルトが中心のビストロでは、何が注文されるかわからないため、すべてのメニューの食材を用意していなければならないが、食材の保存方法や加工などすべてがガストロノミーとは異なるからだ。

そんな複雑なシステムを可能にしているのが、高木シェフの多彩な経験だ。
高木シェフは「30歳でやとわれシェフに。35歳でオーナーシェフになる」ことを目標とし、20歳の頃からこの道に入った。ホテルや町中のレストランなど、ガストロノミーレストランからビストロまで様々な店で経験を積み、独立前には経営を学ぶためにレストランのコンサルタント業も経験している。

レストラン経営のための店に合わせたオペレーションの大切さを知っているからこそ、11,000円のおまかせコースを提供する一方で、50種類ものアラカルトを用意したビストロ様式の提供が両立できるのだろう。

arsのaはart(芸術)。rはフランス語でrapport(信頼関係)。sはsouvenir(記憶、思い出)。3つの言葉の頭文字をとりつつも、arsはラテン語で技術という意味もある。

とはいえ、このスタイルは経営者視点で生まれたものではない。もともとは、ガストロノミーレストランやビストロ時代に高木シェフのファンとなってくれた客たちの、「どちらの料理も食べたい」という声から発想を得ている。

その結果、フレンチが初めてであったり、堅苦しさに苦手意識があったりする人でも、ビストロで居酒屋のように好きな料理を食べて楽しみ、5,500円の肩ひじ張らない雰囲気のフルコースを体験する。そしてゆくゆくは、ビストロエリアからうかがえる、高い技術と精巧に組み立てられた料理であるガストロノミーのコースを試してみる。そんな段階を経てフレンチの楽しみ方を覚えられる店になった。

そうやってフレンチに親しんだら、次からはシチュエーションに合わせてエリアを使い分けて通える店なのだ。

【本日のお会計】
■食事
・5,500円コース 5,500円
合計 5,500円

※価格は税込


<店舗情報>
◆ars
住所 : 東京都中央区日本橋蛎殻町1-11-9 マガザン人形町 1F
TEL : 050-5872-7936

※本記事は取材日(2021年7月5日)時点の情報をもとに作成しています。

※新型コロナウイルス感染拡大を受けて、一部地域で飲食店に営業自粛・時間短縮要請が出ています。各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いします。

※時期により酒類の提供を中止している場合があります。

取材・文:岡崎たかこ(grooo)
撮影:玉川博之

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