2011年に発売され、10年近く販売された先代アクアと、2021年7月17日に発売になった新型アクア(写真:トヨタ)

トヨタの5ナンバーハイブリッド専用車である「アクア」が、2021年7月19日に初めてのフルモデルチェンジで2代目となった。トヨタ初のハイブリッド専用車として1997年に誕生したプリウスが、初代の5ナンバーから2代目で3ナンバー化したことにより、アクアの誕生は5ナンバーハイブリッド車(HV)を望んでいた消費者に朗報となった。


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待ちかねたようにアクアは売れに売れ、また初代の基本性能が優れていたことを証明するかのように9年半に及び販売が続けられながら、フルモデルチェンジ前となる今年1月から6月までの半年間で2万台以上が売れていた。これは月平均3300台以上である。圧倒的1位を続けるヤリスも、内訳をみればハッチバック車のHVの1〜6月の販売台数は約2万5320台(トヨタ広報による数値)で、月平均は4200台と試算でき、9年以上たったアクアの底堅い人気を裏付ける数値比較になる。

これほど根強い人気の初代アクアのフルモデルチェンジに際し、開発陣がどこを目指すかと論議があったに違いないと想像する。

TNGA採用で、より上質で安心感を得た新型アクア


7月19日に発売された新型アクア。価格は198万円〜259万8000円(写真:トヨタ)

新型開発のなかで、トヨタが現行プリウスから採用しはじめたTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)の存在は大きかったはずだ。TNGAとは、基本性能を磨き上げ、それを同じ車格の他車種へ展開しながら、余裕を残した資源を個々の魅力をより高めることに投じる開発手法だ。これには先々展開される車種の将来像をあらかじめ想定する必要があり、計画的な新車の投入を促すことにもなる。

新型アクアに通じる小型車のTNGAは、まずヤリスが用い、優れた操縦安定性を発揮した。その基本性能はヤリスクロスにも波及効果をもたらし、背の高いSUV(スポーツ多目的車)であるにもかかわらず、あたかも小型ハッチバック車を操るかのような壮快な運転感覚を備えている。そして新型アクアは、前型に比べ、より「上質で、また安心感のある」クルマを目指したと、トヨタコンパクトカーカンパニーの新郷和晃プレジデントは発表の場で語った。


新型アクアのリアビュー(写真:トヨタ)

外観の造形は、前型と似ており、一目でアクアと認識できる容姿だが、車体表面の抑揚や仕上げは明らかに上級車種の仕立てとなり、上質な小型ハッチバック車という憧れを抱かせる。


新型アクアのインテリア(写真:トヨタ)

ダッシュボードも豊かな局面を織り込んだ造形のなかに、近年必要性を高めている大型画面が設置され、新しい時代のクルマの印象を強めた。

車体全長は前型と変わらないが、ホイールベースが5cm延長され、これが後席のゆとりに与えられているという。前型も後席にきちんと着座することはできたが、やや閉塞感があった。まだ実車に触れていないが、後席の居住性がかなり改善された様子に期待が持てる。

車体色について、初代はパステル調をひとつの特徴として華やかかつ軽やかな雰囲気が人気を呼んだ。新型では上質さを色でも示すように、落ち着きのある色合いが揃えられている。外観の造形だけでなく、上質さを強調する色遣いや手の込んだ室内の作り込みなどに、新たなアクアの価値を見出すことができる。

新型バッテリーの採用でプリウスを超える燃費性能に

プリウスやアクアに求められるのは、HVならではの環境性能で、またモーター駆動を採り入れることでエンジン車と異なる走行感覚や装備の充実もある。

環境性能において、新型アクアは前型に比べ、燃費性能を向上させている。前型がWLTCモードで17.2〜29.8km/Lであったのに対し、新型は33.6〜35.8km/L(ただし、35.8km/Lはリチウムイオンバッテリー使用)と、いずれも30km/Lを超えている。当然ながらこれらの数値は、プリウス超えの燃費性能でもある。


ニッケル水素電池 「バイポーラ型」と「従来型」の構造比較(写真:トヨタ)

燃費改善には、ニッケル水素バッテリーの進化が関わっているようだ。新型では、バイポーラ型とよばれる電極を採用し、出力を約2倍に高めたという。これは正極と負極を互いに背面に並べ、効率よく充放電できる仕組みだ。小型化や内部抵抗の低減に役立ち、積載性や優れた充放電が可能になる。エンジンとモーター、燃料タンクとバッテリーというように部品点数の多くなるHVにうってつけの進化といえる。


快感ペダル ペダル踏みかえ頻度低減イメージ(写真:トヨタ)

ニッケル水素バッテリーの進化によって、モーター走行を従来に比べより高い速度まで維持できるようになり、日産のe-POWERドライブのような、回生を活かしたアクセルペダルによるワンペダルに近い操作が可能になっているようだ。ペダル踏み替えの回数を4割ほど減らせられるという(日産のe-POWERは約7割)。


快感ペダル POWER+モード作動イメージ(写真:トヨタ)

RAV4試乗の折にトヨタのHV担当者へ、トヨタのハイブリッド方式ではアクセルのワンペダル操作ができないのか尋ねたところ、できるとの回答だった。だが、従来はその発想はなかったようで、今回、ニッケル水素バッテリーの進化および、もっとも燃費のよい車種にはリチウムイオンバッテリーを採用することにより、日産やホンダが採用するシリーズ式ハイブリッドに近い運転操作ができるようになったといえる。そこが、前型との運転操作における大きな違いだ。


トヨタチームメイト アドバンストパークのイメージ(写真:トヨタ)

アドバンストパークと呼ばれる自動駐車機能の作動で、ヤリスは前進と後退の切り替えを運転者が操作する必要があったが、新型アクアではモーター走行領域が増えたことでそれも自動で行えるようになった。モーター駆動の利用幅を広げると、便利な装備の充実をはかれることを示している。

そのほか、100V・1500Wのアクセサリーコンセントをすべての車種に標準装備したことにより、駐車中に非常時給電モードを選ぶと、そこから家庭電化製品のための電気を取り出すことができる。ただし、電気自動車(EV)のように、自宅へ給電できるわけではない。

EVが注目される中で新型アクアの商品価値とは

新型アクアは、単に燃費のよい5ナンバーハイブリッド専用車という価値だけでなく、自動駐車や電気の取り出しなど、暮らしにより近づいた価値を備えたHVになった。これまで約187万台(そのうちプリウスCとして販売されたアメリカは約24万台)が販売された前型同様、より多くの人に愛される5ナンバーハイブリッド専用車へ、新型アクアは見事にモデルチェンジしたといえるのではないか。


新型アクアの走行イメージ(写真:トヨタ)

新型アクアは、商品性に優れるHVだが、豊田章男社長が唱える「もっといいクルマをつくろうよ」という路線の進化した姿だ。一方、豊田社長は「100年に1度の大変革」が自動車業界に訪れているとも述べており、変革とは、根本から変えて新しくする意味で、消費者の気持ちや行動まで変えてしまうEVこそがその象徴といえる。

ウェル・トゥ・ホイールなど、単にCO2排出量を机上で試算するだけでは計り知れない価値がEVにはある。そこを正しく消費者へ伝える必要があるのではないか。あとは消費者の選択だ。