子どもを縛る「呪いとなる言葉」とは、いったいどんなものなのでしょうか(写真:itakayuki/iStock)

子どもの将来はどんな親でも気になることでしょう。だからといって「将来何になりたいの?」と押しつけがましく質問すると、子どもは困ってしまいますし、「自分は夢がない人間なのだ」と考えてしまいます。

子どもを縛る「呪いとなる言葉」について、坪田塾塾長であり、『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40あげて慶應大学に現役合格した話』でも知られる坪田信貴さんの新刊『「人に迷惑をかけるな」と言ってはいけない』から抜粋してご紹介します。

将来の夢がないといけないのか

塾の面談や講演会でよく相談されることの1つに、「うちの子は将来の夢がなくて……」というものがあります。

親は子どもに「夢を持ってほしい!」と思うものですよね。それで「将来なりたいものはないの?」と詰め寄ってしまう。でもこれは僕に言わせるとNGです。

僕は「本当にやりたいことをやろう、ワクワクすることを選んでいこう」という話を、塾でもよくしています。それを受けてでしょうか、「私も子どもに同じことを言っているのに、うちの子はやりたいことがないと言うんです。夢がないんです。そういう場合はどうしたらいいんですか?」という相談をよくいただきます。

「将来なりたいものはないの?」という質問自体は、「将来これをやれ」と言っているわけではなく、「やりたいことをやったらいい」と伝えています。それはいいことです。

でも、少し考えてみればわかると思うのですが、「将来何になりたいのか」なんて、結構むずかしい質問なのです。

そもそも、「将来の夢」と言われても、自分の知識や経験の外にあるものを考えることはできません。たとえば、あなたは、スリランカに行ったことがなく知識もないのに「スリランカのどこに行きたいの?」と聞かれたとしたら、どう答えますか?

「名前はわかんないけどお寺かな?」

「お茶の美味しいところとか?」

そんな答えになってしまうのではないでしょうか。それと同じです。

子どもはどんな職業があるのかを知らないし、名前は知っていても仕事の内容をよく知りません。わからないことを聞かれて「どうして夢がないの? あなたの人生なんだからちゃんと考えて」なんて言われてしまうのです。

子どもから見ても、「なんでそうなるの?」と言いたくなるところかもしれません。

出会う大人が親・先生・先輩・店長では職業は選べない

子どもに将来のことを考えてもらいたければ、やみくもに「将来何になりたいの?」と聞くのではなく、その子の性格や価値観などと照らし合わせて考えながら、「こういうことをするのが面白いんじゃない? ワクワクするんじゃない?」と提示することが大事です。

「なりたい職業ランキング」は日本FP協会や第一生命、ベネッセなどが毎年調査をして発表しています。ランキング上位に挙がるのはだいたい同じで、スポーツ選手、保育士、学校の先生、お医者さん、警察官、パティシエ、研究者、ゲームクリエイターといった職業名が並びます(2020年はリモートワークの影響もあってか会社員もランク入りしました)。高校生になると「公務員」や「事務員」などが登場するものの、たいして変わらない印象。要するに、自分にとって身近な職業を答えているのです。

ある進路指導の専門家が、「子どもが大人になるまでに出会う大人は、親、先生、先輩、店長の4種類だ」と話されていました。確かにそうなのです。小さい頃に身近な大人は親と先生で、部活に入れば先輩、アルバイトをはじめたりすれば店長と出会いますが、それだけ。そうすると、「親みたいになりたい」「先生みたいになりたい」「先輩みたいになりたい」「店長みたいになりたい」と思うしかないですよね。

またこの方は、親が子どもに「こうなってほしい」と思うものがあれば、親自身が何かを目指して取り組んでいる姿を見せることが一番近道だという話もされていました。大きな夢を持ってほしいなら、親自身が大きな夢を持って頑張っている姿を見せればいいのです。僕も本当にそうだと思います。

少し前、関西で特に人気のあるお笑いコンビのAさんと一緒に食事をしたとき、この話になりました。

Aさんが「娘にはでっかい夢を持て、一度きりの人生大きなことやろうぜと言っているのに、この間聞いたらパティシエになりたいって言うてて」とおっしゃるのです。もちろん、パティシエが悪いわけではないけれど、Aさんは「パティシエって!」と思ったらしいのです。

僕は、Aさんがたとえば「東京でこういう冠番組を持つ」とか「世界で活躍する」という夢を持って挑戦している姿を見せればいいんじゃないですかと言いました。Aさんは「確かにー!!」とのけぞっていました。

その子にどんなワクワクを提示すればいいかというのはとても大事です。もし、どんなことにワクワクするのかがわからなければ、パティシエのどういうところに惹かれているのか、聞いてみたらいいのです。

ものづくりが好きなのかもしれないし、人に喜んでもらいたいのかもしれません。

そうした価値観に沿ったうえで、世界一のパティシエになろうとか、ジャスティン・ビーバーに指名されるパティシエになろう、いくら食べても体にいいお菓子を作れるパティシエになろうと考えたら目が輝くかもしれません。それだって「でっかい夢」です。本人の価値観に沿って「じゃあ、こんなでっかい夢はどう?」と提案してみたらいいのです。

子どもに合ったワクワクを見せていますか?ビリギャルのさやかちゃんに慶應をすすめたのも、「慶應合格」がさやかちゃんに合ったワクワクだったからでした。

僕がいる塾に来たさやかちゃんは当時偏差値30の学年ビリ。金髪で服装も派手なギャルでした。そのさやかちゃんに「志望校どうする?」と聞いたら「大学の名前とかよく知らないしわかんない」。「東大って知ってる?」と聞くと、さすがに知っていました。でも「分厚いメガネかけて、シャツもインしちゃっててダサイ男しかいないからイヤだ」って言うのですね。100%偏見ですけど。でも、この答えで僕はさやかちゃんの価値観をうかがい知ることができました。

「じゃあ、慶應はどう? 慶應ボーイって聞いたことない?」と聞くと「聞いたことあるある! イケメンでしょ? 櫻井翔くんでしょ?」

さやかちゃんの目に少し輝きが見えました。

「慶應目指す?」
「でも、すごい頭いいところでしょ。さやか超バカだよ。みんな絶対無理だって言うよ。慶應目指すなんて言ったらバカにされるに決まってる」
「じゃあさ、そんな君が慶應に受かったら、超ウケない?」
「超ウケる!」

さやかちゃんは笑い出しました。それで慶應を目指すことに決めたのです。

ここでのポイントは、「今の偏差値から考えてここが狙いどころ」という合理的な理由や、「就職に有利だから」とか「名門大学だから」といった大人の考えがちな理由ですすめたわけではないというところです。金髪ギャルのさやかちゃんは、キラキラした人たちが周りにいて、その中心にいる自分にテンションが上がるのではないかと思って伝えたのです。

プラチナカードで子どもの価値観を知る

僕は塾ではじめて会う子どもたちによく「プラチナカード」というのを書いてもらいます。今、神様が目の前に現れて、キラキラ輝くカードをくれたとします。そこに書いたことはなんでも叶います。君はなんて書く?というものです。

「東大に合格」「ハーバード大に合格」「お金持ちになりたい」「海賊王になる!」「お母さんに家を買ってあげたい」「アラブの石油王と結婚」……。

こんなふうに、なんでもいいから書いてもらいます。すると、その子が大事にしている価値観が見えてきます。

「東大に合格」「ハーバード大に合格」と「海賊王になる!」は実は共通していて、競争に勝って一番になることを重視していると考えられます。


「アラブの石油王と結婚」も、本当に中東系の顔が好きで結婚したいと言っているわけではないでしょう。「お金持ちになりたい」と同じで、安定していることが大事だという価値観なのです。

「お母さんに家を買ってあげたい」という子は、お世話になった人に恩返しをしたいという浪花節的な価値観を持っています。

その子に「こういうことをしたい」「これが好き」というものを聞いて、その本質的な部分を見据えて「じゃあ、こうなったら最高だよね」と最上級バージョンを提示できたら、子どもの目はイヤでも輝きます。

それをせずに「将来なりたいものないの?」と聞くのは意味がありません。というより、逆効果。「自分はやりたいことがないんだな」「夢を持てない人間なんだな」と思わせてしまうだけです。

なりたい職業を聞く前に、好きなことや大切にしている価値観を聞いてみてください。そのうえで、決して押しつけることなく、「こんな職業があるよ」「こんなのもいいんじゃない?」と教えてあげましょう。