ライザップの稼ぎ頭であるボディメイクジムもコロナ禍が直撃した(記者撮影)

数多くの不振企業を買収した結果、経営が傾いたRIZAPグループ(ライザップ)。買収した子会社の立て直しに注力し、2019年、2020年と2期連続の最終赤字に陥った(いずれも3月期)。

メインバンクであるみずほ銀行などはライザップに対する融資姿勢を厳格化し、買収の過程で膨らんだ借入金の返済を進めさせるため、ライザップに不振事業や赤字子会社の整理を迫った。

銀行からの信頼回復に「手応え」

「『いつまでにどういう会社を売却します』と、経営トップとして約束したことを月単位で守ったことが信頼回復につながった。これまでは人(部下)を介して自分の意思が金融機関に伝わることでボタンの掛け違いも生じていた。正直、銀行との信頼関係は悪化していた」

5月に東洋経済の取材に応じたライザップの瀬戸健社長は、心なしか安堵の表情を浮かべたようにみえた。

銀行からの信頼を回復できたと瀬戸社長が手応えを感じたのが、2020年8月に行った融資枠契約の更新だ。みずほ、りそな、三菱UFJの3行と2019年5月に結んだ同契約の更新交渉に自ら臨み、子会社の売却計画などを明確に示した。

銀行との直談判が功を奏し、総額64億円で融資枠契約を更新。その後、日本文芸社などの未上場子会社3社を売却し、瀬戸社長は銀行との約束を果たした。テレビCMで耳なじみのフレーズどおり、「結果にコミット」したわけだ。

一時は銀行借り入れの返済を一気に求められるという最悪の事態まで覚悟していたが、それは杞憂に終わった。

5月14日に発表したライザップの2021年3月期決算(国際会計基準)は、営業利益が12億円(前期は7億円の赤字)、最終利益が15億円の黒字(同60億円の赤字)となった。営業利益、最終利益ともに3期ぶりとなる黒字を達成したことも、信頼回復の一歩になると瀬戸社長は強調する。

2020年の1回目の緊急事態宣言時に、ボディメイクジムや子会社のアパレル店舗などを休業したことで、2021年3月期の売上高は前期比12%減となった。3回目の緊急事態宣言を受けて、店舗を中心とする減損損失も追加で計上した。そのような中で営業利益を黒字化できたのは、瀬戸社長が「断捨離」と称する販管費削減の効果が大きい。

固定費を削減し、現預金を積み上げ

リモートワークへの切り替えによる余剰オフィスの見直しや出張取りやめで、地代家賃や旅費交通費を削減。2021年3月期はグループ全体で固定費を112億円削減した。

コロナ禍を機に人員も減らした。ゲームソフトなどを販売するワンダーコーポレーション、アパレルのジーンズメイトや夢展望などの上場子会社で希望退職などを実施した。子会社売却の影響も含め、2020年3月末に6498人だった連結従業員数は、2021年3月末には5641人と約1割減少した。

断捨離によって手持ちのキャッシュも増えた。

コロナ影響に加えて銀行借り入れの返済を一気に求められた場合、2020年3月末で270億円あった現金および現金同等物が半減することも想定していたと瀬戸社長は語る。だが、実際には2021年3月末で337億円と逆にキャッシュを積み上げることができた。他方で有利子負債を約130億円減らした。

2022年3月期は営業利益70億円、最終利益30億円を見込む。売上高は多くの店舗で臨時休業を余儀なくされた前期とほぼ同水準の1700億円で計画した。「今は夢を語るより、収益をあげる体制をしっかりと作る。コロナ禍を乗り越えたときを見据えて、企業としていかに強靭な肉体になっているかが重要」。瀬戸社長はそう気を引き締める。


ライザップの瀬戸健社長は「今は収益をあげる体制をしっかりと作る」と気を引き締める。写真は2019年6月撮影(撮影:尾形文繁)

ただ、強靭な肉体の骨格に相当する人材面は不安のある状態だ。

瀬戸社長は、「中堅以上の社員を多く中途採用していたことで『船頭』だけが増え、意思決定が遅くなっていた」と近年の社内状況を話す。人材の断捨離もやむなしというスタンスだが、経営幹部層の退職による人材の希薄化を懸念する声は社内でも少なくない。

人材を補おうにも、「人材エージェント会社によるライザップの評価は芳しくなく、人の確保が難しい」とライザップ関係者は指摘する。

リストラ続きの子会社に募る不満

一方、ライザップは断捨離が一段落した後も子会社にさらなる人員削減を要求し続けており、子会社の間に不満がたまっている。

実店舗の多いアパレルや物販などが中心の子会社群は、ECシフトなどデジタル化対応に必要となる人材への入れ替えには同意している。しかし、「瀬戸社長の右腕であるライザップ役員は、『利益を改善するために人を切れ』と言ってくる」(子会社関係者)。親会社であるライザップの要望は目先の利益を優先したコスト削減策としか受け止められていない。

子会社の不満を買いつつも人員削減を進めるのは、ライザップと銀行の関係回復が道半ばであることが影響していそうだ。信頼回復が進んだとはいえ、最悪期を脱したにすぎないと表現するほうがライザップの実態に即しているだろう。

ライザップの決算短信などには、事業継続にリスクがあることを示す「継続企業の前提に関する重要事象等」の記載が残る。親会社のライザップだけでなく、子会社に対しても銀行の融資姿勢は厳しいままだ。

コロナ禍を背景とした断捨離で経営をスリム化し、利益を出しやすい体質に改善したライザップ。だが、企業として成長を期待できるような健康体を作り上げるまでには至っておらず、再建はむしろこれからが本番だ。